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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

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散策

 水中適応の魔道具を作ってすぐ、私は忙しくなった。

 ある程度の試運転を終わらせれば水中農園を望む研究者に任せるつもりだったのだけれど、そんな便利な魔道具ができたなら海中に研究所を作りたいと言われてしまった。

 優秀だと魔塔から派遣されただけあって、何処かネジが飛んでいるよね。


 魔道具の安全確認まで済ませたなら、海中の一部について使用許可を出すだけの予定だった。けれど、生活の場とするなら話が変わる。生活圏の安全について責任を負うのも、招聘した研究者に適切な活動環境を整えるのも領主(わたし)の仕事になる。


 建物自体は建築物造形の魔法陣を用いればいい。海中の施工とか前例のない工事に挑む必要はない。

 領都のはずれに一見灯台に見える建物を作って、地下部分を海水で満たした。水中部分、水上部分、どちらも生活の場にできる。ついでに長時間潜っていた場合の問題点も焙り出せる。


 とは言え、水中適応の魔道具を生み出した責任もあって、ウォズとフランを伴って海中へ通う日々が続いた。

 農園を作る様子も観察しておく。そちらへ関与する気はないので、地上と同じ感覚で地面を耕そうとして泥が舞い上がる様子を離れたところから見ていた。水中農園を作るって言うなら、その過程も彼等の研究になる。


 ちなみに水中農園の場所はコキオ沿岸部の南端の更にはずれ、私のお屋敷は北端に位置する。こうした研究施設は万一に備えて民家から極力離す為、私は領民に囲まれて暮らすのに抵抗があった事からこうした位置付けとなった。

 それなりに距離があるので、通うには車を手配するか、徒歩となる。先日まで国外にいる期間が長かったし、研究に集中すると屋敷を離れない事も多い訳だから、視察に丁度いい機会だと空路は止めた。


「服に装飾品……、品揃えは十分王都と並べているかな」

「新しい技術が次々と生まれるおかげで、貴族も商人も大勢訪れますからね。王都と離れているからと言って見劣りするような状況は作れません。そのあたりにはきちんと気を遣っていますよ」

「うん、ウォズがいてくれて助かってるよ」


 コントレイルをフル活用して流通に力を注いでいるのは勿論だけど、商業ギルドがしっかり機能していないとこうはいかない。頻繁に出入りするウォズが組織を引き締めてくれている証拠だね。

 私の御用商会にこれ以上負担を強いれないとギルドには別の人間を置いているけど、実質はウォズが掌握しているみたい。商業ギルド立ち上げの時点でストラタス商会は既に南ノースマークで実績を積み上げていた訳だから、力関係は比べるべくもない。


「そう言えば、スカーレット様と2人で街を歩くのはいつかの食事会以来ですね」

「……そうだっけ?」


 この場合、貴族の従者、つまりいつも私と一緒のフランは数えない。大火の後で誘った食事会の時もいたしね。


 視察自体はそれほど珍しくない。徒歩を選択する場合も割とある。

 これも領主業務の一環だと思っているから、研究で集中しているならともかく、執務で缶詰めになっているくらいなら息抜きも名目で出歩く事もある。領主自ら足を運ぶって言うのは領都中に浸透しているから今更注目も集めない。


 でも、誰とって言うのはあまり意識していなかったかもしれない。


「思い付いた時に近くにいた誰かを誘うだけだったからね。特にウォズを避けてた訳じゃないよ?」

「知っています。オーレリア様やエレオノーラ様とご一緒した事はありましたから」


 オーレリアは部屋に籠っているより外を歩く方を好むし、ノーラには経験を積ませる目的で積極的に連れ出していたからね。

 勿論、フランだけ連れてって場合も普通にあった。


 偶々とは言え、巡り会わせが悪いだけで3年となるとなかなか長いよね。


「よし、折角だからいつもと違う事をしよう!」

「いつもと違う事、ですか……?」

「うん。オーレリアが一緒なら冒険者ギルドや訓練場、ノーラなら食べ物、キャシーやマーシャの場合は魔道具関係にどうしても偏るからね」

「ああ、確かに」

「だからさ、ウォズの助言が生かせるところへ行こうよ。商業ギルドに突撃してみるとか、観光場所を実際になぞってみるとか」

「ええ……っと、とりあえず、商業ギルドへの抜き打ちは許してあげてもらえますか。いきなり領主様が現れると大混乱に陥ると思います」

「そう? 引き締めにならない?」

「そのあたりは問題ありません。不正や怠慢には俺がしっかり目を光らせていますから」


 あ、うん。

 にこやかに笑うウォズからは絶大な信頼が窺える。私が掻き乱す必要はなさそうかな。


「それに、観光場所はしっかり計画を練らないと、とても1日では回り切れませんよ。それに、観光客も制限しておきませんと、コキオを歩くように平穏には済まないと思います」

「……そうだった。キミア巨樹や雲上広場は勿論、大型研究成果の展示も人気だもんね。思い付きでする事じゃなかったよ」


 キャシー主導の新型エンジンの試運転とか、実験のスケジュールに合わせて見学ツアーが組まれるくらいだからね。


「うーん、でもこのまま帰るのも勿体ないし、何か適当に買い物に行こう」

「何か欲しい物でもあるのですか? 先程は服や装飾品のお店を覗いていましたが……?」


 興味がないとは言わないけども、私を着飾らせる事についてはフランに任せてある。私の審美眼よりフランのそれを信頼してる。ここで店を見て回る必要性は感じないかな。


「適当に買い物しようよ。無駄に店を回るのも楽しいでしょう?」

「無駄に‥‥‥、ですか? うーん、経験がないですね。どうしても売る側の心理を考えてしまいますから」

「勿体ない! 買う楽しみを提供するのも商人じゃないの? 選ぶ楽しみとか悩ましさとか、知らないままいるのは絶対損だって!」

「え? いや、俺は……!?」


 適当な理屈を並べてウォズの手を引く。遊んで行くのに小難しい話なんて要らない。結果として視察になればいいだけだからね。

 私はそのまま視界に入った雑貨屋へ突撃した。お土産屋も兼ねているのか、巨樹の模型や雲を象ったお菓子も目立つ。


「ウォズはこれが似合うんじゃない?」


 私が目を付けたのは、犬耳型の被り物だった。


「……」


 言われるまま身につけたウォズは、鏡を覗き込んで何とも言えない顔になる。

 ゴールデンレトリバーみたいな垂れ耳って、似合うと思うんだけどな。ちょっと嵌まり過ぎでそのまま撫でる。余計に複雑そうな顔になった。


「……それなら、スカーレット様はこれでしょうか?」


 ウォズに勧められたのは竜角型だった。

 微妙な気分への意趣返しなのか、本気で勧めているのか少し悩む。


「これは強さを象徴してるって解釈でいいのかな?」

「うーん、頑強さより幻想的な印象でしょうか……。あくまで、この中ではと言う選択ですよ?」


 どうも後者の可能性が色濃い。犬耳状態のウォズと同じ顔をしている気がするよ。


 その後はオーレリア達なら何が似合うかと盛り上がり、ウォズの普段着を私が気ままにコーディネートし、休憩に寄ったお店のお菓子の甘さに辟易して、巨樹の近くで足湯を堪能していたところ、声をかけてきた青年に似顔絵を描いてもらって帰った。

 とても楽しい1日だった。

今回で年内最後の更新となります。

本年は大きな転機の年となりました。来年は書籍、コミカライズの準備と初めての経験が控えております。こんな機会に恵まれたのも、応援してくださる皆様のおかげです。少しでも良いものを届けられるように、励みたいと思います。

勿論、更新の方も止める予定はありません。来年も引き続き応援いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最新まで追い付きました。 領都と隣の領都の間に細いパイプラインを通して、空間魔法で径方向に拡張、長さ方向に圧縮したら擬似的なワープ門になりそうな気がしますが、無理なんですかね?
[一言] 双方自覚無いようだけども、どう見てもデートでは?…
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