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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
1年生編

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まずは1歩目

本日の2話目です。

 ビーゲール商会との提携で、当然ながら私の研究室の状況は大きく変わった。

 成績優秀な侯爵家のお嬢様が趣味で始めた研究室の筈が、国を代表する商会と手を組んだ。注目されない訳がない。

 侯爵家のコネや、領地の成果を搾取しているだけだと思っている者も多いけれど、情報を得ようと私に接触してくる人がぐっと増えた。これまでは登下校や昼食時を狙って話しかけられていたけれど、最近は研究室にまでやって来る。一部を除いて出入りは制限してないからね。

 研究室での面会を望む人達は、世間話だけじゃなくて、私と議論するだけの話題を用意してあるから、私も聞き流さずにきちんとお相手するよ。流石に最高学年の人が多いね。


 そうやって私を訪ねてくる人たちの中から、共同研究者も受け入れた。

 完全閉鎖された環境は視野を狭めるし、良からぬ噂も生むからね。私もできる限りで他の研究室を訪ねる事にしている。おかげで研究に費やせる時間は減ったけど。


 新しい仲間は、キャスリーン・ウォルフ男爵令嬢と、マーシャリィ・キッシュナー伯爵令嬢。

 2人は従妹同士らしいけれど、双子みたいによく似ている。遺伝子の不思議だね。

 淡い桜色の髪を右側で結んでいるのがキャシー、赤みの強いツツジ色を左側でまとめているのがマーシャ。まだ、顔だけで見分ける自信はないよ。


「レティ様、ゴブリン魔石での虐待試験、終わりました。オークの場合と比較すると、魔石の出力で抵抗値が上昇するのは間違いないですね」

「念の為、ソーンラットの魔石も見てみましょう。うまくいけば、魔導線毎の抵抗定数を概算できるかもしれないし」

「はい!」

「じゃあ、私は、私はゴブリンの個体差と測定の誤差範囲を調べますね」

「助かるけど、検体数が増えて大変じゃない?」

「大丈夫です、頑張ります!」


 フリルのたくさん付いた服が似合う2人だけれど、どちらも立派な理系女子です。私は前からそうだしね。

 あ、キャシーは13歳、マーシャは15歳、どっちも先輩だよ。


 元々出入りの多かったオーレリアも共同研究者として正式に登録した。

 彼女は騎士団と国軍にも出入りしているから、常駐はできないけど、社交で研究時間の減った私をフォローしてくれている。


 あと、最近はアルドール先生もよく滞在してる。自分の研究室にいる時間より長いんじゃないかな?

 測定器の扱いは慣れたものだし、現在主に調査している魔導線の性質差に詳しくて、貴重な意見をもらえるから助かっているけれど。


「スカーレット様! 分割付与の試作品が完成しました!」


 出向組と一緒に別部屋にいたウォージスさんこと、ウォズが箱形の試作品を抱えて飛び込んできた。そんな風に嬉しそうにしてると、しっぽが幻視()えるよ?


「本当ですか!?」

「見せて、早く見せてください!」

「もう動作確認は済ませたのかね?」


 うん、皆興味津々だね。


 今回作ったのはファンヒーター。

 どこにでもある家庭用品だけど、加熱、送風、首振り、3種類の付与をそれぞれ別の基盤に用いた新製品です。


「あー、動いてます。あったかいです!」

「本当に分割回路、使ってますか?」

「ええ、こちらの試作品と同じものが入っていますよ」


 3つの基盤は重ねて固めたので、5ミリくらいの板状になっている。基盤の間は魔力遮断材で埋めてるよ。


「材質はアルミか。おお、軽い軽い!」

「先生、私も、私も見せてください!」

「魔導線は銅でしたよね?わー、本当に動くんだ」

「キャシー君達が進めている魔導線の最適化がうまくいけば、抵抗が減って、もっと薄く作れるかもしれないな」

「あー、プレッシャーかけないでください…。でも、目指せアルミ箔!ですね」

「それができたら、筐体も小型化できますね。薄型……ううん、目標はカード型ファンヒーターです!」


 ちなみに、私が並列つなぎからヒントを得て作った新技術は、分割付与と名付けられた。並列付与と、私の一時的な呼称に決まりかけたけど、直列が無くて意味が通らないから変更したよ。

 当面はここで研究を進めて、その成果でビーゲール商会が商品を開発する。まずは軽量、小型化、コストダウンを推し進める予定。しばらくは基盤部分をブラックボックス化して、新技術は秘匿する。その間に、もっと別の可能性も追ってみたいからね。

 キャシーとマーシャが基礎研究を担当、出向組は試作品の作成、ウォズはコスト試算や経理と事務全般、オーレリアは全体の補助、私は応用技術の提案―――と言う建前で掃除機の作成を進める。


「ふふっ、皆さん子供みたいに、はしゃいでますね」


 手伝った部分が少なくて、思い入れが薄いオーレリアが離れたところから微笑ましそうに見つめている。

 まあ、開発が成功した時の研究者なんて、小学生男子みたいなものだしね。

 私は掃除機関連が進んだ訳じゃないから、そこまでの喜びはない。


「オーレリアは作ってみたいもの、ないの?」


 大騒ぎしてる人達に話を振ると、夢か妄想か分からないものが飛び出しそうだから、今はしないよ。


「小型化が進めば、武器への利用もできませんか?」


 現状、剣や銃は単付与か、2重くらいがせいぜいで、魔道武器は大型のものしかない。高級な素材を用いた場合は例外になるけれど、コストが見合わず、一部の裕福な騎士しか持っていない。


「マーシャが言ってたみたいに、カードみたいな基盤ができれば銃に取り付けられそうだし、柄や刀身に分割して付与する事もできるかもね」

「戦争は望みませんけど、そういう武器があるなら、魔物被害を減らす為に使いたいです」


 オーレリアらしいね。

 彼女はいつも自分の無力を責めている。


「お父様達に話してみよう。私達の手には余るけど、武器の量産は軍の管轄だから、特別開発部署とか作れるかもしれない。ビーゲール商会も兵器転用技術を取り扱った実績があるだろうし」

「そうですね―――ちょっとやる気が出てきました」


 うん。技術って、そういう無情を覆すものでもあるんだから。


 私の思い付きから始まった新技術は、既に大きな可能性を生み始めてる。今はまだファンヒーターが精一杯だけど、私も仲間達も、全然止まる気なんてないよ。

お読みいただきありがとうございます。


こっそり始めた3連休2話ずつ更新目標、達成しました。

明日からは更新頻度が戻ると思いますが、また読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ソ◯ー君を人間姿で想像しようと頑張ったけど、ラブラドールレトリバーしか浮かばない。 大型犬かわいい。
[良い点] いきいきと魔法技術の制作が始まる様子は、とてもわくわくしてほのぼのします。
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