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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

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スカーレット・ノースマークは殺せるか?

 今世の私は、自分で恥じるような人生を送っていない。


 けれどそれは、誰の恨みも買わない生き方って訳じゃない。

 私が発展させた技術で、職を追われた人がいるかもしれない。長年積み重ねてきた労力を一瞬で瓦解させた例だってあると思う。

 回復薬は大勢を救って薬学を大きく進歩させたけど、反面、それまで培われてきた技術のいくつかは価値を失った。飛行列車の開発でデイジーさんやカーレルさんのように新しい事業へ乗り出した人がいる一方で、昔ながらの業務形態にこだわって没落した人々もいる。


 聖女基金はそう言った方々への支援もできる限りで行っている。新技術がもたらす利益の一部は、革新に伴う騒乱解消へ割いてある。私は研究者であると同時に貴族でもあるから、社会への影響に無頓着ではいられない。

 同時に、それで全てに手を差し伸べられる訳じゃないとも知っている。


 そして、帝国との戦争やオブシウスの集いの解体、敵対したガノーア子爵の凋落、腐敗しつつあった騎士団への警告に、神殿の改革、王国としては悪くない結果に終わったこれらの行いについても、裏で多くの遺恨を生んだのだろうってくらいは理解できる。


 何なら貴族として贅沢が許されているだけで嫉妬を買うし、次々研究成果を発表していれば羨望と同時に妬みも招く。生活や仕事が上手くいかない人の中には、私が生まれと才能に恵まれただけで成功を重ねているって憤りから殺意を芽生えさせる、なんて理不尽もあるかもしれない。


 とは言え、貴族として生きると決めた時点で、故・エッケンシュタイン博士を目指して技術で世間を牽引すると決めた時点で、それらは背負うべき重荷だと覚悟している。

 これも、貴族として人より多く背負う義務の1つだと思ってる。実際、諜報部が暗殺の為に侵入してきた時も、そんな事もあるだろうと受け入れた。

 今更、命を狙われる事自体への驚きはない。


 でも―――


 私の視線は禍々しい気配を発している呪詛魔道具へ向く。


「どうやら、発動させれば精神へ干渉して命を刈り取る魔道具のようですな。刈った命の分だけ効果範囲を広げて、一帯を死で塗り潰す代物でしょう」


 呪詛魔道具には精神へ干渉するものが多い。呪詛で歪めた魔法効果を、虚属性の誘引力で心身へ浸透させる。更に、死への恐怖と絶望に染まった魔力を糧として稼働を続けるんだろうね。

 なんとなく、魔物の死骸と死ぬかもしれないって恐怖を次々吸収して、最終的にワーフェル山を呑み込んだダンジョン化の魔道具に通じるものを感じる。実に忌々しい。


「他国から来た冒険者達を取り押さえようとしたら、咄嗟に魔道具を発動させようとしましたもんで、慌てて腕ごと斬り飛ばした次第でさぁ」

「……そうですか」


 血に塗れた様子を見ても、もう私の心は動かない。心のスイッチを切り替えた以上に、こんなところで呪詛魔道具を発動させようとした連中への同情が消えた。


 私を狙うならいい。

 当然の権利として、抵抗すればいいだけだから。


 けれど、コントレイルの発着場で魔道具を解放しようとした?


 許せる訳がない。未遂ってくらいで酌量の余地はない。

 彼等は私への敵対意思を明確にした。指示した人間がいるならまとめて潰す。誰であろうと逃がす気はない。


「……て言うか、スカーレット様って殺せるんスか?」


 怒りを漲らせる私への気遣いも、空気を読もうって配慮も見せず、グラーさんが素朴な疑問を口にした。

 あまりの内容に、私も少し毒気が抜かれる。


 ヴァイオレットさんは目を吊り上げてグラーさんの頭を叩いたし、私の不興を買ったんじゃないかとスーツ姿の男達は震え上がった。ヴィム首魁の顔色も若干悪い。

 領主で上司の殺害の可不可なんて、どう考えても本人の前で上げる話題じゃないよね。


「私だって、殺されたなら普通に死にますよ?」

「え? でも、いつだったか、ウェルキンから落ちた事もありましたよね。心配して探していたら、ピンピンして戻って来たじゃないっスか」


 ああ、あれは痛かった。

 当然だけど死にたい訳じゃないし、痛いのも嫌だからすぐ治癒するに決まってる。そう考えると、死に難いのは間違いないかな。


 だからって、不老不死みたいに扱われるのは納得がいかない。

 そんな面白そうな研究、手を付けた覚えもないよ?


「俺達に支給されたお守りも桁外れっスよね? 当然、それ以上の守りを展開できる訳でしょう? 遠距離から銃や魔法で不意を突かれる心配もほぼ無い訳だから、ほとんど無敵だと思うっス!」


 純粋な興味として、グラーさんは会話を続けるつもりらしい。

 私は気にしていないとは言え、周囲の視線は盛大に泳いでいる。貴族を殺害する為の方法、このまま聞いていていいものかどうか迷うよね。


「立場的に対策をいくつも講じているのは確かです。でもほとんどは魔法頼りですから、魔力が枯渇すると脆いですよ? 私、オーレリアほど生身を鍛えてもいませんから」

「火属性の魔王種を凍らせて、ワーフェル山を大穴に変えたスカーレット様の魔力って尽きるんスか?」

「先日、ダンジョンに際限なく吸われたばかりじゃないですか」


 完全に底を突いたのはあの時が初めてだった訳だけど。

 基本的にモヤモヤさんはいつでも補給できるから、私にとってダンジョンが一番危険な場所かも知れない。


「それに即死は難しいかもしれませんけど、病気は回復魔法の効果が薄いですから危険を伴いますよ?」

「意図的に致死症に感染させるのは難しいっス!」

「オーレリアくらいの達人なら、私が気付く前に首を斬り取るとかできるかもしれませんよ?」

「実行できる人材が限定され過ぎっス!」


 常時発動しているラバースーツ魔法は防御にも働くから、相当の技量とそれに見合う武器が必要だろうって前提は置いておく。鈍らじゃ無理だね。


「まあ、絶対なんてないからこそ、グラーさん達に護衛をお願いしているんですから」

「……それもそっスね」


 ただのいち令嬢でいられた数年前ならともかく、色んな恨みを買った自覚のある今では護衛の重要性も理解している。キリト隊長達で慣れたって言うのもあるし、本物の悪意を向けられる経験も重ねた。常に誰かに囲まれている状態が落ち着かないって前世の感覚は、すっかり塗り替わった。


 万が一はあり得るのだと思って、グラーさんには職務を全うして欲しい。


「そんな訳で、暗殺は不可能って事ではありません。ヴィムさん、なんなら機会を窺ってみますか?」

「……あはは、身の破滅を賭けて挑むには、成功確率が低すぎますな。愚かな野望は抱かないでおきましょう」


 即死さえ免れたなら常に傍に控えるフランが特級回復薬を常備しているし、呪詛魔道具は私に効果が薄い。虚属性を操れるから、誘引性はいつでも反転できる。

 重病への対策としては、奇跡の霊薬って手段もある。もっとも、霊薬は準備が難しいから最終手段だろうけど。

 易々と殺害されてあげるつもりは毛頭ない。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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