表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

410/695

グランダイン養護院 3

 当然確認するだろうと思っていたクリスティナ様の質問に対してすぐには答えず、フェルノ老人は私へ視線を向けた。


「スカーレット様の御用向きは私が主導した給付金、その資金の出所についてで宜しかったですかな?」


 はぐらかさないでと目を吊り上げるクリスティナ様は取り合わない。


「はい。できるなら、名前を伏せて私財を費やした理由もお聞きしたいところです」

「ええ、隠し事など致しません。勿論、先程の聖女様のご質問についてもです」

「どういう事でしょう?」

「それら2つの疑問点につきましては、根が同じだからです。順を追ってお話いたしましょう」


 シドの国土は私の子爵領より小さい。首都以外には目立った町もないから人口はもっとになる。基金の支援があれだけの感謝を生んでいた一因でもあるよね。

 それでも、十数万ゼルものお金を各個人へ届けようと思ったら個人で賄える範囲を超える。劇的に生活を向上させるだけの金額ではないにしろ、今を凌げるだけの扶助にはなった。だからこそ、ウォズの情報網に引っ掛かった訳だけど。


「先代の聖女様が関わる……もしかして、金ですか?」

「はい。内乱が続いて困窮する国民を憂い、イリスフィア様からは多大な支援をいただきました」

「それでグランダインと? 先代聖女様の名前ではいけなかったのですか?」


 イリス養育院やイリスフィア児童寮、小国家群には彼女の名前を冠した養護施設も多い。逆に言うなら、クリスティナ様みたいな先代聖女マニアでなければグランダイン孤児院なんて知らない可能性が高い。


「この国で先代聖女様の名前は決して英名ではありません。何とか国民の救いになればと支援先を模索したようですが、戦闘激化の発端にもなりました。金塊だけ受け取って国外へ逃亡した元貴族も少なくありません」

「でも、それは……」

「分かっています。それでも、当時の出来事があの方の意図したものではないと理性的に判断できる者ばかりでもないのです」

「なるほど、それでグランダイン養護院、ですか?」

「そうなります。当時、何から手を付けたものかと右往左往する私へ、穏やかな院長夫妻と優しい義姉のいた孤児院、思い出の場所を再現して欲しいと子供に頼まれた事もあります。真似られるかは分かりませんでしたが、せめて名前だけでもと……」

「そうでしたか。イリスフィア様の意思を継いでくださっていたのですね」

「そんな綺麗なものではありません。善人として知られていた夫妻の名前を前面に押し出しておけば、まさかそこに私がいるとは思わないだろうとの保身からです」

「その子は、グランダイン孤児院の思い出を語っていた子は、当時について知っているのですよね? その子は……いえ、もう立派な大人でしょうか。その方は今何処に?」

「残念ながら、そのしばらく後に病で倒れました」

「そう……です、か」


 クリスティナ様が折角見つけたと思った先代へ繋がる糸も、ここで切れてしまった。フェルノ老が環境を整えたとしても、それで全員が助けられる訳じゃない。それだけこの国の状況は悪かった。


「つまり今回国民へ届けたお金は、先代聖女様の金塊だった訳ですね。しかし、どうして今だったのでしょう?」


 金を貨幣に変えたならその痕跡はウォズが追える。簡単に嘘と分かる誤魔化しはないと思う。ただ、先代は5年以上前に亡くなっている。それより前に金を受け取っていたならタイミングが合わない。


「名前を借りたからか、私の活動は教国にまで届いていたようです。そして私なら子供の為に正しく金塊を使ってもらえるのではないかと支援をいただきました。養護院の経営を随分と助けられたのは事実です」


 個人経営の規模を大きく超えているのはそう言った事情な訳だね。

 それだけの孤児がいる事が、この国の恐ろしいところでもあるけれど。


「あの方の晩年には、困窮を続ける国民へも届けて欲しいと金塊が届きました。しかし、養護院を経営するだけの私にそんな伝手がある筈もありません。信頼できる者に心当たりもありません。秘蔵しておくしかできませんでした」

「この国へ来られないイリスフィア様からすると、数少ない金塊を託せる相手だったのでしょうね」


 活用できる手段があるかどうかは別として。

 知った顔がいるこの国へ先代聖女様が来られる筈もないから、情報が得られないのはどうしようもない。


「恐れ多い事です。しかし、近年になって状況が変わりました」

「と言うと?」

「政治について学び、知見を広げる為に周辺国を渡り歩いたリーヤ達が国家運営へ打って出る覚悟を固めたのです。あの子達が、利権を貪る事しかしない指導者の排除を決めた時、これだと思いました」

「聖女様から託された金塊の使い道を見定めた訳ですか」

「はい。傭兵の雇用、冒険者の誘致、その他諸々、私の稼ぐ小金程度では足りません。聖女様の遺産を頼ると決めました」

「伝え聞くかつてのシドと今の治世、ここへ来るまでの街並みを見ただけで、先代の理想に近いのがどちらかは分かります。イリスフィナ様がその使い道を責める事はないでしょう」

「クリスティナ様にそう言っていただけるなら、いくらか救われます」


 リーヤさん達を国外へ出す苦労と、換金の為に大量の金塊を持ち出す苦労。その困難さを思うと頭が下がる。


「そう言った事情なら、今回配ったお金はその残りですか?」


 先代聖女様はどれだけ金を託したのかって話だけども。


「はい。これからの国営に活かすと言う話もあったのですが、できる限り聖女様の意向に沿おうと……」

「そのお気遣い、先代に代わって感謝いたします」


 これで謎はほとんど解けた。

 フェルノさんが発起人なら、名前を公表する訳がない。どれだけ人や国に尽くそうと、何処で過去の憎悪を呼び起こすか分からない訳だし。


「いい機会ですから、私からも質問させてもらっても宜しいでしょうか?」

「何でしょう?」

「聖女クリスティナ様、聖女と名高いスカーレット様の意見をお聞かせください。私は裁かれるべきでしょうか?」

「そ、それは……」


 クリスティナ様は迷う素振りを見せたけど、私の答えははっきりしていた。


「好きにすればいいのではないですか?」

「え?」

「私にこの国で誰かを裁く権限はありません。そして、裁きを下せるのは立件できた事件だけと言うのが法治国家の原則です。混沌としていたこの国でどれだけの過去が暴けると言うのでしょう?」

「それで被害に遭った者達が納得できるとは……」

「そうだとしても、制限を超えた復讐を法は認めていません。これから法律を改正してゆくリーヤさん達にしても、今更貴方を裁きたいとは思っていないでしょう」


 法律を自由にできる人達が身内にいるんだから、悪いようにするとは思えない。公私混同だけど、時効期間の調節とかできるしね。

 どうせ名前くらいは変えているんだろうから、偶発的に顔を合わせるくらいしか発覚の可能性も残っていないと思う。


 無味乾燥かもしれないけど、為政者(わたし)としては情に偏った判断は下せない。現状が彼の都合の良い方向にあるってだけだね。


「そう……ですね。スカーレット様とは視点が違いますけれど、聖女(わたし)としても責められる立場にはありません。悔い改めたフェルノさんを、神様が掬い上げない筈がないと思います。虚無へ堕ちるのは、罪を認められない者だけですから」


 迷ったクリスティナ様も答えを出した。改心による救いは聖書でも語られている。


「私は神を、子供達に一度として手を差し伸べなかった神を信じてはいません。そんな私でも許されるのでしょうか?」

「フェルノさんを許すのは聖女(わたし)でも、神様でもないと思います。貴方自身が罪と向き合ってください。戒めとする自身と向き合って、許せる日まで励んでください」

「ありがとう。ありがとう、ございます……!」


 震えるフェルノさんに涙はなかった。でも、クリスティナ様の言葉に胸を打たれたのは分かった。


 こういうトコ、きちんと聖女様だよね。個人に寄り添えない私には、あんなふうに言ってあげられそうにない。


 ともかく、事情を訊く限り怪盗が入り込む余地があるとは思えない。

 ここの養護院を知れたってだけで無駄足とは思わないけどね。困窮して親に売られた子供や浮浪児、旧エッケンシュタインの犠牲者を集めた養護施設で生かしたいかな。

 教国で無駄に過ごすより、ずっと来た甲斐はあったよね。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ