期待以上の新兵器
私は何も、結婚相手探しの為だけに王都へ来た訳じゃない。
しばらく王都に滞在する理由の1つ、それを履行しようと軍施設へ向かう。
開発した魔道具のいくつかを納品する予定となっている。それと言うのも、ウェスタのダンジョン攻略が難航しているらしい。60層を越えると魔物が益々凶悪化したとの事で、煌剣とまでは言わないまでも強力な武器の提供を依頼された。
当然、軍の開発部や魔塔の成果も投入しているのだけれど、それはそれとして私への期待は大きいらしい。
私としても、墳炎龍の咆哮臓を応用した新しい魔法籠手をお披露目する良い機会だった。
引き換えに魔物の情報も貰えるから損もないしね。
王都邸から軍施設へは歩いて移動する。
領地へ引き籠る時間が長くなったから、王都を散策するのも久しぶりだった。季節柄、ハイビスカスをはじめとした花々で彩られた中央公園は気持ちいいよね。
「以前に通った頃は、まだ狭域化実験を進めていたんだっけ?」
既に懐かしく感じる。実際、意外と時間が流れているよね。
「確か、オブシウスの集いに傾倒していた門衛が迎えてくれたんでしたよね」
「……その節は、本当に申し訳ありませんでした」
「オーレリア様が謝る事じゃないですよ。でもあの人達、今はどうしてるんでしょう」
あの集会参加者は、軍人としての適格なしと判断されて残らず除隊となった。私を陥れるのに賛同していなかったとしても、偏った思想に気触れた時点で不適格と処断された。
帝国の工作員に唆されたのだから仕方ない。
その後の動向については、私もほとんど把握していないけども。
他愛のない思い出話に花咲かせながら施設へ辿り着いてみると、開発部の士官が迎えの為に立っていた。あの時みたいなあり得ない対応がないのは当然として、来客を待たせない為の気遣いも加わったらしい。
「あの件については、お父様は勿論、お母様が激怒していましたから……」
ぽつりと漏らしたオーレリアに、とても納得できた。
ライリーナ様が再教育を徹底したなら、訪問者を不快にさせるような隙が残っている筈もない。
案内される私達は、苦笑しながら兵器類試用棟へ入った。
以前は試作兵器の実験は全て郊外の専用設備で行っていたそうだけど、今は新設棟の内部をアイテムボックス魔法で拡大して使っている。私達が頻繁に出入りしていた頃にはなかった建物で、郊外設備は大型兵器専用と分別してあるのだとか。
実験の為に毎回移動する煩わしさは、王都で飛行列車を開発した私達も知っている。どうしようもない場合を除けば、開発場所と試運転場所はまとめたいよね。
空間拡大には大量の魔力を必要とする関係上、小さな個室を延々と広げるって訳にはいかないんだけども。
倍率で消費魔力が変わるから、元々広く作ったフロアを拡大してあった。私みたいに、個室でオーレリアの鍛錬願望を満たすってまでは叶わない。
「ようこそ、スカーレット様。今日は新型の魔法籠手を提供いただけると聞いて、楽しみにしておりました」
「お久しぶりです、オキシム中佐。期待に応えられるだけのものが作れたと思っています」
「ほうほう、それはそれは……!」
墳炎龍の咆哮臓を解析して魔法籠手を改良するって話は前もって通してある。その試用実験の為に標的も注文通りに用意してくれていた。
魔王種を兵器に転用するって触れ込みに、その威力を一目見ようと大勢の見学者も揃っている。
「墳炎龍の咆哮臓を組み込んだものを5つ、火炎竜素材のものを100、用意しました」
「5つ……ですか?」
内訳を伝えると微妙な反応が返ってきた。ギャラリーからも拍子抜けの声が聞こえる。
それだけ期待が大きかったのだろうから、気持ちは分からなくもない。でも、そうなった経緯を知っている私達は肩を竦める他ない。
「説明するより見た方が早いでしょう。危ないですから、私に決して近付かないでくださいね」
私は標的の前に進み出ると、要望通りに耐火付与を施した鋼板が50枚並んでいることを確認してから魔法籠手を構える。
『SET! ファイアレーザー!』
スイッチを入れると、付与音声が響く。
墳炎龍専用に調整してある特殊筐体だから、使用魔法の変更はできない。私のこだわりを満たすものでしかないのだけれど。
「ノーラ、防御はお願いね」
「はい、お任せください!」
パリメーゼで山中に潜んでいた帝国の工作部隊をまとめて凍らせた彼女の逸話を知らない人間なんて、軍属にはいない。水属性魔法の腕前はライリーナ様に並ぶんじゃないかって噂されるノーラの活躍は、彼等の中で英雄譚として語られる。
そのノーラが防御を担当すると聞いて、見学者達に緊張が走った。
でも、私達は何1つ誇張していない。
実際に危ないんだよね。ただの観覧だとしても、気を引き締めて挑んでもらわないと怪我人が出る。不用意に近づいたなら死人であっても驚かない。
「じゃ、行きまーす」
私自身は軽い調子で魔法を解き放つ。
――――――!!!
瞬間、兵器類試用棟から音が消えた。
魔法籠手は射出径を絞った超高温の熱線を放つだけなので音は発しない。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
そして、50枚の鋼板を綺麗に貫いた光景に、誰も言葉を発せない。
「御覧の通り、威力があり過ぎてとても危険です。使用の際は周囲への配慮を怠らないでください。状況をしっかり見極めてからでないと、とても使えません」
コク、コク、コク。
無言の回答が返ってきた。
彼等の心情は凄く理解できる。私達も、最初に試した時はとんでもない物を作ったと慄いたからね。ちょっと洒落にならない。
籠手にも墳炎龍の鱗を練り込まないと、熱に耐えられなかったくらいだからね。
「汎用性が魔法籠手の長所の1つでしたが、これについては火属性の適応者以外は決して扱わないでください。放射熱を上手く逃がせなければ、大火傷を負います」
「…………」
試射を私が行った理由でもある。
マーシャがいない今、身内に火属性術師はいないし、一定以上の魔力保持者でなければ本当に危ない。発熱分も前に飛ばさないと、自分ばかりか周囲にまで危険が及ぶ。私はその上で、ノーラに保険をお願いした。
「それから、従来の魔法籠手と違って使用者の魔力ではなく、魔石に魔力を充填します。魔法籠手には火炎竜の魔石を据え付けてありますが、一度の発射で使い切ります。消費魔力も桁外れである事を留意した上で使いどころを判断してください」
「…………はい」
あ、漸く返事をする余裕が生まれたかな。
「製造数を抑えた理由はご理解いただけたと思います。それでもどうしてもと言うなら量産を考えますが、必要ですか?」
ブン、ブン、ブン。
……だよね。
「将来的にオリハルコンがある程度手に入ったなら、魔力充填器を付属させて連射も可能になると思っています」
「あの……、スカーレット様?」
「はい?」
顔を真っ青にしたオキシム中佐が挙手をする。
特に発言を禁じた覚えはないけれど、それだけ衝撃が強かったって事かな。
「竜種を一撃で葬れる威力に思えるのですが、これを連射できるように改良して、一体どこで使う事を想定しているのでしょう?」
「…………」
現在、この大陸で魔王種の出現報告はない。
脅威的な防御力を誇った岩石竜のダンジョン種も、外皮を貫けることを確認している。あれより堅固な個体はちょっと考えにくい。
当たり前だけど、連射するならそれだけ周囲への危険も高まる。使い勝手はなお悪くなる。
「…………」
「…………(ふるふる)」
オーレリア達へ助けを求めてみたけど、答えは返ってこない。
更に発展させる事ばかり考えて、何に使うかとか頭になかったよね。
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