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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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福利厚生

 山中を川が走り、切り立った崖に沿う形で作られた村、ニュースナカ。

 今回の目的地に着いたのは、王都を出発してから4日目、陽が落ちる直前だった。高い岩場や木々に阻まれて、結構前から太陽は見えていないのだけど。

 侵入個所を限定して魔物被害を抑える為、家屋の多くは崖を結ぶ橋の上に作られている。他には、崖を掘り抜いて居住空間にしているところもあるね。


 ニュードさん、また顔青いけど、高いところ苦手ですか?


 彼等、烏木の牙の誤解は解けた。

 事前に契約した以上の依頼を強要しない事、行き過ぎた接待に思えたかもしれないけれど厚意以上の意図はない事、貴族の信用に関わる範囲でないなら待遇は彼等の希望に合わせる事、しっかり説明してくれたウォズに感謝です。

 でも、時折祈りを捧げてくるようになったのは、なんでだろ?


「それでは、出発前に説明した通り、小型魔導変換器を設置してもらいます。その後、10日間毎に魔力充填器を交換、同時に設置個所の周辺を探索して、遭遇した魔物を記録してください」


 到着日くらい、ゆっくりしてくれてもよかったのだけれど、皆さん早速山に入るみたい。今日の内に少しでも進んで、比較的山の浅いところで1泊した方が、深層に入る翌日以降の負担が減るらしい。


「その時、魔物は討伐していいんですかい?」

「ええ、問題ありません。その魔石も魔物素材も扱いは、皆さんにお任せします」


 グリットさん達は、おおっ、と騒めく。

 依頼中、拘束する分の費用は払うけれど、別に稼ぎが有ると無いとでは意欲が違うと思う。それを削ぐような真似はしないよ。


「ただ、魔物の巣を襲撃したり、森を焼いたり、生息状況に大きな影響を与えそうな行為は控えてください。氾濫の兆候や、魔物が増え過ぎて村への被害が予想される場合は、別途連絡してください」


 この世界に電話みたいな長距離連絡手段はないから、村には非常時連絡要員が常駐している。今回、私達の実験用に増員してもらったので、烏木の牙の皆さんとの連絡に使える。三輪のバイクみたいな車種を使って、1日半で王都まで着くらしい。早馬みたいなものかな。

 無線技術は発達してないし、有線で町村までカバーするには、魔物の生息域が邪魔だからね。


「それから、遭遇した魔物の種類、過去に交戦経験のある種族ならその時の体験との比較、魔物の分布、魔物以外の動物の分布、薬草の生息状況等、気付いた事は何でも記録してください」

「はい!」


 4人の男達を諫める役のヴァイオレットさんが、主に報告書を作成する事になるんだろうけど、随分威勢がいい。

 疑いが晴れてから、用意した待遇を一番満喫してるのが彼女だから、その分やる気も凄いのかな。昨日も宿に付帯したエステを受けてくつろいでいたみたいだし。


「滞在時の宿と食事はこちらで手配しています。特に食事は活動の内容次第では不定期になる事もあると思いますので、融通を利かせてもらえるよう依頼してあります。ビーゲール商会の方が巡回に来てくれる事になっていますので、武器の修繕や銃弾の補給、日用品の買い付けも自由になさってください」

「お心遣い感謝します」

「それと、白い箱の魔素収集器は、魔素を圧縮して得られた液体をアルコールに溶かし込んでいます。1~2滴を水に垂らすとポーションになりますから、森を探索する上で必要になったら飲んでください」

「「「「「え゛!?」」」」」


 これが今回の実験の目玉の一つ。

 集めた魔素を魔力充填機に貯め込むだけじゃなくて、他の活用方法を考えた。現状、魔導変換炉から供給している魔力と、辺境で冒険者が倒した魔物から得た魔石で、国の生活は賄われているからね。追加のアピールポイントが欲しいと思ったんだよ。

 で、魔力を貯めてるんだから、飲めば回復もできるんじゃないかと考えた。


 魔力を回復する経口ポーションは、既にあるんだけどね。

 これ、まっずいの。

 スエルチアマリンという薬草があって、これを煎じて薬効を抽出したものが販売されてるんだけど、ムチャクチャ苦い。苦味成分は魔力回復の薬効と紐づいていて、切り離せないらしい。

 研究中に好奇心で舐めてみたんだけど、私がこれを口にする機会は、今後決してない。そもそも、モヤモヤさん回収に余念がない私が、魔力の回復を必要とする事態は世界が滅ぶ時くらいだろうし。


 ただ、この試みは言うほど単純じゃなかった。

 魔力というのは、生物が魔素を吸収した際、エネルギーとして活用する為に、当人の属性に応じて指向性を持たせたものなので、個人差があって他者の魔力同士は反発する。魔力変換器の場合は核としている魔石の属性に準じる。

 例外は無属性だけど、そんな魔石は私以外に用意できない。


 けれど私は知っていた。

 モヤモヤさんは接触するだけで容易に吸収できる。

 その性質は、圧縮しても変わらなかった。過剰摂取しても、許容量を超えた分が全身からゆっくり染み出してくるだけ。私が不快になる以上の害はない。

 変換器の“放出”の魔法付与を、“圧縮”、“液状化”に変えれば、液体魔素も作れた。周辺の魔素を集める技術が無かったから実用化されていなかったけれど、魔素の液状化は過去に事例があった。

 でも、放っておくとどんどん気化して消えていく。私的にはモヤモヤさんが湧いて見えたけども。

 液体魔素を安定に保つ工夫が必要になった。


 水には混じるだけで溶けない事は、魔導変換炉で確認済み。

 物体には染み込み難いけれど、生体が触れると吸収して魔力に変換されてしまう。

 魔法で形状を変えているだけなので、液体でいられるのは短時間。

 これの活用はかなり難しいように思えたけど、掃除機の基盤を金属で作った失敗が活きた。

 有機溶媒との親和性は高いんじゃないかな?

 きっと、スエルチアマリン草も、植物成分が魔素と結びつくんだろうね。


 マーシャが鬼の形相で論文にまとめてくれて、ビーゲール商会の出向者を増員して、今回の実験に間に合うように急いで研究を進めたよ。

 そして辿り着いたのが、度数90以上の蒸留酒。

 溶けた魔素は安定です。

 経口するから、工業用アルコールは避けたよ。


 研究室の成果、苦くないポーションのお披露目です。


 私?

 モヤモヤさんの濃縮液なんて、絶対口にしないよ。


「新しいポーションって、マジか?」

「これでもう、あの苦不味いポーションを飲むのと、命を天秤にかけなくていいんスか?」

「ポーションって、1本で1か月分の生活費が飛ぶのよ。それを必要なだけ支給? 本気?」

「……スカーレット様、俺達騙す、しない」

「探索が楽になったと考えよーぜ。騙されてたとしても、俺達とっくに引き返せないとこまで来ちまってんだしよ」

「至れり尽くせりの待遇の上に、ポーションだもんな。ここまで世話になった分は、探索で活躍して応えようぜ」

「報告書も協力してよ。手なんて、絶対抜けないんだから」

「気に入ってもらえたら、次の依頼も任せてもらえるかもしれねーし、な」

「……スカーレット様に、一生、ついてく」

「オレ、依頼が終わったら、スカーレット様に飼ってもらうって決めたっス」


 気合が入って何よりだけど、今回の実験依頼、ビーゲール商会が全額出資だよ。

 今後の利益を考えたら、これくらいの出費は何でもありませんて、ウォズが綺麗な笑顔で言ってたからね。

 私は計画を立てただけ。貴族組4人揃って遠征なんて、ちょっと欲張り過ぎたかなって思いながら予算申請書類を提出したら、一切の修正なしでOKでした。

 私に感謝、いらないよ?

お読みいただきありがとうございます。

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