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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

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教国再び

 不思議な湖や周辺の映像を撮り、水面を揺らすのは勿体無いと思いながら水や土のサンプルを採取して、私達はすぐデルヌーベンを後にした。


 到達の厳しさの割には、短い滞在になったよ。

 僅かな時間を挟んだだけで再び魔物の群れに挑む事になる訳だけど、誰からも反対意見は上がらなかった。

 宿泊はウェルキン内が使えるにも関わらず、エモンズ司祭達は恐れ多いと、私達は言葉にできない薄気味悪さを感じてその選択肢を避けた。オクスタイゼン領にもう一泊してから教国へ戻る。

 興味深いとは思うものの、あの場所をゆっくり堪能したいとは思わないんだよね。




「おや、スカーレット・ノースマーク嬢、視察中だと言うのに、随分とごゆっくりの漫遊だったのだな?」


 私達が教国を離れている間に満足いく隠蔽工作が出来たのか、教皇達がご機嫌で私達を迎えてくれた。教皇自ら出陣したあたり余裕が窺える。

 私的には、漸く首魁のご登場かって感じだけども。


「ええ、会談延期の理由を質問しただけで、あれほど時間が必要になるとは思っていませんでしたから、退屈していたのです。おかげでゆっくり観光に興じさせていただきました」


 私が皮肉をやんわり受け流すと、教皇の後ろに並ぶ司教たちが鼻白んだ様子を見せた。今度は私が待たせた事に恐縮して、言い訳でも始めるとでも思っていたのかな。


「時にスカーレット・ノースマーク嬢、君は幼いながらに王国で子爵の立場についていると聞いたが、間違いないかね?」


 やっと通してもらった議事堂で教皇が問う。

 シドへ遠征前に1週間以上もここに居たと言うのに、今更身分を確認されるとかうんざりだよね。


 ちなみに、クリスティナ様は用事が済んだなら定位置に戻れとばかりに追い立てられていった。彼女を守る青年司祭も付き従っていた。


「はい、陛下より領地を任されております」

「そうか。実は、王国にも信心深い貴族は多くいる。普段より懇意にさせてもらっている者もいるのだよ」

「そうでしょうね。真摯に神へ祈りを捧げる方も、神様より神殿内の階位におもねる者もいると伺っております。我が国では神様との向き合い方を制限していませんから、祈りに対価を求める不届き者もいるでしょう」

「……」


 このくらいの切り返しに窮してないで、早く本題に入ろうよ。

 神に仕えるとふんぞり返っていれば大抵の事が上手く運んできたからか、煽り耐性低いよね。


 で?

 その不届きな貴族がどうしたって?


「創造神様は人間を平等にお造りになったと信じる我々からすると理解に困る事だが、子爵と言うのはそれほど高い身分にないそうだな」


 神殿内の特権を貪る事に汲々とする代表格みたいな人が、何やらのたまう。


「……そうですね。貴族と言う立場自体が特別なものではありますが、王国では王族を頂点に侯爵、辺境伯、伯爵と君臨します。我々子爵、男爵が預かった権限は、彼等に比べれば限定的なものになるでしょう」

「ふむ、立場を弁えているなら何よりだ。実は、今回の件を由縁ある伯爵に相談してね。子爵風情が教国で勝手していると、彼は御立腹だったよ」


 へー。


 諜報部が時間を欲しいと待っていたのはこれかな。

 ついでに王国内の癒着分子も片付けておこうって腹積もりみたい。王国内で神殿の影響力を弱めるなら、縁深い貴族の排除は有効な手段だろうからね。


 教国と王国を結ぶ正規のルートは、共和国を経由して船で王都へ渡るか、険山を迂回して小国家群の東端からノースマークに入る陸路がある。主に商人達は前者を、巡礼者達は後者を使う。

 加えて、安全を考慮しないって前提があるなら、魔物領域を抜ける山道が使える。重武装の冒険者が戻らない事例も珍しくないと聞くけど、成功すれば正規ルートより早い。

 この方法で伯爵に泣きついたんだろうね。

 で、今日か昨日あたりに返信が得られた、と。ぞんざいな恫喝もあったものだね。



「それで? それが何か?」

「立場を弁えずにここで勝手を言った事、国へ戻れば問題になるのではないのかね?」

「どういう意味でしょう?」

「今ならば、私が伯爵に口を利いてやってもいいと言っているのだ。上位者の意向に背いたとなれば、君の立場は悪くなるのだろう?」

「いいえ、そのような事実は全くありませんが?」

「え?」


 絶句した教皇は、話が違うとばかりに周囲へ視線を彷徨わせる。

 責任を押し付けたいのかもしれないけど、神殿の最上位者が発言したって事実は消えないよね。


「ところで、そのお付き合いの深い貴族とはどなたでしょう?」

「……ラ、ラミナ伯爵だが?」

「そうですか。国の方針に逆らった貴族として、処分されると思います。そのお友達と連絡が付く事は二度とないと思いますよ」

「な、何を……?」


 ここで慄くあたり、本当に国ってものを知らないね。

 過去の功績を称えてくれる信者が多いのを良い事に、国家運営ごっこに興じていただけだと良く分かる。今回の隠蔽工作にしたって、杜撰が過ぎた。命令系統をはっきりしていないから、指示の押し付けばかりで下位者が意向を汲み取れない。

 諜報部も容易に動ける訳だって実感できた。


「大して重要でないと貴方が聞き流したのか、部下の判断で報告が上がっていないのか分かりませんが、もう一度繰り返しましょう」


 本来なら言葉にする必要もない事だけど、ここで常識は通用しないと諦めた。

 いちいち指摘しなかったけど、私を“スカーレット・ノースマーク嬢”と呼ぶ事は、丁寧な言い回しってだけで“レティちゃん”と軽んじるのに等しい。私は未成年だから境界が怪しいとは言え、爵位を持つ相手を令嬢呼ばわりはあり得ない。私、ノースマーク子爵家の当主だよ?

 そのくらい、ここの人達は国を、貴族を知らない。知らずに済んだ。


「今の私は国王陛下の代理人、王国の総意を背負ってここに居ます。私の言葉はディーデリック陛下の言葉、国の意向そのものです。伯爵だからと、私を阻む権利は持ち合わせていません。私はこの件に関して、陛下より全権を預かっているのですから」

「な!? そ、そんな事が……」


 そんなも何も、外交を担うってそういう事だよ。身分差で口出しされてたら仕事にならない。委ねられる権限については差異があるだろうけどね。


 爵位を持ち出せば私を黙らせられると本気で思っていたのか、教皇は真っ青、議事堂をこそこそ出ていく神官までいる。親玉捕まえてるから小虫に興味はないと放っておいた。

 実際に大国の態度が硬化すると、神様の後ろ盾があると普段はふんぞり返っていても、厚顔を続けられるだけの気概はないみたい。


「さて、理解していただけたなら、会談延期の原因については書面にてご回答ください。今は私の来訪理由を優先したいと思います」

「……いいのか?」

「はい。この件に関しましては国へ一度持ち帰って、改めて対応を決めさせていただきます」

「そ、そうか。ならばその意向に倣わせてもらおう」


 そもそも私は、この程度でとどめが刺せるとは思っていない。

 せいぜいが使者を軽んじた事への賠償金、王国内における神殿権力の制限、布教活動の縮小くらいかな。私達の目的にはまだ遠い。


 だからって、これで手打ちにするつもりは勿論ない。

 口頭で申し開きするんじゃなくて、王国の使者を軽んじて神敵認定を脅しに使った証拠品として、虚偽だらけの釈明文を提出しろって意図は伝わらなかったみたい。

 着実に破滅の階段を下っているね。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] それ以前に魔導士で侯爵令嬢なのだから伯爵如きでどうこうできませんね。
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