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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

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反教国連合軍

 クリスティナ様捕縛から1週間、連合軍が首都アルミナを取り囲んだ。

 各国ごとの出撃動員数はそれほど多くない。王国と皇国がそれぞれ六千を率いてきたのは別として、国によってバラツキが見える。中には百人なんて国もあった。シドとか、その半数以上が戦士国からの貸与戦力だったりする。動員数より、参加を表明した事が大きな意味を持つ。


 それでも、総数は二万人を越えた。

 真正矯団の戦力は五千、比較にならない。


「それぞれの国旗がはためく様は壮観ですね、アノイアス様」

「これだけの国が結集して事にあたるなど歴史にありませんからね。教国の存在を終わらせるのに相応しいと言えるでしょう」


 即席の連合軍に連携なんて望めないので、国単位で並べてある。装備の違いと掲げる国旗が、これだけの国が教国を批判しているって現実を示す。


 当然、これらの戦力は飛行列車で集めた。そうでないと、これだけの短期間で各国の戦力が揃いはしない。

 過去、教国が扇動した暴徒によって多大な損失を被ったカラム共和国が報復の派兵を決めた際、道中の町村から補給を得られず疲弊して辿り着いたって例があった。こうした信徒の擁護も教国打倒の障害となり続けてきた。

 けれど、飛行列車があるならそんな妨害で進軍を止められない。

 軍用飛行列車ウェイル、オルカを投入して戦争の在り方が変わりつつあることを知らしめる。そんな王国の思惑も、今回の作戦には組み込んである。


 そして、連合軍を指揮するのはアノイアス・ロイアー准侯爵。

 作戦の立案、軍の招集に貢献した王国が執る。


 私?

 そんな面倒な立場は要らないよ。

 政治的な代行を務めるならともかく、大軍を率いて戦場に立つとかご免です。従軍して准侯爵の傍に控えるだけで十分が過ぎる。

 魔導士って埒外戦力を安易に他国へ向けるのも拙いしね。


 そもそも、連合軍の指揮官って言うのは相応の立場にいる人間でないといけない。対外的な説得力ってものが必要になる。子爵ではどう考えても格が足りていない。

 事実、皇国も第5皇子を代表に擁立してきた。一見ゴロツキみたいで、皇城よりも闘技場や冒険者ギルドが似つかわしそうな巨漢であっても、皇族には違いない。


 大陸中に知れ渡る事件になると考えれば、当然の判断だよね。他の国にしても、博物館での対談時とは顔ぶれが違う。

 帝国はエノクで十分だけど。


「……どの国も、士気が低いですね」


 ロイアー公が懸念をこぼす。

 実際、この戦力だけで教国を占領できるかというと、かなり厳しいと言える。


「信心深い人は何処にでもいますからね。仕方がありませんよ」


 分かっていた事ではある。

 これも、教国打倒を阻んできた原因の1つ。

 進軍を命じられた兵士自身が教国との敵対を望まない。神様の不興を買うのではと恐れを抱く。熱心な信徒からすると、教国との対立は背信行為に映る。


 だからと言って、場合によっては命を張る立場にいる彼等に対して、神様に縋るなとは言えない。

 あんまり士気が低いのも作戦に支障が出るだろうと、王国では例外的に参加拒否を許した。とは言え、同じ事をして戦力を揃えられる国ばかりでもない。これはどうしても乗り越えなくてはいけない壁になる。


 それでも、二万対五千の戦いなら士気の低さも覆せると思う。

 けれど、教国の厄介さはそれで終わらない。

 私達の眼前には、真正矯団に加えて、包囲に憤る国民が武器を手に立ち塞がる。武力で信教を侵害しようとする連合軍を許してはならないと、老若男女問わずに集う。

 ほとんどが戦う為の訓練を受けていないとは言え、数的有利すらも向こう側にあった。


「あれを相手にするとなると、士気は益々低下するでしょうね。離反する者も出るかもしれません。あの国の面倒さをつくづく思い知ります」

「逃げますか?」

「これだけの国を巻き込んで尻尾を撒いたとなれば、王国の立場は酷いものとなるでしょう。ただでさえ立場が微妙な私に、帰る場所が残るとは思えませんね」


 その挽回の為に役目が回って来たって事情もあるからね。

 過去の実績は王族としてのもの、臣籍降下した以上は成果を積み上げ直さなくてはいけない。


「もしもこのまま戦端を開いたなら、彼等は死を厭う事なく向かって来るのでしょう。改めて向き合ってみると、信仰とは恐ろしいものですね。一般人を容易く死兵に変えてしまう……」

「それをさせない為のクリスティナ様です。あの国の体制は代々聖女を迎え、神様の祝福を受けた地であると示し続けたこそのものです。教義を利己的に歪めて聖女を蔑ろにしてきたのだと知らしめれば、教国の信用は脆く崩れるでしょう」


 そのクリスティナ様は私の隣にいる。役目を果たそうとその出番を待つ。

 当然、彼女の捕縛は公になっていない。諜報部を通じて黒ローブの世話係を引き込んであるから、祈りの為に神殿奥の住まいに籠っているのだと偽装してある。“祝福”の権能の特性上、教皇であっても祈りの場には立ち入れないのだから不在が漏れる心配はない。




 しばらく連合軍と真正矯団の睨み合いが続く。

 侵攻すれば泥沼になると分かってこちらから軍を進められる筈もない。そんな消極を悟ったのか、先に動きを見せたのは教国側だった。


『神に祈る場へ武器を向ける所業は、許し難い冒涜である! 直ちに兵を退くがいい。我々が暴力に屈する事は決してない。常に神の祝福を得る我々が、悪逆の徒を恐れるなどあり得ない!』


 拡声魔法で何やらのたまう。


『背教者どもよ、我等に牙むくならば教国一丸となって相手になろう! 無辜の民を躊躇いなく害するなら、必ずや神罰が下るものと知れ!』


 連合軍が挑発に乗ってしまえば国民を巻き込むと分かって強気に出られる神経が理解できない。一般人を巻き込む事は逡巡しないのに、傷つける事は許されないとか意味が分からない。


 ギリ、と。

 隣で歯を噛み締めるのが分かった。

 察するに、グランダイン孤児院強襲を切っ掛けに現教皇に取り立てられた人物なのかもしれない。


「クリスティナ様」

「……分かって、います。個人の感情で事態を乱すような真似は、もう致しません」

「ええ、憤りを抱くなとまでは言いません。クリスティナ様が手を汚さなくても、彼等にはしっかりと報いを受けてもらいます」


 言わせるままにしておくと更に士気が下がってしまう。

 それに、民を巻き込む意思を見せた以上は遠慮する必要もない。


『作戦、開始!』


 アノイアス様の号令と同時に、アルミナ上空に待機していた飛行列車ウェイルが魔道具による隠匿を解いた。続けて、次々と兵士が神殿へ向けて降下してゆく。


「「「…………」」」


 真正矯団はその様子をポカンと眺める他ない。

 首都を包囲する私達と相対する為に街の外周まで出てきている訳だから、神殿は遥か後方、降下部隊を追うには追随した国民が邪魔になる。当然、私達に背中を見せる事もできる筈がない。

 降下の時点で空間固定化の防壁を築いてあるから、追ったところで無駄な訳だけど。


「連合軍の役割は示威行動、本命は彼等ですからね」

「……想定通りとは言え、こうも上手く嵌まると相手に若干同情しますよ、私は」

「そうですか? 帝国の敗北を教訓に、皇国や戦士国では空への対応を検討中だと聞きます。警戒していない教国が間抜けなだけでしょう」


 肝心なところで神頼みの教国に、そんな働きが期待できる筈もない。真正矯団がぞろぞろ出てきた時点で詰んでいた。

 卑怯だとか姑息だとか悪辣だとか、好き放題叫んでるけど耳は貸さない。


 突入には一個大隊を投入した。

 多少の護衛は残っていたところで、非戦闘員ばかりの神殿制圧にそう時間はかからない。諜報部も連携して動く手筈になっているしね。


 ほどなく、制圧完了の合図に成果が運び出された。

 現れたのは教皇でも枢機卿でもない。突入部隊は金色の物体を高く掲げる。

 それが何かは、近くにいた教国の人間の方が察知した。多くの者が息を飲み、あり得ないと慄き、信じられないと顔色を失う。けれど、衝撃は確実に伝播してゆく。

 その物体をここへ運ぼうと兵士が移動し始めると、人垣がザッと割れた。移動によってより大勢がそれを目にして混乱は加速し、困惑は驚愕に、騒めきは悲鳴に変わる。


 その姿を知らない者なんてこの国に存在しない。

 金塊に姿を変えた先代聖女がそこに居た。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴールデン聖女……!
[一言] 教国のことだから先代聖女様のレプリカ作って本体は鋳潰してるかと思ってたのでそのまま残ってたのが意外
[一言] ハマスみたいな教国
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