王都で情報収集
領都発着場騒乱事件の後、私とキャシーは王都にいた。
襲撃してきた冒険者が保身混じりに吐いた情報の裏付けも取らずに上がってくる報告なんて望んでいない。ヴィムもそのあたりは分かっているだろうから、尋問にはそれなりに時間が必要だと思っている。
その間、全てを任せて研究に戻っていられるかと言うと、そんな訳にはいかない。
とにかく時期が悪い。後詰めに備えないといけないのに、エッケンシュタインのダンジョンへ冒険者が流れるタイミングと合ってしまったものだから、一時的に巡回する冒険者を増やすって訳にもいかない。雇用した兵士や騎士の訓練も順調に進んでいるとは言え、今回の事態の為に増員するほどの余裕は無いんだよね。
そんな訳で、なるべく早く情報を得て体制を整えないといけない。
当然、マーシャやウォズにはそれぞれの昵懇分野での情報収集をお願いしている。
けれど現状、私の殺害を依頼した人物についての手掛かりもない。こんな時、諜報部の協力が欲しいなぁ……とは思うものの、国家の大事でもないのに借りられない。
教国で便利さを知ってしまったからって、すぐに頼りたくなってしまうのは良くない傾向だね。
そこで、私達は王都へやって来た。ここなら国中の情報が集まる。何か怪しい動きだけでも掴めるかもしれない。
もっとも、黒幕が王国にいるとも限らないのだけれど。
様々な貴族と面会して心当たりを聞く。お茶会や夜会に出席して不審な噂を拾う。効率的とは言えないものの、このくらいしかできる事はなった。
なんだけど―――
「ノースマーク子爵の命を狙うとは、命知らずな者もいたものですな。たっぷり痛い目に遭わせてやってください」
「魔導士殿と真っ向から対立ですか。魔王種より丈夫な自信でもあるのですかな? どんな末路を辿るのか、楽しみにさせていただきましょう」
「また愚か者が排除される訳ですか。王国の人間とは限りませんが、世間が平穏に近づくなら結構な事でしょう」
どうも相談した相手の反応がおかしい。
私が無事なのは当然として、敵対した相手がどんな結末を迎えるのかが気がかりの中心っぽい。
他人事には違いないから義憤や同情を期待してる訳ではないとは言え、エンターテイメントと勘違いしてないかな。
私との利害関係を切り捨てる訳にはいかないから情報収集には協力してくれるだろうけど、「スカーレット様を害そうなんて許せませんね!」とか、「ともかく無事で良かった。私も黒幕を追いますよ」とか、もう少し取り繕ってほしかった。
そして、この日は王城で開かれたお茶会に出席していた。
かつて、ジローシア様が主催していた王国中の女性貴族を誘うお茶会。
その交流の場は、現在イローナ様を中心として続いている。ただし、以前と同じって訳でもない。
ジローシア様がご存命の頃のお茶会は自由参加だった。一部、招待状に強制参加を求める文言が遠回しに追加されてたみたいだけども。
今では、イローナ様の他に必ずと言っていいほど出席している御婦人方がいる。エルグランデ侯爵夫人、ノースマーク侯爵夫人……つまりお母様、コールシュミット侯爵夫人、ディルスアールド侯爵夫人、四大侯爵家が揃う。更に三辺境伯家は勿論、カロネイア伯爵夫人やキッシュナー伯爵夫人、国の有力貴族が顔を並べる。
これは、元子爵令嬢で後ろ盾の弱いイローナ様を彼女達が支持するって意思表明に他ならない。
ジローシア様の死去、ファーミール元第2王子妃の受刑で陰った王威を貴族が揃って支えるのだと示す為でもある。
その代わりと言うか、開催頻度は下がっている。参加必須メンバーが増えた分、日程の調整は難しいのだと思う。そんな事情だから、私もイローナ様と現王家を支持しているって周囲に見せる為、できる限りは顔を出すようにしている。
都市間交通網の発達で、領地に居ても容易に招待状に応じられるようになった点も大きい。実際、お茶会の規模は大きくなった。
「キャシーもすっかりお馴染みになったよね」
「……言わないでください。場違い感はまるで拭えていないんですから」
今を時めく飛行列車の開発者に招待状が来ない筈がない。開発者特権で都市間交通網の寄港地になっている事もあって、ウォルフ領も観光地として注目され始めている。勿論、もうじき男爵家を継ぐキャシーへの期待も間違いない。
その割に、本人の委縮は収まる気配がない。
ま、上級貴族が中心のこの場所で、男爵家からの参加はキャシーを入れて片手で足りるので無理もないのかな。
いつもならノーラも居るんだけど、ダンジョンへの対応で手一杯なので今回は不参加となった。出席を強いる傾向にあるとは言え、執務に穴を開けさせるほどでもない。正当な理由でお断りの返事をあらかじめ送っておけば、欠席も許される。
ダンジョンがいきなり拡張したエッケンシュタインの状況は、国中が知るところだからね。
「と言うか、オーレリア様はどうしたんですか? ダンジョンに潜っている場合じゃないですよね?」
「あー、うん。探索に夢中で、招待状を見てもいない可能性が高いかな。ここしばらく、通信もなかなか繋がらないし」
魔力を吸収するって特性上、魔力波通信はダンジョンの中では繋がりが悪い。ダンジョン内で魔法が使えない訳じゃないように、通信機が近くにあるなら通話も可能なんだけど、深く潜ると連絡は届かない。
忘れないようにねって注意喚起に返信はなかった。
「本当に困ったものね」
私達の会話を拾ったのはライリーナ様。
仄かに冷たい風が頬を撫でる。少し苦みの混じった笑顔が怖い。少し後ろには、真面目な顔で教育計画を練っていそうなお母様も視界に入った。
ただの伯爵令嬢だった頃ならともかく、次期侯爵のカミンと正式に婚約を交わした彼女は、本来不参加って訳にいかない。次期侯爵夫人として、イローナ様を支えていかなきゃいけない立場にある。
「仕方のない子でごめんなさいね。まだ責任を自覚していないみたいで……」
「あ、いや、ノーラの助けになっているのは間違いありませんから」
「そぉねぇ……、でも、あの子が楽しみたいだけじゃないと言い切れるかしら?」
ごめん、オーレリア。
フォローの言葉が見つからないよ。一般的に、ダンジョン探索って貴族の仕事じゃないからね……。
「本当にごめんなさい、アウローラさん」
「いえ、ライリーナ様。エレオノーラさんにとって、オーレリアさんが頼りになると言う事でもあるのですから、大目に見ましょう。今はまだカロネイアの御令嬢、未成年の彼女がお茶会よりダンジョンを優先しても不審に思う方は少ないでしょう」
「とは言え、とても褒められる話ではありません。戻ってきたらきちんと叱っておきます」
「程々にお願いしますね。レティが振り回した結果ですから、私も大事にしようとは思いません」
あう……、私にまで飛び火した。
確かに、私がダンジョンを拡張していなければ、起きなかった事態ではあるけども。
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