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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

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聖女の権能

再開します。

 聖女様と知り合ってからしばらく、私は神殿奥の邸宅へ通う日々が続いた。彼女と約束した魔力吸引の魔道具を作らなくてはいけない。


 将来的には体内魔力の異常全般に効果のある治療魔道具にしたいけど、今回はクリスティナ様専用に調整する必要があった。何しろ、神殿にいるから色々と制限が多い。魔道具そのものは認めさせたけど、魔力充填器や交換部品、教国以外では普通に手に入るものが流通していなかった。


 教義のせいで、便利な新しい魔道具へ交換するって発想が国民のほとんどに無くて、骨董品みたいな魔道具が現役で稼働してる。

 クリスティナ様は光属性なので、いつもなら吸引した魔力は照明にでも再利用するところ、手に入った魔導線の伝達効率が悪過ぎて短時間で消費してしまう。これなら魔石を買って来た方が早い。

 多少の節約を考えるより、魔力吸引後に回復を早める目的でモヤモヤさんとして拡散させるように改造する事にした。私的には不快な視界になるけども。


 ちなみに、魔道具を導入する許可は即日もぎ取ってきた。

 教定審議会は定期開催みたいで次は2カ月後って話だったから、その時に必ず認可するって誓約書を教皇の名前で発行してもらった。暫定であっても、しっかり効力は発揮する。

 ただし、王国から素材を輸入するって許可は下りなかった。この件については、信仰を理由にオットーさんが反対していたから強行は避けた。実際、聖女様が率先して教義を破るって言うのも印象が悪いから仕方ないかな。

 吸魔の素材だけは、規定の儀式を行う事で神様が浄化してくれたって建前で認めてもらった。


「祈りの時間を分割して負担を減らす訳にはいかないのですか?」

「お世話してくださる皆さんが心配するので、試してみた事はあるのです。しかし、神様が応えてくださる感覚は訪れませんでした」


 通う以上、ユニーク魔法にも興味があるので情報収集は欠かさない。


「そもそも、祝福の権能が効果を発揮したかどうかは、分かるものなのでしょうか?」

「神様に祈りが届くと胸が温かくなるのです。それから、権能の働きによって笑顔になる人々の情景が見えてきます」


 魔導士の誓約や収穫祭の儀式中に感じたものと同じかな。

 そうなると魔法より儀式寄りって事になる。人によっては、神様に祈りを伝えるまでが彼女の権能で、実りをもたらすのは本物の奇跡だと解釈するかもしれない。


 そんな事ってある?


「あれ? 発生場所については分からないと言う話ではありませんでしたか?」

「実はほとんどの場合で、その場所が何処なのかが分からないのです。わたくしがもっと地理に詳しければ伝えられるかもしれないのですが……」

「ここに籠っている弊害ですか。何か口実を作って世界を広げてみるのも良いかもしれませんね」

「憧れはあります。しかしここを出るとなると、祈りを捧げる時間が減ってしまうのが問題ですね。人々に恩寵を届ける機会を減らしてまで外に出ようとは、わたくしには思えません」


 そう言われてしまうと、私には何も言えない。

 信仰の薄い私に、彼女の意思を挫けるほどの説得材料は用意できない。

 だけどこうして話していて、権能によって神様の存在を知覚してしまうせいで、彼女は信仰に囚われてるんじゃないかって疑惑も生まれた。

 歴代の聖女の権能は様々だったと聞いている。クリスティナ様の場合、教国の象徴である彼女をなるべく外に出したくない上層部にとって、特に都合の良い権能って気がする。


「それなら、広く旅をした冒険者を相談役として招いてみてはどうでしょう? クリスティナ様が見た情景を話せば、それが何処なのか特定してくれるかもしれませんよ」

「なるほど、そう言った方の経験を聞くだけでも少し興味があります。良いかもしれませんね」


 この国の場合、冒険者って時点で渡航者だから外の話を知っている。

 彼女が知見を得る事を神殿の主流派は快く思わないかもしれないけど、今なら私が()()できるよね。


 などと歓談していると、黒ローブのお世話係が音もなく部屋に入ってきた。存在しないって建前に沿っている為か、彼女達は気配を断つのが上手い。クリスティナ様が祈りを捧げる期間中、彼女の集中を乱さないための技術って可能性もある。


「お話し中、申し訳ありません。スカーレット様に面会の方がいらっしゃいました」


 私に?


 神殿関係者が私に便宜を図ってほしいと言った懇願の場合、私が滞在している部屋を訪ねて来る。それはオットーさん達の場合も同じ。

 諜報部員の場合は、余計に人目を避けて接触して来る。

 そしてオーレリアは今日も街へ行っている。困った事に心当たりがない。


「って、ウォズ!?」


 クリスティナ様に断ってから邸宅の入り口に向かってみると、待っていたのは良く知った顔だった。本来ならここに居る筈がない。これで思い至るのは無理だったね。


「申し訳ありません、スカーレット様。どうしても伝えたい事があり、急遽俺が飛んできました」


 ウェルキンから離れているので、魔力波通信機での連絡は叶わない。

 教国の機密を堂々漏らせる魔道具の持ち込みは、流石に神殿関係者を刺激するから避けている。

 一応、首都の外で待機してる連絡員に報告書を届けて王都と連携してもらっているんだけど、通信先が国の役人なので、何でも伝えるって訳にもいかなかった。


「それだけ大事な用件なんだよね? 領地で何かあった?」

「いえ、そちらは平和です。ただ、ヴィム・クルチウスから連絡がありました」


 その名前を聞いて、ウォズが来た理由に納得する。善意で動く人間じゃないから、彼の情報となると私が頼んだ件でしかありえない。


「つまり怪盗絡み?」

「はい。ここから東、カラム共和国の更に先にシドと言う小国があります。その国民へ出資者不明の大金が配られたそうです」


 景気が好転したってくらいなら、クリスティナ様の祝福と言う可能性もあった。でも現金を配り歩くなんて、義賊活動くらいしか思い当たらない。

 鏡像怪盗がいつまでも留まっているとは思えないから、ウォズが急ぎで伝えに来る訳だよね。


 けれど、タイミングが悪いとも言える。

 何しろ、私は正式な使者として教国に滞在している。怪盗を追いたい気持ちは勿論だとしても、責務を放棄するのは座りが悪い。

 それに、既に怪盗は去っている可能性も高い。


 私が迷ってしまっていると、そこへ決意を漲らせたクリスティナ様が現れた。


「すみません、話が聞こえてしまいました」


 うん、それは私が悪い。

 現れたウォズに吃驚して大声出したからね。


「スカーレット様、宜しければ、わたくしをその国へ連れて行っていただけませんか?」

「え?」


 さっき、神殿の外へ出る事を躊躇ってなかった?

 どういう心境の変化?


 なんだか、思ってもみない方向へ事態が動いている気がするよ。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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