怪盗は標的を諦めた?
鏡像怪盗が誰かを呪う為に適応素材を集めてるんじゃないかって情報を得て、それっぽい素材とオリハルコンを別けて保管してみた。
表向きは最重要品のオリハルコン管理を徹底するって事にして、骨董素材を分散させた。呪いに使う素材が目的と確定した訳じゃないので、いくつかに分類別けして保存場所を変える。一応、希少度に応じてランク分けしたって体で分散させ、何処が狙われるかで目的を探りたいと思ってる。
お屋敷の中で模様替えしただけでは情報が届かないだろうから、ヴィム・クルチウスを通じて噂を撒いてもらった。
勿論、報酬は用意していない。ただ働きが不満そうではあったものの、領地が発展すればあの連中も儲かるんだから容赦するつもりはない。
お互い利用し合うつもりで近付いたのかもだけど、私的には扱き使う気しかないんだよね。
更に、領地を訪問に来る貴族には保管場所を案内して、これらの素材からどんなものを作ろうかって構想を紹介してある。怪盗の耳が何処にあるか分からないから、貴族側に噂を浸透させるのも忘れない。
噂話はガッターマン前伯爵夫人が得意なので、適度に流布をお願いしている。戦後、食料需給を掌握していた女傑の交友範囲は侮れない。孫のプレゼントを狙うなんて怪盗はなんて酷いんだろうって同情論と一緒に拡散している。
とは言え、蒐集物を公開したのに等しいから、骨董素材を売ってくれって趣味人が殺到したのにはちょっと辟易したよね。
当然、警備体制は緩めていない。
あからさまに騎士を常駐させるのはオリハルコン保管部屋だけに限定したけれど、それと分からない配置で映写晶は追加したし、侵入が発覚した時点でその区画ごと固化させる魔道具も開発した。
次、怪盗が私の屋敷に踏み込めば、絶対に捕らえる自信がある。
「なのに、来る気配って全然ないよね」
既に年の瀬だっていうのに、撃退準備は全く不発に終わっている。
結局、時間が無駄に過ぎたよね。
「クロの配置が過剰だったんじゃない?」
「泥棒対策に番犬って定番だと思ったんだけど……」
「いや、姉様。クロは魔犬であって、本来は番犬以上に恐ろしいものだからね。襲われたら頭から齧られそうなところへ、それでもって踏み込める人はそういないと思うよ?」
そんなものかな。
普段、動かないオブジェ扱いが当たり前になっていたから、世間と印象が乖離していたかもしれない。
「命を奪わないで無力化できるくらいには躾けてあるのにね」
「それ、魔物に襲われる恐怖は考慮してないよね?」
……そうかもしれない。
竜を両断する私には何でもない事でも、一般人からするとゴブリンだって恐怖の対象だよね。
魔物に襲われず絶対安全な旅ができるからってコントレイルが急速に普及した事情もあったっけ。
クロ、そしてついでにマルは今、“模型” の中にいる。
掌握魔法で服従した経緯のある2匹的には、私の魔力で満ちた“模型”の中は居心地がいいらしい。宝物庫周辺での番を指示すると、特に強制の必要もなく“模型”へ入っていった。出入りできるように空間の接続点を作ったものの、基本“模型”側にいる。マルは戦闘能力がないからクロの付属品だね。
姿がないからって餌の時間を忘れると、この世の終わりのような泣き声が響いてくるのだけども。
「年末年始、私が屋敷を空けて隙を見せるしかないのかな?」
「呪い魔術に用いる素材が目的だとすると、エッケンシュタイン封印施設の素材が大量にあったからここを狙っただけで、代替で済ませているのかもしれないよ」
「うーん」
現状、否定できる要素がない。
呪いって条件さえ満たしているなら特定の素材である必要はないものね。
そうは言っても嫌な予感もしてるから、警戒態勢は続けた方が良いかな。
「それにしても、以前は年に数回だったのに、鏡を残さなかった分も含めると犯行回数が増えてない?」
「領地間交通網で移動時間が減ったからじゃない? 隠蔽犯行分やガッターマン、そしてここは元々の活動範囲からも離れているし、コントレイルを堂々使っているのは間違いないと思う」
「正体が分からないから捜索して拘束って訳にはいかないだろうけど、足跡を追えば次の標的を予想できるって事?」
「調べてみたけど、そこまで甘くないみたい。近場で犯行を重ねる事はあっても、間隔が開く場合も多いよ。足がつかないように陸路も併用してるんだろうね」
見れば、犯行日時と移動時間を照らし合わせて怪盗の居場所を捜索した後だった。細かい作業なのに、カミンってば鋭敏だよね。
「考えてみれば、欲しい素材の情報収集も必要だろうし、侵入の為の下調べも要るよね」
「そういう事、参考事例が増えたからって捕まえられるほど楽じゃないよ」
ここまで来てお手上げって結論は悔しいけれど、打てる手はないみたい。
コントレイルが犯行範囲を広げたって事実が余計に気に障る。
発展が良い結果だけを運んで来る訳ではないって分かっているとは言え、お前なんかの為に苦労したんじゃない! って叫びたくなる。私だけじゃなく、交通網を敷く為に大勢が関わってるから尚更ね。
発着場には警備員を配置していても、怪しい人物全てを排除するなんてできない。せいぜい、呪詛探知レーダーを設置するのがやっとだよ。手掛かり1つ掴めない状況では怪盗なんて素通りに決まってる。ヴィム・クルチウスだって堂々やって来た訳だしね。
実に面白くない。
「発着場に映写晶を増設する……くらいしかできる事はないのかなぁ」
「そんなところだろうね。それより姉様、今は怪盗よりこっちの方が重大事じゃない?」
「う……!」
カミンが差し出したのはある農業実験の報告書。
実験農場は実現の目途が立たないから、閑散期の出稼ぎに来ていた農家に私の思い付きを試してもらった。
結果、ウォズが情報封鎖にウル村へ飛んだくらい大事になった。
試みは単純、折角キミア大樹枝が無限採取できる訳だから、肥料木にできないかなって目論んだ。含有魔力は高いし、生命力は言わずもがな、発酵分解しても効果が望めるだろうって期待してた。
で、その程度をまず知る為に、ハウス栽培を行っている農家に簡単な実験を依頼した……んだけども…………。
「種まきから収穫まで僅か3日。しかもハウス栽培する必要すらなく、冬の大地で発育可能。これ、どう扱う気なの?」
私の軽い気持ちは、王国の農業事情を一変させる事態にまで発展した。
目を逸らせていてはくれないみたい。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。
今後も頑張りますので、宜しくお願いします。




