シドの正念場
分かっていた事ではあったけど、様子を見てみた子供達はお通夜みたいな状態だった。フェルノさんの死が理解できない小さな子も、周囲の反応に不穏なものを感じて大人しい。
大好きなリーヤお姉ちゃんや聖女様効果でも元気付けるのは難しそうだね。
更に消沈した空気は、養護院ばかりかご近所にまで伝染してる。
養護院は近隣の子供達にとっても遊び場で、半ば託児所として機能していたらしい。その面倒事を進んで背負い込んでいたフェルノ老人の事を大勢が悼んでいた。
養護院は政府の管轄で継続が決まっていると言う。それを認めさせるためにと、給付金を投じた思惑もあったみたい。臨時政府はフェルノ老人に借りがある。養護院出身者も多く混じっているし、本人が亡くなったからと言ってすぐさま子供達を切り捨てるなんてできないと思う。
「リーヤさん達が上手く庇ってくれる……そう思いたいのですけどね」
相談したオーレリアも浮かない様子だった。
何しろ人数が多過ぎる。税金で運営費を賄うとしても、どうしても負担が大きくなる。
「今の臨時政府が世間に受け入れられているのは、これまでの混乱に疲れたと言うのが大きいです。しかし、それで不満を持つ者がいなくなる訳ではありません」
「野心を持つ人もね。リーヤさん達の歳が若いから、余計に隙が多く見えるかも」
共和国に学んで個人へ権力が集中しないよう法で縛ろうとしてるけど、この国以外を知らない人々へ伝わっているかは怪しい。こういう時、指導者がいるのは当然と考える人、むしろ指導者が明確じゃない事に不安を覚える人って多いんだよね。
「そこへ来て、資金面の不安が明るみになったなら、余計に不満が膨れ上がりますよね」
「上手く不満を煽る人が現れたら、またこの国は荒れるかな」
「そうならないようにリーヤさん達には頑張ってほしいですけど、弱みを背負ったままとなると難しいですよね」
シドで困窮している人は多い。
一時より税金が下がったとは言え、生活が好転するには遠い。なのに子供達は国のお金で望むだけ学びの場が整えられているなんて事になったら、不要論が噴出するかもしれない。
「これまではフェルノさん個人の支出だから許されていた事も、国の運営となったら見直しを迫られるかもしれない。合議制の欠点だけど、多数意見を無視できないからね。それで一度削減に着手してしまうと、養護院の水準は間違いなく下がるよ」
「それって、フェルノさんが望んだ養護院の姿でしょうか?」
国の未来を担える集団に育つか、ただの労働力で終わるか。シドの今後に直結してる。人口の2%を占める子供達、その影響力は小さくない。
無駄を省くと言えば聞こえはいいけど、短絡的な削減は可能性を潰す。
「混乱を続けていた国が折角前へ進み始めたのに、たった3年で後退するような事態はフェルノさんも周辺国も望んでいない。勿論、王国もね」
「特にカラム共和国は難民の受け入れに苦労したみたいですからね」
「うん。戦士国が冒険者の一団を派遣したのだって、今ならまだ見捨てないで済むと判断したからだと思うんだ。多分、次はない」
小国と言っても滅亡したなら被害は小さくない。過去には、人の死が積み重なったせいで、それを求めた魔物の巣窟になった例もある。
加えて教国の状況がかなり危うい。悪化が重なったなら、小国家群全体に少なくない悪影響を与える。王国も他人事ではいられない。
「介入するんですね、レティ?」
「出来る範囲で、だけどね」
国外での私の裁量範囲は限られる。
それに、支援も過ぎると属国扱いにしてしまう。しかも魔導士が動いたとなると、王国の侵略行為と捉えられかねない。
「個人的にだけどさ、リーヤさん達が作る国を見てみたいんだ。一度行くところまで荒廃したからこそ生まれる国を応援したい」
「政治や人道的な理由より、その方がレティらしいです」
その為には、1人死んだからって時計の針を止めるなんて許容できない。フェルノさんを偲んで政敵に隙を見せるなんて、本末転倒も良いところだと思う。大事な人を亡くしたからこそ、それを無駄にしちゃいけない。
そもそもこれは、私の役目じゃないよ。
今のリーヤさん達は精神的に参っているかもしれないけど、国を背負って立つと決めた覚悟、思い出してもらおうか。
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