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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

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豪語しておきながら……

 聖地デルヌーベン。


 オクスタイゼン辺境伯領の西、三大国の国境に囲まれた領有権凍結地帯。囲んでいるのは国境だけじゃなくて、前世ヒマラヤに並ぶような高山、剣みたいな険山を越えた先にある。勿論、それら全てが魔物領域として立ち塞がる。

 過去に挑んだ勇者の手記によると、ダーハック山で現れた大地竜(アースドラゴン)が可愛く思えるような古龍種、進化を重ねて魔王種に匹敵する程に変異した特殊個体なんかがウヨウヨいるらしい。辿り着くには命を支払う覚悟が必要だとか語られる。


 歴史上極僅かな到達者は揃って、素晴らしい場所だったと言い残している。


「翼竜などが襲ってくると聞きますから、万全を期すならミーティアか軍用列車で向かいたいところですけど……、レティがいるなら大丈夫ですよね?」


 煌剣持ちのオーレリアもいるしね。滅多な事で遅れは取らない。

 翼竜って、ぱっと見プテラノドンみたいな亜竜種だからそれほどの脅威じゃない。その代わりいっぱいいるらしいけど。


「翼竜はともかく、高度を下げて刺激しなければ災害級以上の魔物が襲ってくる可能性は低いと思います。……そうは言っても絶対はありませんから危険を覚悟した上で、無理だと判断したなら撤退すると言う条件であれば、引き受けても構いませんよ?」

「問題ありません。是非、お願いします!」


 青年司祭エモンズさんは勢い良く頷いた。

 当たり前だけど、歴代の中に聖地を踏んだ神官なんていない。あそこは神殿関係者が信仰の為に向かう場所じゃなくて、高位冒険者が名誉を求めて挑戦する場所だからね。それでも腕っぷしより、戦闘をどれだけ避けるかって調査力と運が必要になる。

 熱心な信者には永遠の憧れでもあるそうだけど。


 もっともエモンズさんの目的は、彼が栄誉を得るよりクリスティナ様の為っぽい。


「クリスティナ様もそれで?」

「……ええ、このような機会がまた訪れるとは限りません。是非行ってみたいと思います」


 状況に流されているのでないなら、私に否はない。

 すぐに進路変更をクラリックさんに伝えてもらった。今日はオクスタイゼンの街に一泊、本格的な挑戦は明日になる。


「そもそもの話、飛行魔道具の試作品を作って聖地へ行けるようになるかもしれないと嘯いたの、レティではありませんでしたか? あの後、動いてませんよね?」


 あー、うん。

 そんな事もあったね。


「狭域化実験に領地の運営……、あれから忙しくなったから、コールシュミット侯に任せたんだよね。ええと……、前に飛行列車を観光に使いたいって面会に行った時」

「ああ、ありましたねそんな話も」


 ホラ、ワスレテタワケジャナイヨ?


 あの時点で丸投げを考えていた訳ではないけれど、しばらくしてハミック元伯爵、デイジーさんが捕まって、新規商会立ち上げに協力してもらうどころじゃなくなったから諦めた。

 ウォズがストラタス商会を設立したタイミングと重なったのも痛かったよね。


「忙しさより観光業開拓にあまり魅力を感じなかったのがホントのところかな。クリスティナ様達の前で言う事じゃないけど、あんまりありがたみも感じないし」


 どうしたって優先順位は下がってしまう。


「スカーレット様達からすると、そう言った感覚が普通なのかもしれませんね。神様に縋らなくても困らないようですから」

「レティの場合は、興味のある事を次々積み重ねるせいで、優先順位が戻って来ないだけと言う気もしますけどね」

「中間報告を受けた記憶はうっすらあるよ?」

「本当に、奥へしまい込んでいるではないですか」


 思い出す必要性、感じなかったからね。

 胸張る事じゃないけど。


「現状は、事故が起きても責任を問いませんって同意書を書いてもらって出発するのがやっとみたい。半年前の時点で、挑戦が2回、翼竜に囲まれて走行不能と変異種に追われて撤退だったかな……? 残念だけど、変異種についての情報はなかったよ」

「事故で安否不明がないのは幸いですね。と言うか、レティが気になるのは成功の可否より興味の対象はそこですか?」


 ほとんど未踏の地特有の魔物について知りたいと思うのは普通の事だよね。

 それがあったなら、私狩りに行ったかもしれないのに。


「斥候を任せる冒険者が足りていないのも問題なんだって。丁度、ダンジョン攻略へ注力し始めたのも痛いよね」

「デルヌーベンへの踏破ではなく航路の確保となると……冒険者の旨味的にダンジョンへ流れてしまうのは無理もないでしょう」

「そんな訳で、今は武装型飛行列車の納品待ちなんだとか」


 ミーティア・ウェルキンタイプは予約が山積みになっているから、コールシュミット侯爵の依頼だとしても、優先できる状況にない。ゆっくり待ってもらう他ないかな。


「魔物を蹴散らすなら私でも手伝えるかもしれませんが、斥候をお望みとなるとお役に立てそうにありませんね」

「それ以前に、伯爵令嬢を雇うって考え方がないと思うよ?」

「あるとするなら、カロネイア伯爵家が侯爵と提携して航路開拓を目指す場合でしょうか? 現実的ではありませんね」


 戦征伯の全面協力って、ほとんど国家プロジェクトだからね。現状はダンジョン攻略がそれにあたる訳だし、冒険者と同じで余力もなさそうだよ。


「申し訳ありません。王国でもまだ課題を抱えている状態だと言うのに、わたくしの我儘で割り込んでしまったようですね」

「クリスティナ様が気にされる事ではありませんよ。デルヌーベン観光が難航しているからと言って、私の個人的な活動まで制限される訳ではありませんから」


 航路開拓の依頼が私に来たって話でもないからね。

 それはそれで、戦征伯を動かすのと同じくらいにあり得ない。魔導士(わたし)を戦力として投入する場合、国王陛下の承認が要る。流石に観光目的では無理だろうね。


 諜報部からの連絡によると、今はまだ怪しい動きを泳がせておきたいって話だったから余裕もある。教国で部屋に引き籠っているより、寄り道するくらいの方が有意義だと思う。


「それに、機会に恵まれなかっただけで、興味がない訳ではありませんよ。聞けば、デルヌーベンに到達した人達は例外なく、以降は信仰に篤くなったのだとか」

「神殿が都合の良い情報を流布したのではありませんか?」

「その可能性は考えました。でも、王国の古い記録でもそうでした。一体どんな作用が働いたのか、折角なので調べてみたいところです。私が聖地へ行く意義も、十分にありますよ」

「そこで信仰でなく、好奇心が理由に上がるのがレティですよね」


 オーレリアのジト目が刺さる。

 楽しみ方はそれぞれでいいんじゃないかな?

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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