思わぬ来客
煌剣完成の反響はまた大きかった。
領地へ戻った私のところへ、連日貴族が押しかけて来た。
ウェスタダンジョン基地で結構の数を捌いた筈なのに、また訪問する貴族が増えたよ。その背景には、煌剣が廉価品だって事情がある。王族と同じものを持つのは不敬でも、オリハルコン量を抑えたものならって思ったらしい。それでも十分過ぎる兵器だったって事でもある。
訪問者の中にエルグランデ侯爵とお父様がいたくらいだから、その混沌具合を察して欲しい。
「素材は持ち込みになります。竜の魔石を用意してくださいね」
って、にっこり微笑んであげたら大抵の場合は帰って行ったけども。
コントレイルで一番乗りしたお父様は、お母様に連絡して引き取ってもらった。
中には、それならって冒険者にお金を積んでいた猛者もいた。とは言え、万が一持って来たとしても、王族の許可が要るから作る事はないだろうって思ってる。
あれを使って内戦とか起きた場合、とんでもない被害が予想できるから、陛下も簡単に許可しないよね。
ちなみに王国の聖剣も、無属性竜待ちで止まっている。
属性を固定すると使用者が限られてしまうから、こればっかりはどうしようもない。目撃例がない竜の出現とキミア巨樹に実る魔石が要求品質に達するの、どっちが早いか知らないけどね。
一応の代替措置として、専用に調整した属性変換器を付属させる事で話はまとまった。ただし、魔力の充填に10日以上かかるし、見映えも悪い。折角ならもっと研究したいから、恨めしそうなディーデリック陛下の視線を振り切って帰ってきた。
オリハルコン武器信仰を止める為にも、半導体化の開発を急いだ方が良いのかな。
でもこの流行は、私にとって悪い事ばかりでもない。
開発途上の領都コキオを貴族が訪れる。
つまり、キミア巨樹は勿論、領主邸や研究施設群、水地両用の港湾を見るって事でもある。ある者は驚愕で言葉を失くし、ある者は私を質問攻めにした。
意図せず、王国中がノースマーク子爵領を知る時が来たね。
貴族が訪れるなら、経路上の宿泊地を整える必要もある。貴族向けの宿屋は構築の魔法陣で用意し、ウォズはコントレイルで応対に必要な物資を準備した。当然人手も必要になるし、需要も生まれ、貴族だから潤沢にお金を落としてくれる。領内の活性化をウォズは阻害しないから、街道沿いへ店を出す商人も増えた。
観光都市でもないのに、こうも貴族が訪れる事は普通ない。訪問客対応への投資はあっという間に回収できたよね。私の領地への経路上にあるエッケンシュタイン含めて、街道にある町村が好景気で沸いている。勿論、巨大図書館のあるノーラの領地に長期滞在する貴族も多かった。
そんな中、私も忙しいけどそれ以上のウォズから面会依頼があった。
友達はフリーパスのお屋敷で一体何事かと思ったら、お客を連れてくると言う。ウォズを経由したって事は、一般人のお客さんだよね。
当日、やって来たのは2人。
片方は知った顔だった。
「お久しぶりです、サンさん。専属契約のお話ですか?」
冒険者パーティー、金剛十字のサンさん。そのリーダーとなる。
烏木の牙の穴を埋められる冒険者を探して打診だけはしていた。
「はい、喜んでお引き受けしようと思います」
「とてもありがたいのですけれど、他の貴族とも契約していらっしゃいますよね? 折り合いはつくのですか?」
「定期の契約ですから、期間内はパーティーを別けて対応します。テーグラー伯爵含め、他の貴族との契約を更新する予定はありません。勿論、穴を開けて迷惑をかける事なく、代わりの冒険者は紹介しますよ」
「色々な方との義理もあるのではないですか?」
「それはそうですが、スカーレット様には大地竜から助けていただいた恩があります。それに、この街並みを見てワクワクしない冒険者はいませんよ」
素材はいくらでも欲しいところではある。ウェスタ以外のダンジョン探索を本格化する必要も出てきたし、恩に着せる気はないけど大規模パーティー金剛十字の加入は助かるね。
「それから、今日の私は迷宮血盟、深緑戦士団、灰色熊の5本爪、蘇芳裂刀の各パーティから委任状を預かってきました。彼等もスカーレット様との契約に同意するそうです」
いずれも狭域化実験でお世話になったパーティーではある。と言うか、打診したパーティー全部だね。ただ、専属になってくれるのにここにいない状況が腑に落ちなくて、ついウォズの方を窺ってしまう。
「皆さん、コキオまでは来てくれているのですけどね。屋敷の前で怖気付いて逃げました」
「すみません。スカーレット様が礼儀をそれほど気にされないのは分かっているのですが、彼等は貴族との繋がりが浅いもので……」
初期の烏木の牙みたいなものかなと思うと、笑ってしまう。
代表役を押し付けられたサンさんも呆れた様子だった。
私は実家がそうだった通りに貴族然としたお屋敷を作った。新しい技術を求めて国中の貴族が集まる場所を想定したから、恥ずかしくない顔を用意する必要があった。
でも、市民と距離が近い男爵や子爵もいるからね。そう言った貴族と契約してたなら勝手が違っても仕方がない。
「では、後日、街の食事処に招待するので、気軽に参加してほしいと伝えてください」
「配慮、ありがとうございます」
そう言う事情なら、契約書の作成はまとめた方が良い。日程と場所の調整だけウォズに頼んでおいた。
これで専属契約の話はひと段落、そうなるともう1人のお客様が気になってしまう。
深い藍色でくせっ毛の可愛らしい女の子、私の前に出る為か、フリルのいっぱい付いた淡い緑色のドレスに身を包んでいる。歳はアシルちゃんよりまだ幼い。知らない場所へ連れて来られたからか、オドオドして見えた。露出した腕は細く、健康状態に不安があるのでそのあたりに理由があるのかもしれない、
緊張しているみたいで、フランの出したお茶にもお菓子にも手を付けてくれていない。
一緒に来たならサンさんにも関係のある話だろうけど、私は彼女へ向き合った。
だって、こんな可愛い子にいつまでも警戒されてるとか悲し過ぎる。何なら契約の話は放りだしたいくらい、入室してきた時から気になっていた。
私は必死に表情筋を働かせながら話しかける。なるべく柔和に見せて、優しいお姉ちゃんだと印象付けたい。サンさんとの会話中も何とか取り繕っていたんだからね。
「初めまして、スカーレット・ノースマークです。貴女のお名前を教えてくれますか?」
「あ……、えと、ヒナ・チロリアンです」
ヒナちゃんはサンさんの方を確認してから答えてくれた。彼とは信頼関係が築けているらしい。羨ましい。
「チロリアン孤児院出身なので姓が異なりますが、彼女は収監されているデイジー・ハミック伯爵の実子です」
あ、はい。
それならサンさんが連れてきて、ウォズがわざわざ時間を割いたのも頷ける。
ちっちゃな女の子に浮かれている場合じゃないくらいの、重い話なんだね。
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