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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
領地振興編

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カミンの失敗

 収穫祭は概ね大盛況で幕を閉じた。


 雲の上開催で衝撃を与えた以上に、オリハルコン樹の点灯が話題を呼んだらしい。3日間の会期中、日に日に来場者数が増えた。送り迎えを徹底しているものだからリピート率もかなりのもので、最終日の人出は初日の倍以上に及んだ。

 来年は会場の拡張を考えないといけないかもね。


 神事なので、神聖さを前面に押し出した方が効果も高いみたい。お祈りで神様と繋がる感覚を体感できたのが大きかったんだろうね。勿論、雲上世界の再現も一役買っている。


 おかげで、巨樹が魔王種だって不安も払拭できた。

 巨樹のある領都コキオの実りを神様が許容した以上、害をもたらすものじゃないって広く認知された。


 想定を超えた人出による揉め事も懸念していたけれど、意外と事件は起こらなかった。

 神様の御前で騒動を起こすのは避けたのか、騒ぎを起こして雲上に取り残されるのを恐れたのかは知らない。私の手を煩わせないならどっちでもいいよね。


 ただし全く問題がなかったとも言えない。

 オリハルコン研究は国家事業の為、収穫祭対応で忙しい中、私は報告書作りに追われた。仔細不明では報告にならないから、条件を変えての再現実証にも時間を盗られた。

 結論としては、不思議金属としか言えない訳だけども。


 頑張った甲斐あって、収穫祭以降コキオへの来訪者が増えている。

 収穫祭が成功した何よりの証だね。


 南ノースマークへ来れば天に昇れると噂になって、一般の観光客が次々訪れるようになった。

 雲上の舞台上を常時稼働させるつもりはなかったのだけれど、貴重な観光資源を無駄にはできないと、ウォズが事業化してしまった。小規模な雲上広場を巨樹上に残し、更に雲の心地を体感できる遊戯場まで設えた。

 絶景を楽しみ、雲スライムに包まれゆっくりできる。しかも場所が場所なので天候に左右されずに憩いを得られると、確かな人気を呼んでいる。弾力強めに調整した雲スライム体験場も、連日子供でいっぱいだしね。

 南ノースマークの巨樹、エッケンシュタインの大図書館、コールシュミットの保養所と、王国南方の観光ラインが整いつつあるね。

 将来的には技術博物館とか作りたい。


 訪問が増えるなら、当然居住の環境も計らわないといけない。あくまで研究都市なので、研究区画や実験施設とバランスを考えながら、巨樹の周辺には宿泊施設を集中させつつ、移住者の割り当てに追われている。

 できるなら実験農場なんかも整備したいと思ってはいるものの、郊外の開発まで手が回らない。そのあたりはもっと落ち着いてからになるかな。


 そんな感じで忙しくしてると、どんどん秋は深まってゆく。

 王都ではジローシア様の喪が明け、アドラクシア殿下の立太子が正式に発表された。日々に追われていると忘れがちだけど、周囲は確実に変化しているのだと実感する。


 変化の例は私の前でも1人、暗い様子のカミンがテーブルに突っ伏していた。


「はあぁぁぁぁぁ~~~」


 重苦しい溜め息も何度目だか分からない。

 慰めてほしい訳じゃないみたいだから、私は執務を続けている。


「いやいや、不注意な失点を見落としたのはカミン様でしょう? 自業自得じゃないスか」


 主を慮る立場にいる筈のヘキシルは、相変わらず容赦がない。あれはあれで、辛口の主従が上手く嵌まっているみたいなのだけど。


「うるさい! 分かってるよ。後悔は散々済ませた。それでも僕の不甲斐なさを思うと力が湧いてこないんだから、少し放っておいてくれ」

「はいはい、折角大好きなお姉様のところまで来た訳スから、たっぷり甘やかしてもらってくださいな」

「そんなんじゃないったら! いい加減、黙れ」

「へーい」


 一見喧嘩してるようなのに、少しずつカミンの気持ちが上向いてるよね。落ち込んでるのも馬鹿馬鹿しい気分にさせられてるとも言うかな。

 変わった信頼関係は勿論、友達みたいな距離感も微笑ましいよね。


 で、学院に通っている筈のカミンがどうして南ノースマークに居るかと言うと、講師資格の取得に失敗したらしい。

 しかも原因は些細なケアレスミスで、一教科落としたばかりに私の実績に並べなかったと嘆いている。ちなみに、事前テストはその講義の理解度を確認するものだから、一度失敗したなら再試験は数カ月先でないと受けられない。


 とは言え、私にカミンを責める気持ちなんて全くない。

 弟贔屓ってだけじゃなくて、1単位のミスで済んだ時点で凄い事なんだよ。

 講義前に受けるんだから、合格点の設定は当然高い。特にこの時期、入学直後に受ける場合は満点以外不可って場合も多い。講師資格を取得してしまえば、その後ずっと夏休みってくらいの学院生活が待つなら、厳し過ぎるくらいが当然だよね。


 私は学院の枠を多大にはみ出した訳だし、ウォズもストラタス商会の設立以来、休講が多いって有名なくらいに自由度が高い。学院の教師陣がそんな我儘を阻もうとするのは当然だとすら思ってしまう。


「……分かってはいるんだよ。大事なのは全ての単位を修める事で、早さを競う事じゃない。試験の点を気にするくらいなら、再試験が終わった後で何を研究するのかって考えた方がよっぽど良い」

「ま、その後の功績でスカーレット様に及べる筈もないから、せめて最短講師資格取得で並んでおきたかったんスよね。いやはや、カッコ悪い」

「だ・か・ら、黙れと言っている! 気持ちを整理をつける間くらい静かにしてくれ」

「だって、無意味にこんなところまで来たんスよ? スカーレット様に気を遣ってもらうのにいつまでも喜びを見出してないで、観光くらいしましょうよ」


 どうしてカミンがわざわざ南ノースマークまで来たかって言うと、今、オーレリアが王都にいるからだったりする。

 弱っているところを見せたくなかった訳だね。うん、オトコノコ。


 私はって言うと、カミンが落ち込んでいるくらいで呆れたりしない。

 むしろ遠く領地が離れても、弱みを見せられるくらいには繋がっているんだと安心する。


「どうして僕がヘキシルの観光に付き合わないといけないのさ? 立場くらい弁えてってば」

「えー、ここで醜態晒しているより有意義スよ。歩くだけで新発見に当たるとんでもない場所なんスから、気持ちの切り替えに使いましょうよ。あ、お姉様の特別講義の方が良いんスか?」

「……よし、分かった。その口を閉じさせる為なら、研究区画でもキミア巨樹でも付き合うよ。付き合えばいいんだろ!」


 上手く転がされてる様子に、フランと一緒に笑ってしまう。

 あれで、小一時間くらいは落ち込んだままヘキシルも放っておいてくれたんだよね。こちらへ向かう時間も考えるともっとになる。厳しそうに見えて、割と甘い。


 カミンなら、今落ち込んだとしても、失敗って経験を上手く生かすと思う。

 だから私は心配なんてしていない。励まさなくても、勝手にああして起き上がるって知ってる。それでも不器用に甘えられて、嬉しいくらいだよね。女の子の前ではカッコつけても、私はまだカミンのお姉ちゃんでいられるらしい。


「フラン、今日の夕食はカミンの好きなものでまとめておいてね」

「はい、分かっております」


 あんまりいじらしいからって頭を撫でたり過度に密着するとそろそろ嫌がられるだろうから、このくらいが精一杯かな。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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