表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

406/695

今代は先代のファン

「先代聖女様の出身国がシドだったんですか?」


 教国を出発してすぐ、クリスティナ様の同行理由を聞かされた。


 彼女の出国手続きに手間取ったから、ウォズの到着からすでに2日が経過している。同行許可自体は簡単に得られた。過去にも聖女が周辺国を訪ねて、その存在を知らしめて回った事はあるらしい。聖女の役目の一環とも言える。

 もっとも今回の場合、私が一時的にでも教国を離れてくれるなら、聖女の祈りが滞るくらいは何でもないって様子だった。

 この間に種々の隠蔽工作を進めておくつもりみたいだね。諜報部が絶賛活動中だから意味はないけど。


 テルミット教国は、小国家群の中でもそう大きい国って訳じゃない。国の成り立ちが特殊な事もあって、あまり国土を広げられなかった。現在教国としてアルミナ神殿の統治下にある場所は、初代聖女がその権能で流行り病を祓った場所に限られる。

 歴代の聖女は神様の加護によって教国内に生まれてくると言われているけれど、その範囲内にユニーク魔法使いが誕生する確率は高くない。暗黙の了解として、周辺国で確認された固有魔法の使い手を勧誘してくる事が多いらしい。その上で、出自は教国だと誤魔化している。

 先代聖女の場合、それが小国シドだったらしい。


「先代聖女イリスフィア様は、私よりずっと多くの人々に救いの手を差し伸べたと聞きます。是非! その足跡を追ってみたいのです」

「なるほど……」


 クリスティナ様はそう言うものの、その差は権能の性質に寄るところが大きいと思う。初代聖女だって、病の流行さえなければ、人々から持て囃される事もなかっただろうしね。


「先代聖女様の権能は……、確か“錬金”でしたか?」

「はい! わたくしの就任は5年前、残念ながらその時点で既に亡くなっていましたが、権能によって生み出した富を様々な慈善団体へ出資したそうです。多くの病院や孤児院にそのお名前が残っているのですよ」


 そう言えば、共和国でもイリスやイリスフィアの名前を冠した施設が目に入った。つまりその分、教国の名声も高まったって事でもある。


 先代の偉業を語るクリスティナ様の瞳は、私に初めて会った時以上に輝いている気がした。そんなに憧れの対象なんだね。


「俺も、話だけは聞いた事があります。先代聖女様の活躍によって金の価格が一時的に下がったそうですよ。価値そのものへ影響を与えるほどではありませんでしたが、魔導線への利用が楽になったと聞きました」


 魔物素材やダンジョン素材を使った方が魔導線は伝達効率がいいのだけれど、その見た目から金の利用を好む貴族は多い。貴族に魔道具を売るビーゲール商会はその恩恵に浴していたんだろうね。


「わたくしの“祝福”同様に効果を得る為の時間はそれなりに必要だったと聞いています。一度に金へ変えられる量も限られていたのでしょう。それでもかなりの量を市場へ流したのだと思います」

「多くの金鉱山は魔物に占拠されていますからね。金の供給はいつでも不足状態にあります。イリスフィア様の影響は大きかったでしょう」

「そうなのです! 先代聖女様は金を望む富裕階級の欲求を満たすと同時に、貧しい人々へ手を差し伸べていました。その影響力は計り知れません!」


 随分無茶苦茶な権能だったみたいだけど、魔法の範疇だった事に違いはない。

 どこかの元伯爵の半身が黄金化したって前例があるからね。固有魔法だったのは間違いないとしても、この世界では奇跡ってほどでもない。研究者視点で語るならだけど。


 あらゆる物質を構成する原子は、陽子、中性子、電子の僅か3種類の組み合わせで成り立っている。

 極端な話、その構成数を変えるだけで別物質に変わるとも言える。


 実際の原子への干渉は決して容易なものではなく、質量の大きな原子核をいくつかの原子へ分断する事を核分裂と言うし、別個の原子同士を合わせる事を核融合と呼ぶ。どちらにしても膨大なエネルギーの入出が発生する。

 とは言え、それはエネルギー保存則が絶対だった前世の話。


 無の状態から物体を生み出せるこの世界の場合、原子構造への干渉も決して不可能ではなくなってしまう。

 エッケンシュタインで見つかった魔道具を切っ掛けに研究してみたところ、一応は私も物質変換魔法を習得できた。ただし、頭の中にある原子構造モデルは、あくまで一原子の話。それを物質全体へ適用させるには、尋常じゃない集中力を必要とした。僅か数グラムの金を生み出すのに、精も根も尽き果てる。しかも、それに必要な精度の魔力制御を可能にしたのは他にノーラくらいだった。

 実用化は遠い。


 以前に見た悪質な魔道具は、特殊な感情で染めた呪詛魔石を利用していた。つまり欲望。

 魔石と使用者の感情を一本化する事で物質変換の魔法を増幅、変換先を金に限定していた。制御できていた訳じゃないから、金塊になった人がいたのだけれど。


 そんな魔法を容易に扱った先代聖女は、生態自体が術式に組み込まれていた気がする。視覚に鑑定魔法が融合しているノーラみたいにね。

 金に限らず様々な金属を生み出せたと言う話からもその片鱗が窺える。固有魔法に特化して他の魔法が碌に扱えなかった可能性まであるね。ご存命ならノーラと対面させてみたかった。


 ちなみに、主にダンジョンで産出する不思議金属はこの魔法の適用外となる。金属の性質に魔力が密接にかかわっており、陽子、中性子、電子の3種類で構築できる限界を超えている。

 記録を確認する限り、特化魔法使いのイリスフィア様でも、オリハルコンは勿論、ミスリルやダマスカス鋼と言った特殊金属を生み出した報告例はない。希少価値からするとこれらの方が余程高額なので、作らない理由はなかったように思う。

 それが無理だったからこそ、市場価格から金の生成に偏ったんだろうね。

 尚、プラチナは希少金属ではあるけれど、この世界では魔道具工学的に利用範囲が金に劣ってしまう。


 ともあれ、先代イリスフィア様は教国の財政向上と周辺国への影響力増進に貢献した偉大な聖女に違いない。

 彼女が生み出した富の多くは貧しい信徒の救済に充てたって話だけれど、どれだけが上層部の懐へ消えたかは知らない。そのあたりも、今諜報部が追跡してくれている。


 成果の伝わり難いクリスティナ様は先代との違いが大きい事もあって、教国内での彼女の立場は決して良いものとは言えない。自主的に権能を使って象徴としての役割を全うしているおかげで、クリスティナ様が聖女である事を何とか許容している状況にある。

 彼女が先代の痕跡に興味を示したのも、そのあたりに原因があるのかもしれない。


「イリスフィア様はシドの孤児院にいらしたそうです。ご自分の権能が特別なものだと気付く以前、古くなった包丁や農具の手直しに使っておられたと聞きます。今回、わたくしは是非ともその孤児院を訪ねてみたいと思っています。当時を覚えている方はいらっしゃるでしょうか? 孤児院でご一緒していた方が見つかればいいのですけれど。その頃から慈愛に溢れていたのかも聞いてみたいですね。できるなら生家も訪ねてみたいところですが、孤児院以前の追跡は難しいでしょうか?」


 到着前から目を輝かせている様子からすると、主目的は明らかだけどね。

 彼女的には聖地巡礼と言っていい……のかな?

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ