戦士国のギルド
ある程度の情報収集を終えた私達は冒険者ギルドへ移動した。
途中、キャシーは潜航艇制作の為に別れた。足りない素材は提供してもらえるよう契約も交わしてある。
当然のように海へ潜ろうとする私達を、ヤンウッドさんは不思議そうな顔で見ていたけれど、詳しい説明をする気はない。潜水艦って概念のないこの世界で、王国ですら普及していない技術を垂れ流すとかあり得ない。
「ところで、火属性魔法が有効なら該当術師を集めての一斉討伐は行っていないのですか?」
「船の入港に支障が出始めた頃、実施しました。御覧の通り、成果には繋がっていません。水面に接している為効果が薄く、接近に使った船が海中から伸びた触手に襲われて撤退を余儀なくされました」
「あー、やはり水中にもそれなりに触手が伸びているのですね」
自重を支えるだけじゃなくて、根を張り巡らせているような感じなのかもしれないね。
しかもノーラの推測通り群体なのだとすると、露出部分を焼き切っても海中触手は動く可能性が高い。逃げ場が限られる海だから、見通せない下方からの強襲があったなら失敗も仕方ない。
飛行ボードを貸すだけで状況は大きく変わるかもね。
「おい! そこで何をしている?」
オーレリア達を待ってるついでに追加で情報を引き出していると、随分高圧的な声が飛んできた。
下ろし立てで冒険者感が漏れてこないコスプレ少女と、背は丸めがちでも役人らしくパリッとした出で立ちの2人が連れ立っているのはかなり異質に見えたかもしれない。
今の私の護衛はヴァイオレットさんだけど、他国の要人に会うのだからと服装も整えているせいで、冒険者ギルドでは余計に浮いていた可能性はある。
威圧感バリバリで現れたのは、ニュードさんも吃驚ってくらいの巨漢と神経質そうな眼鏡の男性だった。
「ああ、丁度良かった。ギルド長、副ギルド長、彼女がヴァンデル王国から来たスカーレット・ノースマーク子爵です。ゼルト粘体討伐に協力してくださいます」
「あん? そんなお嬢ちゃんが!?」
「……オードリー殿、我々は打つ手を失った訳ではない。救援を乞うのは待ってほしいと伝えた筈だが?」
描いていた私の印象が思い切り違ったみたいで大きい方は顔を歪め、細い方は不快感を隠しもしなかった。
ちなみに強面で大きい方がギルド長。この国ではギルドでの出世も冒険者としての実績と筋肉で決まるのかなってくらいに迫力がある。強さを示さないと部下が従わないのかもね。
細い方が副ギルド長らしい。細いと言ってもギルド長と並んでいるからであって、術師っぽいのにしっかり体を鍛えてあるんだけども。眼鏡よりモノクルが似合いそうな雰囲気がある。
それから、ここはギルドの総本山だからグランドマスターって人がいる筈だよね。
「あ、いえ、ですから、こちらも何度も説明した筈です。面子にこだわる気持ちが分からないでもありませんが、いつまでも海が封鎖された状況を放置できません」
「あア!? だからって俺達から手柄を奪おうってか?」
「そもそも魔王級指定していない現状では他国からの干渉はできない筈だが?」
「そ、それも貴方達が反対しているせいではないですか!? 討伐する見通しがあるならその案を出してほしいと常々言っているのに、我々が討伐するといつまでも言うばかりで、状況はどんどん悪くなっているのですよ」
まさかとは思っていたけど、やっぱり話が通ってなかったんだね。
「はっ! 俺様が本気になったなら、明日にでも討伐してやらぁ!」
「確実に討伐する為に、計画を練っている段階だ。確実を期すなら時間がかかるのも当然ではないか」
正直、付き合っていられない。
ヤンウッドさんは援護してほしそうに私を見るけれど、無視して奥の飲食スペースへ向かった。
私は国の要請で来ただけで、根回しはヤンウッドさんの領分だからね。他国の事情に干渉する役目は請け負っていない。国民に影響が出ているなら何とかしたいとは思うものの、勝手はできないんだよね。
ギルドに酒場が併設してあるのは定番だけど、ゼルト粘体のせいで冒険者の仕事も減っているのか閑古鳥が鳴いていた。
「お嬢ちゃん、何飲む?」
「コーヒーってありますか?」
「ああ、勿論。ちょっと待ってな」
紅茶党だけど、フランの淹れる味に慣れているせいで外ではコーヒーを頼む事が多い。特に最近は、隙あれば甘い雰囲気を駄々洩れにするカップルが2組もいるからね。
小気味いい感じのおばちゃんが奥へ引っ込むと、すぐに心地良い香りが漂ってきた。ちょっといい豆を使っているみたい。これは期待できるかも。
「ごめんね、お嬢ちゃん。みっともないところを見せちまって」
「いえ、もしかしてってくらいには覚悟してましたから」
「おや、驚いた。貴族の私が折角出向いたのにって機嫌を損ねているんじゃないかと思ってたよ」
「あはは……」
冒険者の持つ影響力が大きい国だから、国の意向と噛み合わない可能性は考えていた。普通なら他所の貴族を巻き込んで内輪揉めとかあり得ないんだけど、元々我の強い冒険者が幅を利かせている国だからね。
それより、思ってもみないところで王国の貴族観を聞かされて、私の方が顔を伏せたくなったよ。あそこで揉めている人達も、他国の人間に対して尊大な態度を崩さない王国貴族も、恥って意味では変わらないよね。
王太子殿下の貴族改革、もう少し協力的になった方が良いのかな。
「見たところ冒険者の活動にも影響しているようですし、いつまでも面子にこだわっている場合ではないんじゃないですか?」
隙間の多い掲示板を見ながらおばちゃんに話しかけると、少し困った顔になった。鏡で化粧の具合を確認したり、明らかに私物の本に集中したり、受付も暇そうに見える。
「あの粘体を討伐してひと山当てようって冒険者も多いからね。依頼が減った分、対策に乗り出している冒険者もいるのさ」
「なるほど、あのギルド長達はそうした人達を代弁してるって訳ですね」
「ああ、冒険者が面子を失えば軽く見られる。この国は、大勢の冒険者が生活しているおかげで治安を保っているところもあるんだ。軽んじられちまうと悪事を抑えられない。それはそれで人々の生活が揺らぐのさ」
なるほど、国が困窮すれば治安も乱れる。その抑止力となる冒険者の面子を適当には扱えないって訳だ。国が違うと考え方も違うね。
「つまり、一応は対策も進めているんですね?」
「あんまり結果は出ていないようだがね。油を撒いて火を付けたり、小さく切って活動停止にできないものか調べたりもしてるらしいよ」
「油ってどうなったんです?」
「あの忌々しい粘体は油も食べるんだってさ。火が届く前にほとんどが食い散らかされたって話だよ」
あー、有機物なら何でも捕食対象って事かな。
益々難易度が上がったよ。
「そう言う検証結果って何処かにまとめてあります?」
「ほとんどが個々にやってるから、取りまとめは怪しいね。けど、夜にはここに集まって愚痴大会だろうから、あたしが聞いといてあげるよ」
「ありがとうございま―――」
―――ドオオオオオオオオオオォォォォォォ……………ン
思わぬところで追加情報が手に入ったと喜んだ時、とんでもない大音量が轟いた。
「「「おおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
「「「凄げえぇぇぇぇぇっ!!!」」」
次いで轟音を掻き消えるくらいの大歓声が響いた。
「何だい!? 何だい!?」
「な、何事ですか?」
「おいおい、大丈夫かよ……」
急な事態に混乱しながら私達が慌ててギルドを出ると、ゼルト粘体諸共海が真っ二つに割れていた。
そしてその様子を大勢が称え、喝采を上げている。
残念ながら、ゼルト粘体はすぐに触手を伸ばして元に戻りつつあるけどね。
「これはまた……とんでもないね」
「………」
「………」
「………」
で、ヤンウッドさんとギルドの要職2人は口をあんぐり空けて、仲良く固まってしまった。おばちゃんの方がよっぽど胆力があるね。
あの威力からすると、オーレリアの極限突破風刃魔法かな。
オーレリアってば、あのまま魔導士役になりきる気?
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