シドのこれから 1
「姉妹都市として契約を結びましょう!」
思い付きを提案に向かった私は、リーヤさんに呆気で迎えられた。驚きと困惑が強い。
アポの用向きを明らかにしてなかったから仕方ないね。オーレリア達に対するのと同じ調子で突撃したら、こんな反応が返るに決まってる。
改めて、フェルノさんが亡くなった事への懸念を伝えると、一応は理解を示してくれた。彼女にも今後の不安はあったらしい。もっともその大部分は、彼女の活動を肯定してくれる人がいなくなった事への心許なさだったようだけど。
「それで、どうして姉妹都市なのでしょう?」
その疑問はもっともだった。
姉妹都市って、文化交流や親善を目的とした結び付きだから、国の情勢を一変させるような効果は期待できない。外交ともまた違うから、王国から援助を引き出せるって話でもない。あくまでコキオとシド、私と臨時政府の契約となる。
南ノースマークと貿易を始めるきっかけにくらいは出来るかもしれない。でも、この国に海はないし、現状では特産と呼べるほどのものもない。強いて挙げるなら、有名な音楽ホールがあって多くの著名人達が演奏した歴史があるってところかな。何年か前に反政府勢力を虐殺する場所になったって汚名しか残ってないけど。
「私にはこれが精一杯だからです。残念ながら、政策に口を挟める立場ではありませんので」
扱いを任された教国とは違う。
あくまでシドに来たのは急な報告を受けたイレギュラー、ここで何か行動を起こす許可は貰っていない。一時的な同情で勝手はできない。短絡的に決定を下せる筈もない。
この3年、積極的な関わりがなかったって事は、様子見が国の方針だろうしね。
「そ、そうですか……。あ、いえ、スカーレット様からは既に十分な支援をいただいています。これ以上を望むのは厚顔と言うものでしょう」
もっといい提案が貰えると思っていたのか、リーヤさんは落胆が隠せていない。
でもこれ、私じゃなくて貴女達シドの人間の問題だよ。わたしにとって南ノースマークが最優先であるように、リーヤさん達がしっかりしないと。
「とりあえず私が提示できるのは、留学生の受け入れでしょうか」
「子供達を、スカーレット様のところで学ばせていただけると?」
「王国で学んだと言うだけで箔が付きますし、最先端の技術を国で役立てられますよ。どれだけの子供達が望むのか分かりませんが、養護院の大きな実績になると思います」
共和国をはじめとした周辺国の教育が劣っているとは思わないけど、大国で学べるだけの才能を認められたのだろうって付加価値が付く。養護院の教育を疎かにできなくなるよね。
優秀なのが前提であっても、リーヤさん達を見る限り意欲で溢れていると思う。愛国心も教わっているみたいだから、貪欲に学んでくれるだろうね。
「勿論、技術そのものは渡せません。しかし、学びを得た子供達が模倣するなら、それはこの国の技術でしょう」
「外で得る知見が掛け替えのないものである事は、私自身が知っています。義父様がいなければ叶わないと思っていた機会を、子供達にいただけるのですね」
リーヤさんの視線はウェルキンが停泊する方向に向いていた。飛行列車が飛び交う未来を夢見たのかもしれない。
「しかし、スカーレット様の利点はあるのでしょうか。私達は何をお返しすればいいのでしょう?」
「留学に来た子供達が、何か新しい発想をもたらしてくれるかもしれません。難題突破の一助になるかもしれません。定住を希望して長く研究を続けてくれるかもしれません。領地への良い影響を期待できたなら、残留を私からお願いするかもしれません。そうした可能性で十分ですよ」
「しかし、可能性が花開かない事も考えられます。スカーレット様のご期待に応えられなかった場合の補償は必要でしょうか?」
「だからこその姉妹都市契約ですよ。拘束力は発生しません。留学も結果を見越したものではなく、あくまで交流が目的ですから」
期待って言うのは望みを託す側が一方的にゆだねるものだと思うから、託された側に責任を問おうとは思わない。
国が違う、常識が違えば視点も変わる。外からの風は南ノースマークの研究者にとってもいい刺激になる。それが結果に繋がるかは別の話で、環境を用意するのが領主の仕事だからね。もっとも、それほど分が悪いとも思っていない訳だけど。
「しかし、それではこちらに都合が良過ぎませんか?」
「そう言ってくださるなら、3つほど条件を追加させてください」
今度の提示にはリーヤさんも警戒する様子を見せた。為政者になろうって人だから、美味しい話に対して疑い深いのは正しいかな。
とは言え、無理難題を吹っ掛けるつもりもないから私は困らない。
「まず、契約の締結を含めた調査の為に、ウォズを残していきます。彼の自由と安全を保証してください」
こう言っておけば、フェルノさんの過去を洗うウォズに不審を感じても介入できない。妨害も難しい。ウォズを守れるよ。
「ストラタス商会の会頭でしたか? 商売開拓の下調べも行うのでしょうか?」
「その予定です。もしかすると支店を作るかもしれません」
「分かりました。そういった事情なら、こちらから協力したいくらいです」
外資が入るなら、今のシドにとってこれほど嬉しい事もないだろうしね。ウォズとしても、私との繋がりができる場所に支店を置くのには意義がある。
ここまで言ってウォズに何かあったなら、私は躊躇いなくこの国を切り捨てる。ウォズとシド、どっちが私にとって大切かなんて考えるまでもない。
そこまで伝わったかどうかは分からないけど、リーヤさんは神妙な顔で頷いてくれた。頼んだからね。
「次ですけれど、これはあくまで提案です。長期的な話になりますが、養護院を教育機関に作り替えていただけますか?」
「え?」
戸惑いが強い様子から察するに、今後については何も考えてなかったね?
これまではフェルノさんがいたから、全て任せておけば良いとでも考えていたのかもしれない。でも子供って成長するし、これから国を変えていくなら孤児は減っていく筈だよね。
このまま役目を終えるのは勿体ないよ?
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