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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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王子と対面

 私の気分がどうであろうと、招待された日はやって来る。身分差のあるこの世界では、王族の紋章が使われた時点で、選択肢なんて存在しない。

 せめて、ため息の数を覚えきれないくらいは許してほしい。


 王城へは歩いて行った。王城に出入りする貴族は、普通車を使うのだけど、それだと早く着いちゃうからね。少しでも後回しにしたいし、心の準備もいるからね。

 約束の時間は変わらないのでは? とか言わないで、気分の問題だから。


 紋章入りの招待状の効果は絶大で、ドレスで歩いてきた不審人物でも、何も言わずに通してくれたよ。

 追い払ってくれたら、帰る理由になったのに、とか考えてないよ。


 案内されたのは、8階に作られた庭園を臨める部屋だった。

 庭園側はガラス張りで、柔らかい光が入ってくる。紅や黄に変わった落葉樹が空中庭園を彩っているから、秋用のサロンなんだろうね。紅葉に飾られた先に王都の街並みが見える。侯爵邸も随分立派だと思っていたけど、王城ともなると、贅沢の桁が変わるね。


 登城は一緒だったフランも、今はいない。

 サロンに入る少し前、彼女は従者用の控室へと別れた。屋敷の外で離れる事はほとんどないので、少しだけ心細い。前世含めて、偉い人からの呼び出しなんて初めてだから、緊張くらいするよ。むしろ、前世の記憶がない方が、割り切れたかもね。

 いつもフランが後ろに控えてくれてるだけで、随分支えてもらってる。

 なら、私も彼女が誇れる主でいないとね。


 モチベーションの低さと、心許なさを振り切って、令嬢モードへスイッチを切り替えたところに、王子が入室してきた。

 王族の証である赤い髪を腰まで伸ばし、眼鏡の奥の切れ長の目は、少し神経質そう。容姿から受ける印象は、ウォズの情報通りだね。

 首元と袖口に空色の刺繍がしてあるだけの白のシャツ、上着を羽織っていないのは、このお茶会が公式のものではないと示す為かな?


 入って来たのは王子本人と側近、護衛が5人。

 他に王族が加わらなくてホッとした。単身呼ばれて、王族に囲まれたら、キャパを超えそうで不安だったんだよね。元々王族となんて関わりたくないんだから、1対1で十分、一杯一杯です。


「お招き、ありがとうございます。スカーレット・ノースマークです。アドラクシア殿下からお声掛けしていただいて、光栄です」

「ああ、急に呼び立てて、すまなかったな。噂の令嬢と顔を合わせてみたいと思っただけだ。堅苦しく考える必要はない、楽にしてくれ」

「ありがとうございます。失礼いたします」


 言葉通りに受け止められたら、楽なんだけどね。


 王子の勧めに従って、所作ができるだけ優雅に見えるように、ゆるりとソファに腰を下ろす。一挙手一投足に気を使いながら動くのって、疲れるんだよ。


「アドラクシア殿下に興味を持っていただけるのは喜ばしい事ですが、どのような噂が耳に入ったのかと思うと、少し怖いですね」

「何、入学早々、講師試験まで終わらせたのは、近年では弟以来だ。しかも、カロネイアの令嬢とも交流があるという。既に知らぬ貴族もおるまいよ」


 ゆっくり世間話から入るつもりはないんだね。

 まあ、私としても都合がいいけど。


「王都に入って早々にご縁がありましたから」

「侯爵の指示で接触した訳ではない、と?」

「神様の巡り合わせまで組み入れられるほど、父の計らいも万能ではありません。私が彼女と友誼を結びたいと思ったのは、その人柄故。けれど、カロネイア伯も、国の為に身を粉にしてきた貴人。志を共にする事に差障などありません」

「あくまで国の為。含むところなど無いと?」

「はい。私も噂はいくつか耳にしておりますが、ノースマークも、カロネイアも、派閥を作って国を割ろうなどと、考えておりません」

「何やら特殊な魔法習得法まであると聞いたが? それを秘匿するつもりも、派閥拡大の道具にするつもりも無いと?」


 …考えたけどさ。

 あっぶな。お父様、オーレリア、止めてくれてありがとう。


「幸運に恵まれまして。まだ試験段階ですので公にはできませんが、国の事を思えばこそ、軍の強化を優先すべく、カロネイア伯を頼った次第です」

「縁、幸運……其方、随分と神に愛されているようだな」

「恐れ多い事です」


 嘘っぽいかもだけど、そうとしか答えられないんだよね。


「国軍の増強は私の望むところでもある。このまま私に付いて、強い国を作るつもりはあるか?」


 やっぱりそう来るよね。


「申し訳ありません。ノースマークが個人の意思の下に動く事はありません」

「ふん、侯爵と同じ事を言う」


 王子は特に表情を変えなかったけれど、後ろの方々は不満そうだね。

 王子と私が話す場だから、口は挟んでこないけど、王子の誘いを断るなんてとんでもない、とか思ってそう。

 小娘がって、小声で毒づいたの、聞こえたよ。


「侯爵家としてではなく、其方個人としても同じか?」


 そんなの同じに決まってる。


「率直に意見しても?」

「構わん。折角の機会だ、若き才女の意見を聴かせてほしい」


 さて、第3王子に続いて、第1王子まで敵に回すかもだけど、私の立場を貫き通す為、この機会に言いたい事を言わせてもらおうか。


「国土は広くとも、その大部分は魔物の領域。生活圏の拡大、生産領域の拡充、資源の確保を目的として、他国を侵略する。一見、筋が通っているように思えるこの理屈が、私には理解できません」

お読みいただきありがとうございます。

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