表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
王位決着編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

343/692

真相を語りましょう

 288周 闇の年春節 2の月15日、歴史に残る襲撃事件が起こった。


 スカーレット・ノースマーク、オーレリア・カロネイア両名が騎士団本部を強襲、施設を半壊させた。

 軍を預かるカロネイア将軍はこれを静観。

 独力で応戦するも、僅か1時間足らずで王都の防人が壊滅したのである。


 騎士の敗北、そして大改革へ続く事件として王国史に刻まれている。




 そんな襲撃の直後、私達はヴィルゲロット騎士団長―――だったものを引き摺って王城へ出頭した。


 大議堂には、襲撃事件に対応しようと多くの貴族、役人が詰め寄せていた。その中心ではアドラクシア、アノイアス両殿下が質疑応答に追われ、ディーデリック陛下は沈黙を貫いている。


 魔導士の暴走ではないかと、イローナ様、ファーミール様含めた王族全員が集うだけの大騒ぎだった。王城の機能はほとんど止まってしまっている。


 ある者は誅罰すべきだと声高に主張し、ある者は幽閉して知恵だけを搾り取ろうと画策する。責任をお父様まで波及するべきって声もある。

 けれど、それを実行するだけの戦力が何処にあるのか、そう問われてしまうとあっと言う間に消沈した。

 騎士団が敵わない個人をどう制御したものか。

 そんな根本から協議する他なく、議論はまるで進まなかった。


 そんな大議堂へ私達が堂々現れると、非難の視線が一斉に突き刺さった。


 そんな有象無象は視界に入れず、私達は陛下の傍へ跪く。


「王族の耳目である諜報部を恣意的に用い、私の暗殺を目論んだ()騎士団長コンラッド・ヴィルゲロットを捕縛してまいりました」

「うむ、ご苦労」


 動じない陛下を見て、この場に集まっていた人達は根回しが終わっていた事、陛下が沈黙していた理由を知った。


「しかし、随分過激な報復だったようだな」

「騎士風情に命を脅かされたのです。多少過剰であっても許されると思っています」


 私は襲撃の正当性を示す為に、あえて騎士風情と強調した。

 騎士団長の身分は準男爵、私への反抗は身分制度を否定する。不敬、侮辱程度なら金銭で片付けられても、命を狙ったなら首を差し出しても贖いには足りない。

 更に言うなら、王族の命令を騙る行為はそれどころでは済まない。

 私への非難の視線は、そのまま元騎士団長へと向いた。


 彼が暗殺を目論んだ事は容易に調べがついた。

 命令書を偽造しようにも、ほとんどの者は諜報部への接触すらできないのだから容疑者は限られる。諜報部を動かすとすぐに辿り着いた。


 暗殺が成功すると思っていたのか、命令書の偽造に気付かず、王族が私の死を望んでいると解釈して委縮するとでも思っていたのか、随分と目算が甘い。


 そして、私が騒ぎを大きくした理由は2つある。

 1つはトップ2人がそれぞれに権限を濫用した騎士団に危機感を持たせる為。

 今後改革を推し進める為にも、綱紀粛正を行う騎士団本来の役割を魔導士(わたし)が果たさせてもらった。当然、ディーデリック陛下の指示でもある。勝手に無関係な騎士を巻き込まないよ。


 先日の元副団長の件を起因にして、陛下の方でも騎士団の調査を進めていたらしい。そして騎士団長の事があって陛下の我慢も限界を超えた。

 今日、騎士団本部に詰めていたのは傲慢に振る舞ったり、立場を悪用して市民に金銭を要求したりと、問題行動が見られた者ばかりだった。緊急時の対応も杜撰で、施設内なのに大規模魔法を使ったりしていた。風評被害は覚悟してるけど、施設の破損は自滅だった。私達は臨界魔法も煌剣も使っていない。

 それらの様子も詳しく報告するから、彼らの多くは改革後の騎士団に居場所はない。


「其方の怒りは理解できるが、もう少し穏便に運べなかったのか?」


 ちょっと加減を間違えて奇っ怪なオブジェみたいになった元騎士団長に、アドラクシア殿下は呆れ、周囲は慄いていた。


「アドラクシア殿下も憂さ晴らしにどうです? ハミック伯爵に沈黙を強いたのが()()ですよ」

「な、に―――!」


 殿下から漏れたのは、大議堂の多くが震え上がるほど激憤を滲ませた声だった。ついでにオブジェも竦む。


「つまり、こいつはジローシアを殺した犯人を知っていると言う事か?」

「ええ―――と言っても、()()はとても喋れる状態ではありませんから、私が代わって全てを詳らかに致しましょう」


 事件を知らない人なんて王城にはいない。アドラクシア殿下は勿論、多かれ少なかれ誰もが真相を求めている。再び私へ視線が集中した。


 襲撃の理由のもう1つ、それがこの場に大勢を集め、ジローシア様殺害の真実を明らかにする事なんだよね。


「容疑者として拘束されたデイジー・ハミック様、これ幸いと真相を闇に葬ろうとした()()コンラッド・ヴィルゲロット、そしてジローシア様を殺害した犯人、それぞれが別に居たからこそ事件は複雑化したのです」

「……コンラッドが殺害した訳ではないのだな?」

「はい。そうであったなら、もっと積極的に隠滅が出来た筈です。デイジー様を脅す必要もない。言い逃れ出来ない証拠を捏造すればいいのですから」


 取り調べをローマン元副団長に任せたのも、犯人でない事を後押ししている。デイジー様の証言によっては自分に疑いの目が向くのなら、とても人任せになんてできなかったと思う。

 別人が犯人だからこそ、齟齬を生みそうな工作も無理だった。


「ならば誰だ? 誰がジローシアを……!」

「逸るのも仕方がないとは思います。けれど順を追わせていただけませんか。動機、切っ掛けを明らかにし、誰の目にも納得できる状況で明かしたいと思います」

「……それは、必要な事なのか?」

「はい」


 立場ある人間を追及する為には逃げ道を塞ぐ必要がある。誰にも庇えない状況を作る為に、城中の人間を集めたんだから。


「少し古い話になりますが、以前にも私を暗殺しようと狙われた事があります。今回で3回目、なかなか得難い経験だとは思いますが……」


 勿論、まるで嬉しくない。

 今回の事で、いい加減無駄だって知れ渡ってほしいとは思ってる。


「そのうちの1回、首謀者が不明なままの事件があります」

「ニュースナカで襲われたのだったな。実行は黒曜会の末端だったか?」

「はい。ですが、そこから先は辿れていませんでした」

「消息不明のドライア家の令息、エッケンシュタイン前導師あたりに容疑が向いていただろう。違ったのか?」

「ドライアと黒曜会の繋がりが見つかっていません。息子だけ黒い繋がりがあったと言うのも不自然です。薬や借金と言った連中を呼び寄せそうな経歴もありませんでした。前導師については、騎士がたっぷり尋問済みです。口を噤めるとは思いません」

「……なるほど」

「それに考えてみてください。あの時点で私を暗殺する程の意味があったでしょうか? 魔力ポーションや分割付与、お金を生む開発はありましたが、私を殺したからと言ってその技術が手に入る訳でもありません。12歳の子供を殺して非難を浴び、侯爵であるお父様を敵に回す。これを上回るほどの利益とは何でしょう?」


 回復薬の後ならまだ分かる。

 私の名声が肥大化し過ぎて子供扱いされる事も少なくなったし、ある人間にとっては不都合な人物を生かしてしまうかもしれない。特に黒曜会のような連中からすると厄介な代物だったと思う。どれだけ輝かしい発明だったとしても、不利益を被る人間が生まれるって事もある。


 ただの子供ならともかく、侯爵令嬢を殺すリスクは高い。


 でも逆に考えるなら、そのリスクを軽く超えるメリットを手に入れられる人物って事になる。


「見当もつかなかったので、捕らえてある黒曜会幹部に聞いてみました」

「「「……」」」


 殿下達の顔が、揃って微妙な様子になった。

 私としては当然の流れだったけど、理解できないってたくさんの視線が私へ向いた。


 裏社会に属する人間の口を割るのは難しい。

 ただし、口が堅い、仁義を守ると言った手合いは少なく、魔導契約などで雁字搦めにしてあることが多い。相手を信用しないからこそ、迂闊に漏れないよう縛ってある。

 どれほど痛めつけられようと、喋りたくても喋れない。そんな状況においてある。

 秘密を洩らそうとしたり、魔導契約を解除しようすると、命を落とす呪い染みた制約まである。催眠で記憶を閉じている事も珍しくない。


 なので、私は魔力任せにこじ開けた。

 精神が崩壊しかねなかったとも聞いたけど、結果として無事だったのだから気にしていない。推論を組み立てるより、答えをそのまま聞いた方が早いに決まってるよね。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ