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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
新時代のダンジョン編

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魔導織応用第1号

 カミンとオーレリアの婚約式を終えて、私は南ノースマークへ戻った。

 オーレリア達は領地へ移動して、地元で改めて婚約を祝ってもらう。私ももっとお祝いしたい気持ちはあったものの、結婚式ならともかく、婚約のお披露目にこれ以上は時間を割けなかった。

 本番では可愛い弟と義妹をしっかりお祝いしたいよね。最短でも5年は先だけど。


 キャシーとノーラも人脈作りの為にと王都に残ったので、ウォズだけ連れて領地へ帰る。

 飛行列車男爵、鑑定暫定子爵なんて呼ばれるようになったから、彼女達も王都に滞在中は面会依頼が尽きない。


「レティ様…!! 研究がしたいです……」

「今作った繋がりが、いつか大きな財産になる……と分かってはいるのですが……」


 なんて2人の泣き言には取り合わなかった。

 教国の問題に携わっている間は私も散々思った事だから、考えたところでどうしようもないって経験を積めばいいと思う。貴族として生きる以上、一定の義務からは逃れられない。




 そして、漸く研究に打ち込める環境に戻った私は、水中にいた。


「うん。少し違和感を覚えるけど、息苦しさは感じないね」


 魔導織を用いて作った新しい魔道具で、水中での活動が可能になる特殊な力場を作り出す。

 水槽、お風呂場での試運転を経て、浅瀬での実験まで辿り着いた。


「そうですね。それでも地上とは感覚が異なります。初めて使う場合は今回のように浅い場所で慣らした方がいいでしょうね。販売価格に指導員の監督分も盛り込みましょうか」

「効果時間を確認できる表示を付けるのは当然として、潜水深度や活動範囲なんかも細かく設定しないとね」


 一緒に潜ったウォズは、実用化に向けて早くも算盤を弾いていた。夏に海水浴ならぬ海中浴を南ノースマーク限定で流行らせようと思えば、それに向けて決めなくてはならない事がいっぱいある。

 最初は販売じゃなくてレンタルで様子見かな。

 従来のスキューバダイビングより手軽に潜水を楽しめる訳だから、受け入れられるのは早いと思う。


 ちなみに、今日の私はいつものワンピースタイプじゃなくて貴族向けの水着を着用している。実験に同行するのがオーレリア達じゃなくてウォズなので、肌を露出するなんてあり得ないとフランに強く止められた。

 胸元からお腹のあたりまでをフリルが覆って、腰に巻いたパレオは膝から下がフレア状に広がる。シルエット的にはマーメイドドレスに近い。当然、人魚っぽい見た目に反して泳ぐには向いていない。

 これで回遊魚並みに泳ぐオーレリアみたいな機能は実装していないので、泳ぐ代わりに水魔法で身体を操縦する。意図せず、魔導織と魔法を組み合わせる実験になったよね。


 こんな水着を買った覚えはないから、今回みたいな場合を想定したフランが揃えてくれてたんだろうね。おかげで外聞を損なわないですんだよ。


 水中で活動する感覚に慣れた私達は少しずつ沖へ進む。

 いくら魔法があっても、人間は酸素無しで生きられない。だから、水中の溶存酸素を取り込む必要があった。とは言え、地上と比べれば酸素濃度は圧倒的に低いし、エラ呼吸を真似るのも難しい。

 そこで、虚属性で水と風魔法を組み合わせて、必要な酸素を集める機構を作った。魔法が肺の役割を兼ねるので、魔道具の使用中は呼吸を必要としない。息をずっと止めているのに苦しくないって違和感がしばらく付きまとう。

 細かく分類別けするなら、酸素を集める力場を展開するのが魔導織の役割で、酸素を取り入れる役目を果たすのは付与魔法による従来の魔道具効果、と言う事になる。そこへ水游の魔法を加えても機能的に問題は起こらない。しかも、魔導織の力場は水圧の影響すら緩和する。水の冷たさもあまり気にならない。加えて、会話は空気の振動じゃなくて、テレパシー的に意思の伝達を可能とした。

 魔導織の導入で魔道具の補助効果が大きく広がった。これまでの魔道具は効果が単調な付与魔法を組み合わせていた訳だから、複雑な魔法を生む魔導織の貢献は大きい。


「これなら、申請のあった水中農園計画も進められそうですね」

「あー、うん。教国から戻ったら、おかしな計画書が上がって来ていて驚いたよ」


 この水中適応の魔道具、レジャー活用を目的として作った訳じゃなかった。魔導織で新しい魔道具を作ってみたかったと言うのも動機の1つ。

 開戦派なんて面倒なものが台頭している事もあって、兵器転用から離れた発明を考えたかった。水中からの奇襲に使えなくはないけれど、水地両用潜航艇が既にある訳だから今更だと思う。


 それ以前に何よりの切っ掛けは、水中で栽培する必要のある薬草が生まれた事だった。


「地上だと水に溶けて薬効が薄れるからって、浸透圧を利用して海中で薬草を育てようとか、凄い発想だよね」

「最近はあまり成果を耳にしませんでしたが、優秀な人材を集めた魔塔研究者だけはあると俺も感心しましたよ」


 キミア巨樹肥料を使って農作物の育成期間短縮、収穫量向上と新種改良を目指す筈が、何故か薬草の魔改造へ繋がった。どこかの国王陛下の意図が見え隠れする。

 とは言え、折角生まれた新種、しかも新しい薬効は魔導織にも応用できる。ノーラの鑑定によると、海中で育てるだけあって水属性値に極めて秀でているとの話だった。そんなの、栽培環境を整える他ないよね。


「ま、こうして魔導織の可能性は確認できたし、水中で活動できるなら毒素の充満した悪所、そもそも空気のない環境での探索へも応用できるかな」

「そうですね。スカーレット様が今試しているように、水属性術師なら水中での活動が容易になります。船で魔物を討伐するより冒険者にとって有利に働くかもしれません」

「そうなると、水中で使える武器もいくつか作った方がいいのかな?」


 開戦派を刺激しないって目標からは外れるけども。


「そのあたりは討伐実験の後でいいのではありませんか? 夏に水中観光を間に合わせるなら、柵で魔物を隔てればいいでしょう」

「柵越しに海洋魔物を見学するっていうのも面白いかな。空間固定化で壁を作れば観覧の邪魔にならないだろうし」


 まずは新しい魔道具を知ってもらいたい。魔導織のお披露目でもある。

 巨樹枝肥料が新しい薬草を生み、その栽培を目的として水中適応の魔道具を作った。勿論、魔導織がなければこの完成はなかった。可能性は繋がる。


 これだから面白い。さて、次は何が生まれるのかな。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「レティ様…!! 研究がしたいです… …!」 の後に 「諦めたらそこで研究は終わりだよ。」って言いたくなった。
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