オーレリア無双
コンピューターを作ると言っても、今すぐって事にはならない。
この世界には存在しない上に汎用性が高いから、概念を説明するだけで難しい。そして、ハード面はともかく、ソフト面は私の手に余る。私がぼんやりしか理解していないものを誰かに説明するって難易度激高だよね。
半導体っぽいものが作れると確定した訳じゃないし、少しずつ試作品を作るところからかな。プログラミングについてはロジックツリーを理解してもらうところから始めないとだよね。
前世を生きた身としては、初歩的な計算機程度じゃ満足できない。
前世文明の何十年かを飛び越えたい。パソコンが欲しい。インターネットが欲しい。スマホが欲しい。勿論、魔法だって組み込みたい。
そうなると、人海戦術で次々新しいものを作るしかない。つまり、研究都市を本格化させないと始まらない。
今は可能性を集めて、土台を作る前段階ってところだね。
そんな訳で、今はダンジョンが優先。
ここで見つかる素材だって、何に繋がるか分からない。オリハルコン増産の為にも、ダンジョンについて知りたいってのもある。
現時点でオリハルコン鉱床で出来る事は少ない。
私達は先へ進んだ。今日は31層まで行く予定になっている。
ダンジョンだけあって魔物の襲撃が頻発する。
ロックパイソン、鎧百足、岩巨人、硬い外殻を持つ魔物も多かった。そのいずれも、オーレリアの一刀の下に斬り伏せられてゆく。ほとんど彼女の独壇場、カロネイアの騎士達は素材回収係に徹しているくらいだった。
「確かに強力ですけど、あんまり凄過ぎて魔法剣として使う機会はないですね」
その検証に来た筈なのに、とキャシーの感想には不満が滲む。
いくら煌剣が強力と言っても、ダンジョンの深層でここまで無双できるとは思っていなかった。鐵蟻を斬った時点で竜も斬れるって事なので、敵がいないのも不思議ではないけども。
「オーレリアの技量も大きいと思うよ。鋭さだけじゃ岩塊は断てないからね。上手く防御が薄いところを狙ってるよ」
「関節や装甲の継ぎ目、ですね。よくあの速さで的確に見抜けるなって感心します」
彼女のスタイルは速さと狙いの正確さに特化している。
以前は強化魔法が使えなかったせいで風魔法で補うしかなくて、非力さをその2つで埋めていた。
「あたし的にはオーレリア様が足りていないなんて思いませんけど、幼い頃からの目標が強化魔法の極みと万能型の極大魔法使いですからね。工夫する他なかったんだろうとは思います」
「うん。独自の戦闘技術を生み出したのは、素直に凄いって思う。ただ、術師型だったオーレリアが近接技術を磨いた。そのせいで強力な魔法を扱う経験は不足してる。その分、魔力操作は卓越してるんだけど」
「風魔法の制御で素早く動く訳ですから、認識、判断は更に早くって事ですか?」
「そうそう。その能力が攻撃力の高い武器をより生かす。そんな訳で、前から強力な武器を作ってあげたかったんだよね」
高速戦闘を基本としているなら複雑な機構はむしろ邪魔になる。
ただただ高熱を発する剣とか、斬るだけで凍らせる剣は属性が合わない。既に風を纏わせているから、風属性を追加しても生きない。強力な風魔法を習得してないせいで纏わせた風を強化させられない。
強化魔法を習得して更に速度は上がったものの、攻撃力に大きな向上はなかったんだよね。
ひたすら硬いだけの棍を愛用するカロネイア将軍みたいな相性を探していたところに、今回のオリハルコンが見つかった。
鋭さを追求した剣。
「思った通りと言うか、それ以上に、オーレリアが化けたよね」
「とんでもない速さで距離を詰めたと思ったら、次の瞬間にはバラバラになってる魔物に少し同情しますよ」
対人戦では達人域にあっても、ダンジョン深層の強力な魔物相手には火力不足が致命的になっていたんじゃないかな。思うように魔物を倒せなくて、自信を喪失してたのではって思ってる。
そのせいで元気がなかったんだとしたら、バッサバッサと魔物を斬り倒して、いつものオーレリアに戻ってくれたらいいな。
オーレリアの活躍のおかげで、戦征伯夫妻も機嫌がいい。煌剣のお礼だと魔物素材の分け前をたっぷり貰いながら、30層を進んだ。
さあ目的の階層に下りようってところで、全員の足が止まった。
―――OOOOOOOOoooooooooooooo!!!
低く響く咆哮。
それが縦穴の下から轟いた。間違いなく尋常な魔物じゃない。
「ライリーナ様、あれって……?」
「ええ、レティちゃんに討伐を依頼した魔物ね。前に来たときはもっと奥に居たんだけど、下で待ち構えているみたい」
縦穴の壁面にはペグが打ち込んである。
以前の通りにあれを伝って下りていたら、無防備なところを襲ってくれって言うようなものだよね。
眼下に見えるのは巨大な岩塊。そこから手足が生えて見える。
一見亀のようでもあるけれど、手足も岩製だった。とにかく柔らかそうな部分が見当たらない。口なんて大きな鍾乳石を嚙み合わせたみたいで、目の部分はごっそりへこんでる。眼球を備えているかも分からない。
大地竜にも並ぶ巨大な魔物が、こちらへ敵意を向けていた。
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