煌剣オーラム
ダンジョンの階層を繋ぐ箇所はここのような縦穴の他、下へ続く細い通路であったり、一部が崩落して土砂が段状に積み上がっていたりする。人工物ではないので、階段なんて親切設計はない。
不親切なのは魔物に対しても同じで、ここみたいな縦穴は空を飛べる魔物か身軽な小動物種でなければ往来できないし、通路が細ければ大きな魔物は通れない。
更に魔物の再生成は、その魔物が誕生した位置の近くで起こる。再生成で魔物の版図は置き変わらない。深層の魔物は基本的に深層に籠る。魔物の氾濫が滅多に起きない理由でもある。
そうでなければ、31層で待ち構える巨大種のような魔物との接敵をあらゆる場所で警戒する必要が生じ、ダンジョンの難易度が跳ね上がる。
今回のような縦穴の真下での待ち伏せはタイミングが悪かったとも言えるけど、構造上、30層に上がられる心配はない。
威嚇に竦んでしまった人はいるものの、現時点で攻撃の意図はないと分かって隊列が瓦解せずには済んだ。
「スカーレット様、岩石竜の亜種ですわ。体皮にそのままダンジョン壁をまとっています」
ノーラが素早く縦穴を覗き込み、鑑定結果を伝えてくれた。
相手が竜なら異常な防御力も頷ける。
「力場は?」
「展開しています。恐らく、あらゆる衝撃を軽減するのではないかと思いますわ。それから、甲羅? の部分にはダンジョン鉱石も混じっています。あれが更に硬度を上げているのではないでしょうか?」
力場か魔力的な作用で、鉱石の硬度を全身に行き渡らせてるってところかな。存在自体が非常識な竜種らしいとも言える。
私に依頼があった時点で臨界魔法を期待されたんだろうとは思う。
でも実際に接敵して、極滅火力で岩石竜を消滅させる気は失せた。そんな勿体ない事はできない。
「オーレリア、あれ、全身お宝って事になるから、手早く仕留めて回収したい。私に合わせてくれる?」
「私が、ですか?」
「うん。首を落とせば死ぬと思うけど、念の為甲羅も一緒に砕いておきたい」
ゴーレムっぽい魔物だった場合、見た目はあまり役に立たない。
幸い、縦穴は広い。
風魔法や反重力魔法で飛べる私達に足場の不利はない。待ち伏せの効果は薄かった。
「私に、できるでしょうか?」
前回カロネイア将軍の渾身が防がれた。現場に実際にいたオーレリアが怯む様子を見せる。私に任せる気だったろうし、戸惑う様子も混じっていた。煌剣オーラム、その真価を試す機会に恵まれなかったから、仕方ないとも言える。
「大丈夫、私はそれだけのものを作ったよ。伝説の聖剣、伝承なら絵空事でも、オーレリアの剣は私が技術の粋を結集させた。何ができて何ができないかも把握してる。その上でもう一度言うよ―――大丈夫!」
「……分かりました。私はレティを信じます!」
うん、私だって友達の期待には応えてみせるよ。
「オーレリアは顔の周辺を飛び回って牽制を! 私が魔力を収束させたら強く光るから、その瞬間に合わせて首を狙って!」
「はい!」
「私も行こう!」
私とオーレリアが簡潔に打ち合わせるのと同時に、カロネイア将軍が縦穴へ飛び込んだ。あの人に限って、ここから落ちて大丈夫かな、とか無駄な心配はしない。注意を引くなら人手はあった方が良い。
短い打ち合わせの間に、ライリーナ様も術師部隊を整列させていた。岩石竜に半可な魔法が通じる筈もないけど、私達から注意は逸らせてくれるみたい。
咄嗟の判断に感謝しながら、私達は縦穴へ飛んだ。
岩石竜を討伐する以上のお礼なんてない。
私はミニ箒アーリーを構える。
―――OOOOOOOOOOOoooooooooooooo!!!
同時に、岩石竜が吠えた。
前回攻撃が通らなかったからと言って、尊大に構えるほど不遜ではないらしい。
「岩石竜の魔力が周辺へ広がりました! おそらく攻撃が来ます!」
ノーラの喚起の直後、周辺のダンジョン壁が隆起した。鋭く、大きな岩の爪、次々湧き出る岩の切っ先が私達を狙う。大地を揺るがし岩盤をも砕く咆哮って程じゃないけど、岩石竜も広範囲への攻撃手段を備えていたみたい。
―――OOOOooooo!
次のひと啼きで、岩槍が私達へと飛んだ。
岩槍投射魔法って中級の地属性魔法に近いけど、範囲と数が半端じゃない。
そもそもダンジョン壁への干渉は、私の掌握魔法でも叶わない。恐らく力場の作用だとは思うけど、やっぱり竜って常識では測れない。
だからと言って、ただの質量弾で私達は止められない。
ライリーナ様率いる術師部隊が次々撃ち落とし、オーレリアと将軍は武器で軽々振り払い、私はラバースーツ魔法の出力を上げて耐えた。
本能的なものか、ダンジョンから生まれた魔物は周囲を崩落させるほどの大規模攻撃を持たないのか、岩石竜は攻め手を欠いていた。
その隙は逃さない。
岩弾を掻い潜った向こう、縦穴の奥で煌剣に仕込んだ旋風竜の魔石が淡く輝く。オーレリアが魔法剣を起動させたのだと分かった。
オーレリアに複雑な術式は必要ない。
そんな彼女に不足しているものは何かと考えた時、簡単に答えは出た。
強力無比な遠隔攻撃手段、それが欲しい。
術師型だった彼女が速さと引き換えに諦めた極大の一撃を、魔法剣が用意する。
極大の斬撃を飛ばす。伝説のオリハルコンにも相応しい。巨大質量物を剣で切るとか、前世的にも憧れる。
鍍金したオリハルコンを含め、煌剣の刀身は魔力を飽和させてある。過剰な魔力を注ぐと、それらは単分子まで研ぎ澄ませた刃先から高圧力で噴出し、あらゆるものを切り裂く風属性の刃を形成する。
更に、刀身の内部にはオリハルコン糸を魔導線として張り巡らせ、魔力増幅の魔道具基盤を構成してある。増幅作用が最大限となるよう、核には旋風竜の魔石を使用、僅かな魔力を籠めるだけで高圧魔力カッターが発生する。
そこへ、オーレリアはありったけの魔力を注ぎ込む。
私も煌剣の術式を真似る。
アーリーの穂先に魔力を集中。単分子レベルの鋭利さは再現できないから、その分を収縮魔力量で埋める。私なら増幅術式を経なくても十分な魔力を用意できる。臨界魔法にも近い魔力を収束させた。
衝撃軽減の力場を考慮する必要はない。
一定以上の魔力圧をぶつけると、竜の力場ごと斬り裂ける。クランプルドレイクで何度も実証した。オーレリアの煌剣は力場ごと竜を断つ。
魔力圧縮が極限まで達したアーリーが強い光を放つ。煌剣も翡翠色に輝いていた。
「オーレリア!」
「行きます!!!」
オーレリアの後ろで風が爆ぜた。
煌剣を上段に構えたまま疾駆する。
「「術式、開放―――!」」
勿論、私も限界まで加速し、岩石竜の胴体へ肉薄する。
「「―――極限突破風刃魔法!!!」」
ズゥゥゥゥゥゥ………ン―――
アーリーを振り下ろした直後、重量物が倒れる音がした。
目視で確かめるまでもなく、岩石竜はT字に分割された。対象がオリハルコンでもない限り、全力解放した煌剣を防ぐ手段なんて存在しない。
「……これを、私が?」
鋭利に切断された岩石竜の首を、オーレリアが呆然と見つめている。
ちなみに切断面はただの岩で、どのあたりが生命体なのか分からなかった。ただ喉のあたりで大きな魔石が真っ二つになっている。やっぱりゴーレムに近い種族だったのかな。
「オーレリア、やったね!」
戸惑うオーレリアに近付き、私は右手を掲げる。勝利を喜ぶのに余計な言葉は必要ない。
早くアイテムボックスに収納しないと死骸が崩壊するから多くを語っている余裕がないって訳じゃないよ。
煌剣を用意したのは私だけど、あの術式、躊躇いが混じると魔力圧がぶれる。オーレリアくらいの思い切りがないと想定した威力が出ないばかりか、変に魔力が溢れて持っている事すらできなくなる。まだまだ試作品だし、万人向けに作っていない。
だから、使い熟したのは間違いなくオーレリアの実力。彼女ならできるって信じてた。
「はいっ!」
そんな無粋な説明をする必要もなく、彼女自身で納得したのか、オーレリアは笑顔で応えた。
「想定通りの、いえ、それ以上の凄い威力でしたわ! おめでとうございます、スカーレット様、オーレリア様!」
「それを再現しちゃうレティ様は今更ですけど、これは歴史が動きますよ!」
「まだまだこんなものじゃ満足しないよ。もっと、もっと先へ私達は行くんだから! オーレリアも付きあってくれるでしょう?」
「勿論ですよ! と言うか、放って行かれても追いかけますから!」
「あははははっ」
オーレリアとハイタッチを交わし、開発に携わったノーラ、キャシーとも喜びを分かち合う。
その様子を、ある者は微笑ましく、ある者は眩しそうに、ある者は呆れ、またある者は腰を抜かした状態で慄きながら眺めていた。
キャシーの言う通り、王国の聖剣に続く2歩目を、オリハルコンの歴史に刻んだ。
この先、オーレリアは煌剣オーラムの担い手として名を広めていく事になる。戦征伯令嬢としてではなく、オーレリア・カロネイア、彼女自身が歴史に登った瞬間だった。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。
今後も頑張りますので、宜しくお願いします。




