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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
諸国満喫編

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ゼルト粘体

 2つの剣を交差させたような門を通って城へ入る。

 城と言っても規模はノースマークのお屋敷より少し大きいくらいで、ヴァンデル王国のお城や、帝国の皇鎧城とは比べるべくもない。併設してる兵士訓練所の方が広いくらいだね。

 しかも、建築物自体が比較的新しく見えた。


「これが輪廻城ですか。頑強な兵士の訓練が常に見られるのが壮観ですね」

「……ありがとうございます。彼等はこの国を守ると同時に国外へも赴く勇士達ですからね。日々の訓練にも熱が入っています」


 ナイトロン戦士国に、自国の兵士と傭兵って隔たりはない。

 国の防衛に就くか国外へ戦いに出るか、任務の違いくらいでしかない。一括で鍛えて他国へ派遣するから練度の違いも生じない。一定の信頼で作戦を立案できるのだと聞いた。


 と言うか、キャシー。

 輪廻城って嘲笑表現だからね。


 私の手前、ヤンウッドさんも流してくれたみたいだけど、建て直しが多いって揶揄を含んでる。王が相応しい武力を国民に示さないと精強な戦士団に打ち倒されるから、その度に城も倒壊して生まれ変わった歴史がある。

 この国の王は血の濃さより強さを優先する。順位戦はあくまでも直系の中で競うものなので、兵の信頼を得られず国をまとめられないなら、傍系の庶子が担ぎ上げられた事もある。

 最近では20年くらい前に再建したらしい。

 将来的には構築の魔法陣の良い顧客になるかもね。


 こういった周辺国に関して今のキャシーが習ってない筈がないんだけど、実践に結びつかないなら補習用の講師を用意してあげた方が良いのかな。




 案内されたのは普段なら海が一望できる部屋だった。

 折角の蒼海が良く分からないウネウネに覆われてるのは残念ではある。


 そんな遠目からの観察はキャシーに任せて、私は改めてヤンウッドさんと向き合う。一団まとめての手続きだから、責任者の私が対応しないといけない。


 入国審査は職業によって様々となる。

 例えば往来実績のある商人なら、載荷のリストがきちんと記入できていれば面倒は少ない。抜き取り検査くらいで済む。これが初めての取引となると、リストと実物を照らし合わせて入念な審査を受ける。信用ある人物からの紹介がなければ、1週間、10日と拘束される事も珍しくない。

 ナイトロン戦士国の場合、冒険者の入国はもっと簡単で済む。

 流石に最低ランクFでの入国はできないけれど、ある程度の実績があって犯罪歴がないなら、ギルド証の提示だけで終了となる。

 更に傭兵へ転向の為に来たとなると、補助金まで出ると聞いた。


 貴族の場合は誓約書へのサインがほとんどだね。

 ただし、分量がちょっと半端ない。


 決められた場所以外に立ち入らない。

 機密を探らない。

 否応なく秘匿事項を知ってしまった場合は口外を禁じる。

 担当者の指示に従う。

 大国の強権を振りかざさない。

 禁則物を持ち込まない。

 戦士国内の資源、高価品を無断で持ち出さない。

 討伐においては戦士国民の安全に最大限配慮する―――


 などと言った基本的な取り決めが大量に積んである。できるならリスト化して一括でサインしたいところではあるけれど、それぞれが別の書面として用意してあった。

 項目ごとに管轄が違ったりするんだろうね。

 面倒であってもこうした手続きを疎かにすると国としての体裁を保てない。脳筋国家であっても主権が揺らぐような事態は忌避するらしい。

 ついでに魔導士(わたし)の場合、ここで国盗りを宣言すれば賛同者も集まって成功しそうだからね。そんなつもりはないって表明しておかないとだよね。


「ありがとうございます。これで手続きは終了となります」


 次々差し出される書類全てにサインを終えて、漸く魔物討伐って本題に辿り着いた。おかしな事が書いていないか、書類全てを精査する必要があったから無駄に疲れたよ。


「それで、あの広域に広がった魔物について詳しく聞かせていただけますか?」

「え、ええ、それは構いませんが……、スカーレット様ならダンジョン化した山嶺全てを消滅させたと言う大規模魔法で片付くのではないですか?」


 この人もか。


 魔力量任せの大規模魔法がどれほど万能だと思っているのか、思い違いを訂正しながら強行した場合の被害予測を説明すると、ヤンウッドさんの顔色はどんどんと蒼くなっていった。

 もしかすると、私さえ来たなら全て解決すると安請け合いしてたのかもしれない。


 同程度に考えていたキャシーは素知らぬ様子で観察を続けている。身内ですらあんな感じなら、噂が独り歩きするのも仕方がないのかな。


「万能な魔法なんてありません。それでも人より魔力量が多い私なら、対処できる幅も広がると思います。協力は惜しみませんから出来る限りの情報を貰えますか?」

「は、はい……!」


 そこからのヤンウッドさんは口が滑らかだった。

 討伐の役に立たない隣国の要人を招いたとなれば、彼の責任は免れない。打てる手を打つしかないよね。


 なんでも、あのよく分からない魔物は、ゼルト粘体と呼称しているらしい。

 海に浮かんでいるのではなく接水は一部で、触手のように伸びた粘性体が蜘蛛の巣状に絡まっているとの事だった。伸縮と結合を繰り返して複雑に絡み合い、広範囲を埋め尽くしている。目の細かい網状なのが、白っぽく見えた正体みたいだね。


「初めは沖合で僅かに見えていただけだったのです。けれど、念の為にと調査に出た冒険者は帰りませんでした」

「転覆したと考えるより、襲われたと思った方が良いですね」

「はい。鯨にまとわり付き、次第に吞み込んでゆくのを遠目に確認しております。船が近付いた際も、触手状の一部を伸ばしてきたそうです」

「その時はどうやって対処を?」

「火魔法は通じるのです。場所が場所ですからすぐに鎮火されてしまいますが、先端を燃やし、離脱を最優先にして何とか逃れたと報告を受けています」


 油を撒いて燃やすのは後で困るかもだけど、広域に魔素を行き渡らせて火魔法で点火するって方法は使えるかもしれない。


「蜘蛛の巣状に見えても、何か別の魔物が生息している訳ではないのですね?」

「はい。現状でそうした魔物は確認されていません。あくまでも粘体が生物を取り込むとの話です」

「鯨を襲ったなら、何かに構わず呑み込むと考えて良さそうですね、レティ様」

「うん、人間や魔物、含有魔力の多い対象だけを捕食するって訳じゃないみたい」


 巨体の維持になりふり構わずなのかもしれないけど、魔物の特性としては珍しい。スライムだって魔素を感知する器官を持って生息場所を選ぶくらいなのにね。


「そうなると、この周辺の海洋生物は残ってないかもしれない。あんまり被害が酷いようなら手段を択んでいられないよね。キャシー、小型の潜航艇を作って」

「はい! 海中の現状を確認するんですね?」

「それから、海中から見たゼルト粘体の生態もね」

「でもレティ様、あれだけ大きくなってるとなると……」

「……まあ、そうだよね」


 成長、増殖には維持以上の餌や魔力が必要となる。

 魔王種みたいな桁外れの含有魔力体が沈んでいない限り、肥大化と魔力量が釣り合っていない。


 ゼルト粘体を急成長させた原因、それを調べないと解決できない気がするよ。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
相変わらず考察が多い作品だなー、と思いました。 随分変わった魔物を考え出しましたねー
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