王国の聖剣
手掛かりとなったのは比重だった。
比重、つまり構成する分子の収束具合で決定する。詰まっていれば単位体積当たりの重量は重くなり、詰まっていない場合は軽い。
そして詰まっていない、隙間があると言う事は、分子に振動する余地ができる。振動によって規則性ある配置が保てなくなると、流動性が生まれる。要するに液体となる訳だね。
樹脂や生物の身体を構成する細胞、有機化合物は分子構造自体が大きいので、比重が小さくても固体状態を保つ例は多い。
けれど金属には当て嵌まらない。
分子構造の前提は、今世も前世もあまり差はない。
今世で散見する物理法則の例外には、必ず魔力が介在する。つまり、オリハルコンを固体たらしめている要因、金属分子間の隙間を埋めているものは、魔力って事になる。
発掘の時点で高濃度の魔力を含有した点、“不壊”、“永続”って不思議性質が作用するにも魔力が必要となる点から考えても、大きく予想は外していないと思う。
オリハルコンから魔力を抜き出せば、固体状態を保てなくなる。同時に“不壊”の性質も効力が弱まる。
この仮説を立証するのは難しくない。
その為の素材も、オーレリアがすぐに揃えてくれた。
「それで吸魔、ですか」
これから始める事の説明を聞いたオーレリアが納得顔になった。
吸魔って魔物は、その名前の通り他者の魔力を吸収して生きる。種類は様々で、蛭みたいな低級の魔物から吸血鬼っぽい人型まで多様性に富んでいる。
今回は蔦を伸ばして獲物を絡めとる吸血植物を用意した。既に蔦と必要器官だけを引き抜いて、キミア巨樹製樹脂に埋め込んである。性質を残すだけの樹脂とは言え、キミア巨樹の方が上位種なので、吸血植物の特性ごと呑み込んでくれた。植物系魔物同士で相性がいい。
「魔石から魔力を吸引するのは一般的だけど、オリハルコンは更に保持性能が高いからね。吸魔の性質を利用して無理矢理引き抜く事にしたよ」
これだけなら私以外でも辿り着けそうな気もするけれど、実行できるかと言うと疑問が残る。
何しろ、引き抜いた魔力を戻さなければ加工後のオリハルコンが特性を発揮できない。加工時の柔らかくなった状態では価値が薄い。
その為には吸引した魔力を保存しないといけない。墳炎龍を越えるような魔力なんて簡単に用意できないし、その量を留めておける魔力充填器も存在しない。
将来的に新しいオリハルコン鋼が見つかれば大容量の充填器を作れるだろうけど、すぐには無理な話だよね。
だから、樹脂化した吸魔の蔦の先は属性変換器を経由して私が握る。現状、魔導士しか加工できないって事になる。
「つまり、これで準備が整ったと言う事だな?」
で、かぶりつきで見学する髭のおじさん。
王座でどっしり構える事すらできなかったこの人を、陛下とは呼びたくない。
作業するキャシーやノーラと一緒になって実験台に張り付いている。その様子を宰相や将軍、王子達が呆れながら眺めていた。
ここは王城。
ウェスタダンジョンの攻略拠点でオリハルコンの加工を試すつもりだったところへ、「父が飛び出していきそうなので、続きは王都で実験してほしい」との切実な召喚状を貰った。
私が原因で国王陛下が王都を空けたなんて事になったら、間違いなく問題になる。どうして自ら登城して新技術を披露しなかったのかと、槍玉に上げられる。そんな面倒を被るくらいならと、ウェルキンで王都へ飛んだ。
陛下が興味を示しそうなアビスマールはまだ秘匿してある。
「……すまなかったな、ノースマーク子爵」
王城に着いたらアドラクシア殿下に頭を下げられてしまった。抑えが効かず、私を呼ぶより他に方法がなかったらしい。
オリハルコンの発見だけでも大ニュースなのに、その加工が可能になったとなると国の一大事と言える。
中央に実験台を据えた前代未聞の謁見の間には、王都にいたほとんどの貴族が駆け付け、入り口には歴史的瞬間に立ち会おうと王城中の官僚、使用人が詰めかけていた。
早く終わらせないと王都の中枢が麻痺するかもしれない。
「では、始めます」
と言うか、早く済ませたいです。
謁見の間の全員に伝わるよう宣言すると同時に吸魔の魔道具を起動、私は魔力吸収って魔法を使う。
しばらく無音の時間が続いた後、中央のオリハルコンがくにゃりと歪んだ。
「「「「おおっ!!!」」」」
謁見の間中に興奮の声が響いた。
オリハルコンは硬度を失い、自重を支えられないくらいに柔らかくなったらしい。少し摘まんで持ち上げてみると、むにっと簡単に伸びた。
粘土より柔らかく、スライムより弾性が少ないかな。
「ノーラ、不壊特性はどうなっている?」
「弱くなっていますが、その状態でも失われた訳ではないようです」
それで伸びるだけで千切れなかったんだね。オリハルコン糸とか簡単に作れそう。
でもこの状態なら地属性で干渉できる。隙間が空いた分を私の魔力で埋めればいい。慎重に魔力を流すと、プツリと切れた。扱いに少しコツが要るね。
成形が可能と分かった私は適当な大きさを千切り、オリハルコンの小片を魔法陣の上に置いた。これから剣に加工する。
イメージだけだと完璧な成形は難しい。オリハルコンの場合、硬化させた後で研いだり叩いての変形は叶わない。だからと言って、歪んだ剣が出来たら目も当てられない。鮮明なイメージ構築が苦手なのは、空間固定化の時に散々実感している。
そこで、建築物造形の魔法陣を応用した。単一の材料で形を整えるだけで済む為、魔法陣もそれほど複雑にならない。詳細な設計図通りに成形するから、私の不器用さは作用しない。
刀身は薄い。それでも決して砕けない特性を持つので、剣としての役割を十分に果たせる。と言うか、勿体無い。代わりに恐ろしいほど鋭利な刃を形成した。
周囲が息をするのも忘れて見守る中、私は用意してあった柄を取り付け、強化樹脂製の鞘に納めて陛下に差し出す。
どれだけ勿体無く思っても、国王に献上しないって選択肢は存在しない。
残りの、むしろ大部分と言っていいオリハルコンを研究用に貰う為にも、現状で用意できる最高の剣を寄贈しておかないといけない。
「ヴァンデル王国を守護する聖剣です。この剣と共にこの国が永遠である事を祈っております」
「……うむ」
神の金属を成形した剣なので、聖剣って事になる。
特に目新しい機能も付加していないから、私的には金属の塊でしかないけども。
たった今まで視線が剣へ釘付けになっていた陛下はオリハルコン製の剣を仰々しく受け取ると、納めたばかりの刃を抜き、立ち会う貴族に見えるよう掲げてみせた。
白い刀身は周囲の光を反射し、強く輝いて見える。詳しく説明を受けていない人達には、光を発しているように感じられたかもしれない。
「見よ! たった今、ノースマーク子爵の手でこの国に聖剣がもたらされた! 錬成こそ人の手によるものであったが、オリハルコンがこの国から発見された事実に違いはない。我が国が聖剣を持つ事を、神が認めた証左である!」
「「「「おおおおおおおおっ!!!」」」」
歓声が爆発した。
「そして伝説のオリハルコンを発掘した我が軍の精強さ、神の金属すら加工してしまう技術が、この国を果て無き発展へ導くであろう! 余は国主としてこの瞬間に立ち会えたことを誇りに思う! この先に続く栄光を確信している!」
「「「「おおおおおおおおっ!!!」」」」
耳栓持ってくればよかったかな、なんて考えながら風魔法でこっそり遮音する。
どうも周囲の興奮に共感できない。
もっと研究を進めて新しい何かを生み出せたならともかく、希少なだけの刃物に興奮する感性は持ち合わせていない。
周りが盛り上がっているせいで返って冷めたのか、オーレリアやキャシーも苦笑いしていた。ノーラなんて柔らかくなったオリハルコンの鑑定に夢中で、陛下の方に視線も上げない。
ま、髭に隠れて分かり難いだけで陛下の頬は緩みっぱなしだし、さっきまで大きな子供って醜態を晒していた陛下に、今更威厳とか感じないしね。
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