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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

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奇跡の霊薬を使いたい

 オットーさんとの対談は望外の結果を得て終わった。

 彼等が柔軟な信仰を目指すなら、今後、私達が生み出す発展と衝突する可能性は低い。これなら、面倒事を引き受けた甲斐はあったかな。

 教国が倒れた事で、凝り固まった教義への妄信を解きほぐす切っ掛けになればと思う。


 そうなると、わたしがここでするべき事はほとんどなくなった。信仰に寄り添えない私が動くより、オットーさん達に任せた方が上手く運ぶだろうからね。

 当然、クリスティナ様の役割も効果的に働く事になる。


「そろそろ、約束を履行しておくべきかな」


 私はクリスティナ様に対して、償いの為だけに象徴に徹しろと押し付けた訳じゃない。これから重責を担う覚悟と引き換えに、彼女の希望を受け入れた。


 1つは教国の歴史を完全に終わらせる事。

 これは既に完了した。

 傲慢をこじらせて神様を便利に使う教皇達を排除して政教を分離、良識ある神官だけが神殿に残って改革を進めている。オットーさんの決意を聞いた限り、彼女や先代のような悲劇は二度と起こらない。


 そしてもう1つ、奇跡の霊薬を完成させて、先代聖女に使用する事。

 怪盗行為で素材を集め、義賊活動に紛れて確保した資金で調合設備を整えていたクリスティナ様だったけど、彼女はその方面の素人、合成の為の知識も経験も足りていなかった。

 どれだけ時間がかかったとしても成し遂げようって気概は買うものの、誰かを頼れるならその方がずっと早い。私の方から話を持ち掛けた。

 当然、オットーさん達からの期待も大きい。


 既に霊薬は完成させてある。

 実際の効果を知ってしまうと、理論の解明に掛かりきりになってしまいそうだったから、予定を後回しにしてきた。


 あれ、薬って範疇に収まらないんだよね。魔法に近い。

 主成分は魔漿液。

 それ自体は不思議に思わない。スライムは魔物の原点、魔物が魔力を蓄える目的で魔漿液を内包してるって仮説はあった。ただし、水と性質が近すぎる上、化学的に水と結合するせいでスライム以外からの抽出に成功していない。それを、同じく水と結びつく性質を持った毒素と共に排出するって方法で濃度を上げた。

 そこへ様々な素材の組み合わせと、その絶妙な混合加減で魔法陣に近い効果を生む。幾何学模様を描く代わりに、含有成分同士の相互作用が魔法を生む。


 これを偶発的に造り出したとか、奇跡と呼んで差し支えない。神様が介入したって伝承も頷けてしまう。


「……クリスティナ様達の願いに便乗して、レティは好奇心を満たしたいだけですよね?」


 どんな現象が見られるだろうと想像を膨らませていると、オーレリアの冷たい指摘が突き刺さった。


 そうとも言う。

 依頼人だった教皇達がいなくなったのをいい事に、共和国の研究機関から権利を奪い取ってきたからね。墳炎龍の素材を所有する私なら最大限の効果が期待できると、技術の独占を疑う周囲も黙らせた。


「だって、奇跡を冠したほどの伝承だよ? 少しでも早く試したいに決まってるじゃない!」

「……」


 欲求を駄々洩れにしたら、視線の冷気が更に強まった。


 大国の威光を少し振りかざした事は否定しない。盗品を使う訳にはいかないから、資金力が違う、素材集めの伝手が違うと共和国側を無理矢理納得させた。成果は共有すると、素早く効果を知れるメリットを彼等には提示した。


 実現の為に、ウォズには大陸中を駆け回ってもらった。

 伝説の霊薬が作れるとディーデリック陛下を煽って、初代エッケンシュタイン博士の封印施設にあった素材の使用許可も捥ぎ取った。僅か10日足らずで揃えたよ。


「それに、効果の詳細を知っておくのは大事だよ? 技術を蘇らせた以上、霊薬は様々な局面で活用される訳だし」


 オットーさん達は霊薬の製法を公開すると決めた。

 素材が希少で生成量が限られる以上、神の奇跡として神殿が独占すると、平等性を損なってしまう。権威を守る為に再び教義を捻じ曲げる事はできないと、製法の所有を放棄した。真偽不確かな書物を現代まで保管したって功績だけが残る。

 だから、技術が拡散する前に理論を押さえておくのは意義がある。


 もっとも、素材の質を上げようとクリスティナ様みたいに無茶をする人が出るといけないから、異物の管理を徹底した上での話だけどね。

 死から逃れる、大切な人を助ける為ならって手段を択ばない人は多い。そうした暴走の危険を断ってからになる。


「私はそのものを量産したいんじゃなくて、技術を次へ繋げるのが目的だからね。どうせ一部にしか行き渡らない高価な薬には興味ない訳だし、生産体制を作り上げたい人の邪魔にはならないよ」

「そうして建前を押し出しても、私は騙されません。一番最初を譲りたくないだけですよね?」

「うーん、まあ、伝承の復活に立ち会いたいって気持ちは押さえられなかったから…‥ほら、ね?」

「はあ……」


 深く溜め息を吐かれた。


「いつもならともかく、今回は被験者がいるのですから、そうして好奇心を前面に押し出して行かないでくださいね」

「分かってるってば。それに、被験者なら誰でも良かった訳だから、イリスフィア様を選んだのは自分の為ってだけじゃない。ただの親切ではないけど、クリスティナ様の渇望に応えたいと思ったのも嘘じゃないよ」

「……そういう事にしておいてあげます。ノーラまで連れてきて、研究目的だけではないと言われても説得力に欠けますけれど」

「そこは、なんて言うか、折角試すなら万全を期したいと言うか……」

「でも、わたくしなら何か見つけられるかもしれません。先代聖女様の状態も特殊ですから、効力発現の瞬間をしっかり押さえておくのは大切ですわ」


 ノーラはノーラで張り切っている。

 連れてきたと言うか、霊薬を実際に使ってみると知って、自発的に来たんだけどね。王国の薬学に貢献して見せるとディーデリック陛下を唆して、出国許可も勝ち取ってきた。


「……最近、レティの悪いところばかり似てきていませんか?」

「そうでしょうか? ありがとうございます、オーレリア様」


 うーん、それは否定し難いね。

 こう言われて喜んでいるあたり、あんまり良くない傾向なのは間違いない。


「でもさ、オーレリア。私が諭せる立場にいると思う?」

「……いろいろ手遅れなのは分かりました。今度、カミンに叱ってもらいますね」


 それは私にとても効く。


「う゛、少しは反省しておきます」

「それでも少し、なのですね……」


 それは仕方ない。私に好奇心を抑えろって言うのは、前世からやり直せって言っているのに等しいよ。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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