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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
王位決着編

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閑話 歪んだ忠誠

 次に私が目を覚ましたのは、1週間も経ってからだった。

 生きているのが不思議なほどだったが、魔道具から引き剥がすとみるみる回復に向かったと言う。どうやら、これも呪詛魔石に適合した者の特性らしい。

 そうは言っても、喜びは全く感じない。ひたすら体質が忌まわしかった。


 それから1年に渡って、私は王都の北にある避暑地で療養を続けた。身体はともかく、精神的な損耗が深刻だったらしい。全て王国の手配だった。

 騎士見習いの演習中の事故、事件だったと言う事情もあるが、呪詛から生還した希少例の経過観察もあったのだろう。


 そして、そろそろ日常生活に戻っても大丈夫との診断が出た頃、療養所へアノイアス殿下が現れた。


「やあ、コンラッド君。経過は順調ですか?」

「私の事を、御存知だったのですか?」


 憧れはあっても、話した事など勉強会へ誘われた時くらいだったと思う。


「私が見所を感じて、騎士学校改革に一役買ってくれた君を忘れたりはしませんよ」

「あ、ありがとうございます」

「そんなに畏まらないでほしい。私は君に協力を仰ぎに来たのですから」

「私に、ですか?」


 すぐには信じられなかった。

 身分に囚われない騎士学校で机を並べる事はあっても、近衛騎士になるくらいでないと関わる事はないと思っていた。


「うん。けれど、その前に2つ、聞かせてほしい」

「はい。何でも仰ってください」

「そうですか。では1つ目、呪詛が憎いですか?」

「憎いです!」


 間髪容れず答えていた。


 この1年の療養で心も随分平静に近付いた。悶々と呪詛に関わった者達を皆殺しにしたいと模索していた事もあったが、あの地獄の日々とも折り合いをつけつつある。

 しかし、この憎悪だけは消せそうにない。


 そんな私を、殿下は咎めなかった。


「それではもう1つ、騎士に戻る気はありますか?」

「え?」


 今度は即答できなかった。

 療養中に考えなかった訳ではない。それでも難しいという結論しか出せなかった。


「私は呪詛に関わってしまった人間です。その自分が騎士に戻ると言うのは……」

「君は被害者ですよ。自ら進んで呪詛に触れた訳ではないのですから、騎士の規定には抵触しません。私が保証しましょう」


 王子が保証するなら、多少の反対意見があっても道理として通せてしまうのかもしれない。


「君が巻き込まれた事件については知っています。身が竦んだとしても、誰も責められるものではないでしょう。あんな思いは二度とご免だと君が言うなら、私も何も言いません。けれど、もしも君が再び騎士となる未来を願うなら、その為の障害は私が全て排除して見せましょう。君の希望を聞かせてください」


 殿下にここまで言わせてしまって、迷っているでは終われない。

 私は自分と向き合ってみた。


 式典には出席していないが、私は学院も騎士学校も卒業しているそうだ。騎士となる資格は揃っているし、別の道を望んだとしても傷痍除隊者として最大限の支援が得られるらしい。


 騎士への未練は当然ある。

 そして、事件への恐怖は驚くほど感じなかった。

 療養の一環として、ゴブリンやオークといった魔物への接触検証も行っている。事故を思い出して竦む事態もないだろう。

 魔物への恐怖より、呪詛犯罪者への怒りが余程大きいと言うのもあるかもしれない。


 それに、騎士を諦めるなら二度と呪詛に関わる事もないだろう。あの厭悪の日々を、忘れて生きる事になる。


 ……無理、だな。


 細い可能性でいい。

 呪詛に関わる全てを引き摺り出したい。そんな奴等に罰を与えたい。贖わせたい。死刑にしたい。殺したい。引き裂きたい。磨り潰したい―――!


 呪詛犯罪なんてものがこの世に蠢いていると考えるだけで、どうしようもなく腹が煮える。

 そこから目を逸らせて生きられるとは思えない。


「私は騎士に戻りたい、です」


 もう迷わなかった。

 憎悪を隠せている自信もないが、それで道が断たれるなら他を探そう。


「そうですか。では、情報を開示しましょう。君を捕らえたゼボール商会ですが、もうありません」

「え?」


 あっさり許容されてしまった事もそうだが、復讐相手がもういないと言うのも受け入れ難かった。


「君自身で罰を与えたかったかもしれませんけれど、事件からもう1年です。あれだけの悪虐を働いた犯罪者をいつまでも放置できませんでした」


 そう言われてしまうと、納得する他なかった。1年は短くない。

 私が関わった場合、暴走する危険があったのも事実だろう。自身で否定できない。

 聞けば、連中の辿った末路はそれなりに満足できるものだった。多少の溜飲は下げられた。もっとも憎い男は既に手にかけたと言うのもあったが。


「しかし、呪詛に関わっていた事実を公表しないと言うのは……?」

「すみませんが、私の個人的な事情です。今はそれしか話せません」


 汚名を後世にまで残してやれない点については不服だったが、王子の事情には踏み込めない。おまけに殿下の顔には、うっすら冷たい怒りが滲んでいた。

 これは触れてはいけないと直感した。慈悲や温情でないなら仕方ない。


「それから、ラミナ伯爵令息も処分しました」

「ラミナ?」


 咄嗟に誰だか分からなかった。


 そう言えば、入学間もない頃に絡んできていた1人がそんな名だった気がする。アノイアス殿下に相手にされず、貴族派のまま卒業も危なかったような……。


「その男は一体何を?」

「事故に遭った遠征車両に、魔物寄せの薬液を仕込んでいました。ハイオークの襲撃は意図的に引き起こされたと言う訳です」

「な!?」


 別の怒りが込み上げてきた。


 ゼボール商会の悪意を置いて考えても、どれだけの人間があの車列に居たと思っている?

 それに、魔物寄せに惹かれる対象がどんなものになるかは運任せになる。

 ハイオークはまだ幸運で、オーガやデモンベアに襲われた可能性もあった。それらが近隣の町村を襲ったなら、二次被害は甚大になる。

 こんな筈じゃなかっただなどと後になって言い訳しても、何の酌量にもならない蛮行だ。とても騎士として学んだ人間のする事じゃない。


「動機は、君達が気に入らなかった、だそうです」

「……まるで理解できませんね」

「私もです」


 同期生、後輩、引率役の騎士、多くが死んだ。

 それがそんな子供染みた身勝手のせいだったなんて、報われない。


「けれどザンキル・ラミナ当人は処分したものの、既に伯爵家とは縁を切ったものだと、伯爵家にまでは追及が及びませんでした」

「あれだけ家格を振りかざして、ですか?」

「ええ、学院に通っていなかったのも、放逐したからだそうです。ゼボール商会の捜査で発覚が遅れ、繋がりを消されてしまいました」


 ヴィルゲロット家も他所の事は言えないが、子息令嬢を甘やかしている貴族は多い。伯爵家となれば、兄弟が多くとも全員を養う事が可能だろう。

 それにも関わらず、少し問題を起こすと、家を守る為だと尻尾切りを目論む。監督不行き届きには目を向けようともしない。騎士見習い20名以上を殺しておきながら、それで済んでしまう。


 この国では、こんな事が横行している。


「更に、君が巻き込まれたゼボール商会の一党は現地貴族に匿われていました。あの村に商会を誘致したのが領主親族で、村は騎士の巡回を条件に口を閉ざしていたそうです」


 ギリ、と歯が鳴る。

 これはちょっと許せそうにない。


「領主当人は知らなかったの一点張り。関わったとする親族は差し出してきましたが、その先の捜査については難航しているのが現状です」

「その貴族も呪詛魔石の悪用を?」

「いいえ、その線は痕跡が見えてきません。商会から回ってくる資金が目的だったのではないかと思っています」


 だからこそ、悪行の詳細は知らなかったと厚顔になれるのではないのか。


 すぐにでも飛び出してその貴族を締め上げたい。

 衝動が湧き上がって来る。同期生達の慟哭は、今尚耳から離れないのだから……。


 呪詛研究で私を物扱いした狂人と、悪行の結果に目を向けない貴族、何処が違う?

 悪が公然と罷り通るこの国に、失望してしまいそうになる。


「……私は、こうして貴族の勝手が横行する状況も、富を生むからと呪詛が暗躍する状況も、変えたいと思っています。私はこの国を、正常な状態に戻したい。しかし、今の私では人脈も経験も足りていないっ!」


 不甲斐なさを噛み締めるように、殿下の両手は強く強く握り込まれていた。

 殿下の抗おうする意思が、光明に見えた。悪を許せないと言う志は、確かに芽吹こうとしている。悪への怒りは私だけではないのだと頼もしく思った。


「ですから、ここに来たのです。私に協力してくれませんか?」

「私が、ですか?」

「はい。君は被害者の気持ちを知った。どうしようもない悪意を知った。その怒りを、私に貸してほしい」


 どくり、と心臓が鳴った。


 殿下は私の憎悪を察している。

 その上で、受け入れようとしている。理不尽への怒りを、国を変える原動力にしようと言ってくれている。


 私にできるだろうか?

 殿下が声を掛けるだけの価値が、私にあるだろうか?


 戸惑いと期待が自分の中で綯い交ぜになっているのが分かる。


「すぐにとは約束できませんが、この事件の捜査を任せたいと思っています。この国に相応しくない貴族を排除し、呪詛を根絶する日まで、私に力を貸してもらえますか?」


 ―――!


 事件に関われる事も魅力的だったが、呪詛根絶と言う目標はより甘く聞こえた。


 そうだ。

 私はそれを目指したかったんだ―――騎士となる目的が定まった瞬間だった。


 私はすぐさま跪き頭を垂れる。臣従儀礼の体勢だ。

 もう迷いは残っていなかった。


「是非、私を使ってください。身の一片、血の一滴に至るまで、コンラッド・ヴィルゲロットは殿下の理想の為に尽くしましょう!」


 数年前、騎士学校を改革して見せた殿下に仕えたいと思った私は、間違っていなかった。

 この方なら私の理想を体現してくれる。私の見たい国を叶えてくれる。私を望む方向へ導いてくれる。


 怒りは未だ胸の内に渦巻いている。

 それでも騎士の本懐として、国の為に尽くそう。怒りと共に悪を駆逐し、正義を成そう―――この日、私はそう決めたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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