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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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王子と論争

申し訳ありません、遅くなりました。

 戦争支持派の建前をはっきり否定しようというのに、第1王子の表情は崩れない。長く戦争論を掲げてきた人だから、このくらいは聞き飽きているのかも知れない。

 まあいい、私は自分の意思を表明するだけだからね。


「開拓の余地がありながら、放置して国外へ富を求める。つまり、我が国は魔物には敵わない、そう言って白旗を揚げているも同じでしょう」


 前世では開拓し過ぎで資源が枯渇しかけていたけど、この国では山林や原野を切り開く事を放棄している。他国も似た状況で、限られた資源を奪い合う状態にある。


「氾濫を恐れて、間伐部隊や冒険者に間引かせるのがせいぜいで、魔物領域に関わろうともしない。それが王子の仰る強い国、と言えるのでしょうか?」

「敵兵を殺すくらいならば、魔物に殺されろと? それで兵達が納得すると思うか?」

「それは考え方次第でしょう。100の敵兵を殺して英雄と呼ばれるのも、100の魔物を屠って勇者と呼ばれるのも、猛き兵の行いには違いありません。国を討つより、街を護る方が誉れなのだと喧伝すればよろしいでしょう」

「それは方便でしかなかろう」

「それが何か? 元より、戦争で国の為に死ぬ事が栄誉と誘導しているではありませんか。戦争支持派の一部は、それを乗り越えて名声を得たい若者達でしょう?」

「……綺麗事で戦争反対を口にしているかと思ったら、其方、民や兵が死ぬ事を厭わぬのか?」


 日本人だった頃なら、そうだったろうね。


「人が万物の頂点で、争いだけが命を奪う脅威だというなら、綺麗事も言えるでしょう。けれど、私は貴族です。人より多く背負った義務の中には、大勢の生活を確保する為に、少数に犠牲を強いる事も含まれます」

「それは、私も同じつもりだが?」

「そうでしょうか? 私は、犠牲を減らす為の尽力を諦めるつもりはありません」


 だから、私は武器を忌避しない。

 剣も、銃も、兵器ですら、この世界では護る為の力だと思うから。


 初めからそう思えた訳じゃないけれど、国内の死亡率を知って愕然とした。何しろ、魔物に殺された人の割合が、病死並みに多いんだから。


「何も竜を相手にしろとは言いません。斥候部隊が魔物の生息状況を調べた上で、銃と魔法を斉射して安全を確保しながら討伐する、間伐部隊の規模を広げるだけで効果は上がるでしょう。武器を揃えれば、兵の練度が上がれば、犠牲を減らせる。この国で求められる軍拡とは、そういうものであるべきではないでしょうか?」


 それに、現状で魔物素材の供給先は、間伐部隊が中心。郊外なら冒険者だろうね。

 研究室を始めてつくづく思った。アルドール先生や魔塔の研究者が調べてはいるけれど、魔物素材の可能性はまだまだ奥が深い。比較的安価だからと、一部の魔道具だけに使うのは、勿体無いよ。


「軍は獣と戦う為にあるのではない。戦争を知らぬ小娘が、勝手な事をほざくな!」


 そう叫んだのは王子じゃない。さっき、私を小娘扱いした人だね、相手にしないけど。

 第1王子もこのくらい感情的になってくれるなら、やりやすいのにね。


「生活領域が増えるだけではありません。大量の魔物素材は国民を豊かにするでしょう」

「―――おい」

「大量の魔道具を生産できる体制を整えておけば、この国を支える産業になるかもしれません。新しい魔道具の開発も進むでしょう」

「―――おい!」

「それに、新しい土地の開拓によって経済もまわります」

「―――おいっ!!何故答えない!?」


 無視してる事くらい分かってよ。


「アドラクシア殿下、いつ、護衛が殿下の話に口を挟めるようになったのでしょう?」


 私はあくまで、第1王子との会話を続ける。


「俺はエルグランデ侯爵家の人間だぞ。ノースマークの者だからと言って、虚仮にされる謂れは無い」


 知ってるよ。王子妃の弟さんでしょう。

 でも、この場では関係ないよね。


「大体、獣の次は魔道具だと? そんな平民の目線で、国の方針を語るな!」

「……」

「おい、何とか言ったら―――」

「―――黙れ!!」


 雷が落ちたよ。

 王子の表情が初めて動いたね。


「……ですが、殿下。何故言わせておくのです?」

「黙れと言った。発言を許した覚えはない」


 私、王子の客人だからね。会話を遮れるのは、私達の同意を得た場合だけだよ。たとえ、私が男爵令嬢や平民だったとしても、変わらない。

 そもそも、王子がわざと言いたい放題にさせているってくらい、気付いてよ。

 フランなら絶対にこんな失敗しないのにね。側近と言っても、貴族のボンボンだからかな。


「すまんな、会話を断ち切ってしまって」


 王子が謝罪したのが気に入らないみたいだけれど、頭を下げさせたの、貴方だからね。


「いえ、お気になさらないでください」


 話を打ち切るいい口実になりますので。

 私、早く帰りたい。


「戦争は望まないが、軍拡は反対しない、か。侯爵といい、ノースマークからは面白い意見が聞ける」

「父ともこのようなお話を?」

「戦争が、経済にどれほどの影響を与えるか、滾々と説教されたよ。特需のような一側面だけに目を向けるな、とな。10年以上も昔の話だ」

「父らしいです」

「侯爵に叱られた時点では、戦争が国を豊かにすると信仰するだけの子供だった。以来、多くの者に意見を聴いたよ。私に賛同する者だけではなく、反対派、中立派にもな。それらを理解していない訳ではない。納得できるものも多くあったよ」

「それでも方針は変わらなかったのでしょうか」

「常に同じだった訳ではない。10年前ならば、意見を翻す事もできただろう。だが、国は割れてしまった。それぞれの王子派に、其方ら中立派。たとえ次期国王が決まっても、亀裂が消える事は無いだろう」


 異なる意見が入り乱れるって事は、王の権威が揺らぐ事でもあるからね。


「立太子する事無くこの歳になって、弟達に王位を譲る事も考えた。しかし、年の離れた弟は、可愛いあまりに甘やかし過ぎた。現時点で後を任せようとは思えぬ」


 甘やかしたから愚かに育ったのか、愚かな第3王子であり続けてもらう為に甘やかしたのか、そのあたりは判断しかねるけどね。


「第2王子は、優秀だが、急進的過ぎる。実力主義、結果主義が行き過ぎて、緩衝材となれる補佐がいなければ、混乱を招く」


 結果の為なら身分差や貴族体制を否定するところもあるので、旧態依然の貴族が多い現状では受け入れられない。前世的には理解できる部分も多い人なのだけど。


「だから、私が王となって、再び国をまとめ上げる」

「殿下にとって戦争とは、貴族の意見を統合する為の手段なのですか?」

「そうだ。散らばった権限を、王の下に一元化させる」


 うーん、戦争は嫌い。その原点は変わらない。

 でも、王子を否定できるだけの知識が、まだ私には足りない。

 王様がいなくても国は回ると知ってはいるけれど、それをこの国に当て嵌められるかどうかまで、私はこの世界の政治を知らない。

 アドラクシア殿下の言い分は極論過ぎるけど、このまま権威を分散した状態が続いた場合、どう流れるのかまで予想できない。戦争を否定して、内乱の種を作ったんじゃ、意味がないしね。他の王子も適任とは言えないし。


「それでも、私は戦争を望みません」

「ああ、それで構わん。其方を無理強いする気はなくなった。軍拡だけでも望んでいるなら、私にとっても都合がいい。争うならば、私が立太子した後で良かろう。それに、泳がせておいても、何やら新しい技術で兵器産業に影響を与えてくれそうだしな」


 予想通り、分割付与まで掴んでいたみたい。

 やっぱり、油断していい相手じゃないね。話も半分くらいに聞いておこう。


「存外に面白い話を聞けた。何より、意思統一の手段を国内の開拓に向けるというのは、考えてみる価値があるかもしれん。また話し相手に呼んでも良いか?」


 勘弁してよ。


「申し訳ございません。度々アドラクシア殿下を訪ねては、余計な噂の種になるでしょう。それとも、殿下は私との婚約をお望みですか?」

「……それは無い、な。私の妻は悋気が強い。噂くらいは知っていよう?」


 うん。

 この人、侯爵令嬢の婚約者がいるのに、子爵家のお嬢様と本気で恋仲になったんだって。リアル悪役令嬢とヒロインだよ。当時は結構揉めたらしいけど、ざまぁ展開はなくて、第1妃、第2妃として順当に娶ったみたいだけどね。

 ただ、子爵令嬢を第2妃として迎える条件が、他に側妃も妾も持たない事だったらしい。

 調べてホッとしたよ。

 アドラクシア殿下、ロリコン疑惑、陰性です。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 事前情報では想像できないくらいに第一王子がマトモだった件 でも護衛がこれじゃあ……(処分するきっかけにするつもりで連れてきた可能性はある
[良い点] そのような極端な立場に対するそのような強力な議論。 1 つのルートが普遍的に正しい決定であると言うのは簡単ですが、実際に何が機能するかは常に状況によって決まります。 私は国家に対する戦争…
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