普通のない街
「レティの場合、いっそ異色を突き詰めてみたらどうですか?」
うん?
無茶を言われた気もするけれど、同時に面白そうじゃないかとも思ってしまった。ここは私の領地、他と同じ形式にこだわる必要はないんだよね。要は領民の遣り甲斐に火を点けて、来年も頑張ろうって焚きつければいい。
「おかしな収穫物とは言え、キミア巨樹が南ノースマークの象徴である事には違いないんです。前面に押し出すべきではありませんか?」
何故か拝む人がいるくらいだから、神事へ組み込むのに適してるとも言えるのかな。迷信であっても、遠くから巨樹を眺めた時、神様に見守られてるって奮起してもらえるなら意義はあるかもしれない。
既に私の領地とエッケンシュタインで消費する魔石は巨樹の産出分で賄っている訳だから、領地の礎と言っても過言じゃない。
「巨樹を中心に祭壇を組んで、土地は空いてるから屋台の受け入れは困らない。領地中のめぼしい店に、コントレイルでの臨時営業を依頼するのも可能かな。……それから?」
「言い出しておいて丸投げになってしまいますけど、レティの研究から何か出せませんか? ほら、2年前に空を飛んだみたいに」
うーん。
研究成果を分かりやすくまとめて展示……しても喜ぶのは極一部だけだよね。学生の文化祭じゃないんだから、その線はない。
いつかだったかウォズが企んでた聖女物販……は、警備が大変だろうから今回も没。と言うか、私が嫌。
最近の研究で何か使えそうなものってあったかな?
水地両用潜航艇でクルージング……は、悪くないけどお祭りっていうより観光用のイベントだよね。
「そんな訳で、何かいい考えってない?」
私1人で悩んでも上手くまとまりそうになかったから、とりあえず着替えを済ませて、執務室に集まった皆を巻き込んでみた。
いつまでも半裸で悩むような事じゃないしね。
ついでに冷たいお茶がお風呂上がりの喉に染みる。
「煌剣でも飾りますか? レティ様がオリハルコンを加工したって話は知れ渡ってますから、実物を見てみたい人は多いと思いますよ」
「あれってオーレリアのだからね。製作者権限ってだけでここに飾るのは相応しくないんじゃない?」
個人的には剣としてじゃなくて、オリハルコンで何か別の発明をした時に宣伝したい。武器より、開発、発展を前面に出したいよね。
「しかしスカーレット様、集客は大事ですよ。ひと目オリハルコンを見たいと言う期待に応える為にも、煌剣以外の新しい何かを作りませんか?」
普通は放っておいても領地中から人が集まる。
けれど、前例のない南ノースマークではその通りになるか分からない。何しろノースマーク、エッケンシュタイン、ガノーアと異なる領地が組み合わさった土地だから、おそらく領民も勝手が分からない。
人を集める為の謳い文句は必要かもしれないね。
「そうは言っても、今はオリハルコンの可能性を詰めてる段階だからね。あくまで基礎研究くらいしか動いてないから、今すぐ活用は難しいよ。適当なレリーフなら作れなくもないけど」
「それで良いではないですか! 是非、スカーレット様の立像を作ってオリハルコンで装飾しましょう。きっと神々しいものができますよ!」
「却下」
「ええっ!? 何故です?」
むしろ、私が頷くと思ってた事に吃驚だよ。
領主の絵画や彫像を所構わず並べる顕示欲って、私、ないからね。しかも、オリハルコンを被せるなら鏡以上にキラキラ光を反射する。不自然に美化した自画像や、趣味の悪い金ピカ像より酷いものになる。
ノースマーク子爵家当主の絵姿を後世に残す必要性は感じているけれど、それはもっと晩年でいいよね。
「オリハルコンが売りになるって主張は汲むから、キミア巨樹の模型くらいで何とかしようよ」
「それ、いいですね。祭壇の中心にキミア巨樹像を置けば、儀式で収穫物を奉納する際に大勢の目に触れます。どちらもレティの成果の象徴ですから、研究を産業にするという方針にも合うんじゃないですか?」
「……まあ、悪くはないですね。金属製で巨樹の模型を作れば、お土産品としても売れそうです」
転んでもただで終わらないのはいつものウォズだけど、それって私のミニ立像を売る計画もあったって事? 断じて承認できないね。
今後、私をモデルに何か作る事になったとしても、ウォズを関わらせるのだけは止めとこう。
「オリハルコンにキミア巨樹、他にスカーレット様を象徴するなら、飛行列車ではありませんの?」
「飛行列車ならキャシーじゃない?」
「開発はそうですけれど、コントレイルを定期運航している領地なんて他にありませんわ。おかげで領地内の移動が容易と言うのも十分に特色ではありませんか?」
初めは領都開拓の人員集めが目的だったものの、利便性は間違いないので便数を増やしてそのまま運用してる。人の移動が活性化するから景気向上の恩恵もあるんだよね。
山で隔てられた元ガノーア領も併合したから、今更この利便性は捨てられない。
更に、コントレイルでコキオへ通うノーラ達は勿論、ストラタス商会にサンさん達各冒険者パーティー、個人的な運用例も多い。
侯爵家をはじめとしたいくつかの領地では、当主の移動手段にと購入希望が増えている。領地全体での運用を考えるのも、多分遠くないよね。そうなれば車体の値段も徐々に下がって、少しずつ波及していくとは思ってる。
その流れに先行してるこの状況、なるほど領地の特色と言えるかな。
勿論、収穫祭の期間には特別便を運行させるつもりだった。
何なら思い切って、もっと突き詰めても良いかもしれない。
「うん、そうなると大量のスライムが要るね。培養だと間に合わないかもだから、普段の価格に上乗せして買い取るって周知した方が良いかな?」
「おっと、例によってレティ様の発言が飛躍し始めましたよ」
「何か思いついた時のレティですね。今度は何を始めるのか、楽しみと同時に少し怖くもありますけれど」
「勿論、わたくしも協力を惜しみませんわ。エッケンシュタインでの参考……にはならないかもしれませんけれど、きっと面白いに違いありませんもの」
「何にせよ、話題になるのは大歓迎です。王都での成果に比べて、領地でのスカーレット様は大人しかったですからね。領主としての仕事が忙しいと言っても、スカーレット様らしさを失う筈がないって信じてましたよ。多少無茶であっても付き合い甲斐があります」
詳しく説明する前から、皆も協力の姿勢を整えてくれている。
うん、実に頼もしいよね。
今回は私達の話し合いで決めたけど、次回以降はここへコキオ所属の研究者も迎えたいところだね。今回をベースに新しいものを足してゆく。
研究を産業にする街なんだから、年を重ねるごとに進化させていきたい。同じでない事、それこそ私が目指すべき収穫祭、私が主催するお祭りだよね。
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