小姑になります
衝撃、私の友達がチョロインだった!
いや、武力で打ち倒さないと興味すら抱いてもらえなかった訳だからある意味難攻不落だったかもしれないけども。
とは言え、その後がスムーズ過ぎた。恋愛レベル1のオーレリアだけはあると、不思議な得心とそれでいいのかって憂慮が混在してる。
「レティ? 何か失礼な事を考えていませんか?」
「まさか。カミンの初恋が実って凄くおめでたいって思ってるし、オーレリアが義妹になるならこんなに嬉しい事もないよ」
喜んでいるのは嘘じゃない。
いろいろ突っ込みどころが多いってだけで。
「え? 初恋だったんですか?」
「僕は3年前から貴女しか見えてませんでしたよ」
不満そうだったオーレリアは一転、嬉しそうに頬を染めてカミンと見つめ合う。
オーレリアにそんな機能、実装されてたんだね。
「もしかしてレティはカミンの気持ち、ずっと知ってたんですか?」
そこから?
カミンが恋に落ちた瞬間から把握してる私としては今更感が強い。思わず同席してるキャシーと苦い笑みを交わしてしまった。
「そんなの、オーレリア以外の皆が知ってたよ。学院の入学式典でもはっきり意思表示してたから、社交界でも割と知られてるんじゃない?」
「そんなに!? だったらもっと早く教えてくれても……」
「あんなにあからさまだったのに気付かないオーレリアが悪い」
「う……。戦場で狙撃手に気付かなかったからって周囲を責めるのは、確かに筋違いですね」
例えがいちいち物騒だけど不覚を恥じる気持ちはあるみたい。
「けれどおかげで、自身を高める機会が貰えました。オーレリアの隣に並べるだけの品格が得られたなら、きっと必要な時間だったんですよ」
「カミン……」
でもって事あるごとにカミンがオーレリアの気持ちを持ち上げるせいで、ここの空気がとっても甘い。
イチャイチャして見えるものの、あれでオーレリアはまだ自分の気持ちに戸惑う事も多いみたい。手を繋ぐのはデフォルトになっているのにあんまり近付くと心臓が爆発しそうで、模擬戦後の不意打ち以来、キスの本番もまだなんだとか。
あー、ブラックコーヒー美味し……。
王都邸でカミンから経緯を聞いた即日、2人の婚約は確定した。
両家の結び付きを確実なものにするこの姻戚に、反対意見なんて出る筈もない。エルグランデに年頃の令嬢がいない以上、家格の釣り合いが取れる中でカロネイアが最も有望な貴族だし、オーレリアの人となりについては私を通してよく知っていて非の打ち所がない。
カロネイア伯爵家にしても、私との友人関係って不確かな繋がりより家族になった方が良いに決まってる。おまけにオーレリアを打ち負かしたものだから、カミンってば戦征伯夫妻にとって大のお気に入りまで昇格したよね。
あの家、武力って以上に説得力のある言語が存在しない。
正式な約定を取り交わす為にコントレイルでお母様までやって来て、その日の内に話がまとまった。婚約式の日取りまで既に春と決まっている。ノースマークとカロネイア、大貴族の繋がりを大々的に喧伝するんだとか。
電光石火、疾風怒濤、実にオーレリアらしい速攻の締結だった。本人はアワアワしてるだけに見えたけど。
本人達の気持ち?
貴族にとって家同士の繋がりに比べれば、そんなの後回しに決まってる。別に嫌い合ってるって訳でもないんだから、ゆっくり育てればいいんじゃないかな。
実際、長年の恋慕が通じてカミンには余裕が見えるし、振り回されるオーレリアもまんざらじゃなさそうだしね。
うん、爆発しろ。
「既に王都中の噂ですよ。新年の社交パーティーのいくつかにカミン様がオーレリア様をエスコートして参加してましたから」
カミンと言うか、次期侯爵夫人の椅子を狙っていた令嬢は多い。
オーレリアにご執心とは噂になっても、当の本人が気にする様子を見せないものだから、まだ可能性はあるだろうと裏で大勢が鎬を削っていた。
そこへカミンは堂々オーレリアをエスコートして、儚い希望を丁寧に潰して回った訳だね。積極的な姿勢を見せていた家が主催するパーティーを狙って出席していた。我が弟ながらえげつない。
「変に期待を残すべきではないでしょう。ついでにオーレリアへ叶う筈のない想いを抱いていた令息にも、僕とオーレリアの仲を見せつけてきたよ」
「あー、その中にエノクもいた訳だ」
ざまーみろ。
「沈静化するのはすぐでしょうね。可愛がってる弟を怒らせてレティ様を敵に回したい貴族も、機嫌を損ねたら煌剣持って乗り込んできそうなオーレリア様と敵対したい貴族もいないでしょうから」
「キャシー、私はそんな分別のない事はしませんよ」
「大丈夫ですよ、オーレリア。貴女を蹴り落として侯爵夫人の座を手に入れようなんて愚かな貴族、貴女の手を煩わせる前に僕が捻り潰しますから」
「ありがとう、カミン」
「……わぁ、レティ様の弟だけあって、欠片も容赦しなさそうですね」
嘘でも冗談でもなく、その気になればいつでも実行できるだけの能力を、この数ヶ月で証明してくれている。
私が世話を焼く隙は無いみたい。
少し寂しい気もするけれど、それだけカミンが頼もしいって事だからお姉ちゃんとしては見守るしかないよね。
「そう言えばオーレリア、お母様からこれを預かったんだった」
「お義母様から、ですか? 一体何を……え゛!?」
お義母様呼びは早い気もするけれど、そのお母様自身から強く要望されていた。ちなみにライリーナ様もカミンに同じ事を要請していた。あの女傑2人に詰め寄られて、断るって選択肢は存在しない。
でもってそのお母様から預かったのは学院の選択科目の一覧だった。分量はかなり多い。
「最低限それだけは履修しておいて、だってさ」
「だ、だけと言ってもかなり量がありますよ?」
「うん。でも侯爵夫人になるって事は、これからのオーレリアの戦場が社交界になるって事だから」
「あ゛」
恋人ができたと浮かれて失念してたんだろうね。
オーレリアの幸せに水を差したい訳じゃないけど、貴族として義務は怠れない。とは言え、騎士向けの講義に偏っていたオーレリアにとって厳しい学院生活になる。
「カ、カミン?」
「ごめんなさい、オーレリア。僕もこの件には口を挟めません」
彼女に甘いカミンならと縋ってみたのだろうけれど、色好い返事が貰える筈がない。
お母様風に言うなら、余人より多くの義務を背負う貴族の矜持ってやつだね。当然、私と同じ教育を受けて育ったカミンにも染み付いている。
「無駄だよ、オーレリア。婚約者の能力が足りていなくて困るのはカミンなんだから」
「う……」
「それにこれは婚約の時点で暗黙の了解だから、勉強が滞るようならライリーナ様も黙ってないよ」
「そ、それは……」
理解と納得は別だから、理屈的にはどうしようもないと分かっていても、これまでと違う生活に飛び込むのには踏ん切りが要る。
けれどこれまでと違って、彼女の背を押す役は私じゃないかな。
「オーレリア様、僕はこうなる事が分かっていても貴女を求める気持ちを抑えられませんでした。ですから出来る限りで支えたいとは思っています」
「カミン……」
「それでも、実際に苦労を背負うのは貴女です。次代を担うカーマイン・ノースマークとしてはどんな理由があろうと貴女に義務を強いるべきだと思っていますが、一方でカミン個人としてはできる限り貴女の希望に寄り添いたいとも思っています。だから正直なところを聞かせてください。逃げますか?」
「―――!!」
……上手いね。
きちんと彼女の肝所を理解してる。その上で、オーレリア自身が答えを出すように誘導した。
「ごめんなさい、弱気になっていました。カミンが私に相応しいようにと努力を重ねてくれたのですから、私にもカミンの隣に立つ為の試練があるのは当然ですよね。苦手だからと竦んではいられません」
「ええ、それでこそ僕の大好きなオーレリアです」
「待っていてください、カミン。私もきっと乗り越えてみせますから」
「はぁぁ……、コーヒーが美味しいですね、レティ様」
「うん。折角の王城招待なのに、お菓子に手を伸ばす気が全く起きないよ。ヴァンが喜ぶだろうから包んでもらおうか」
ここは王城、イローナ様からの依頼があるからと面会室で待機している。
決意が固まったのは結構だけど、色ボケした義妹(予定)が状況を覚えているかどうか怪しくなってきたかな。
何だかんだと王城に通うのに慣れたってのもあるかもだけど、カミンしか視界に入っていないせいで緊張が行方不明になっているよね。
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