ウェスタダンジョン到着、そして……
潜航したアビスマールの船内は闇に閉ざされ……ない。
「「「わあぁぁ…………」」」
代わりにあちこちから感嘆の声が上がった。
ダンジョンへの同行者は実験関係者ばかりじゃないので、潜航艇に不安を抱いていた人も多い。
「レティ、これって……」
「うん、地中に堆積した魔力だね」
アビスマールの船体、その上部はノーラが最初に提案した通り透明の強化樹脂製となっている。そこから外部が望める。
地中の闇しか映さない筈だったそこには、黄、青、赤、緑、白、それぞれの属性の色が瞬いていた。夜空の星と違い、とても迫って見えて臨場感がある。
アビスマールが進むと強弱も分かった。平地は光が少なめで、村や町の地下、人の生活圏では強くなる。山へ向かうともっと強くなった。煌めきの中を漂っているのに近い。
模型で収集した映像で知っていたから今更驚きはないと言っても、なかなか見ごたえがあるよね。
「吸収魔素量、記録しましたわ。やはり堆積魔力の多さに比例しますわね」
「あたしは航行速度を記録中です。現状問題は見られませんから、少しずつ速度を上げてみますね」
「クラリック、進行方向に微調整が必要っス」
「分かった……っと、こんなもんか?」
「とりあえずそのまま進んでちょうだい。位置情報が確認できたら改めて指示を出すわ」
「……測定中」
もっとも船内では幻想的な光景に浸る事なく、大勢が慌ただしく動き回っているのだけども。
ダンジョン行きが主目的であっても実験には違いないので、逐一記録を残さないといけない。全てのデータが次の改装に生きる。
そして位置情報を表示する装置の開発が遅れているから、今回は原始的に地図へ書き込んでいくしかない。
当然ながら地中に目印なんてないから、座標で位置を把握する。
幸い南ノースマークの領都コキオには、存在感的にも内包魔力量的にも桁外れのキミア巨樹がある。起点には事欠かないので巨樹へ魔力波を照射、その方角と強度から位置座標を算出している。
今回は通過地点をいくつも設定してあって、通過した時点の位置座標から進行方向を微調整する。将来的には座標を自動で計算して、地図へ位置情報を投影する魔道具を作りたい。その為にも大量の潜航データを集めないとだね。
ちなみに私は暢気に見学している……訳ではなく、液状化やアイテムボックス魔法、液化させた空気の解放状況など、各種魔法の管理を担当している。どれか1つでも不具合があるだけで、まとめて生き埋めになりかねない。
最悪の場合に地上までの土壌を臨界魔法で消し飛ばすところも含めて、私の役目だね。
そして多忙さと緊張感を伴う航行を続けて2日、私達はウェスタダンジョン、その攻略拠点へ辿り着いた。
「……」
「……」
「……」
「……これはまた、凄いものでやって来たわね」
「あっはっは、いやはや恐れ入った」
「……レティですから」
多くのカロネイア領騎士が言葉を失い、ライリーナ様は呆れ、カロネイア将軍は爆笑した。
でもオーレリア、私のする事だから今更です……みたいな説明はどうかと思うよ?
「地面へ潜れると言う事は、ダンジョン攻略にも応用できるのかしら?」
いち早く可能性に気付いたライリーナ様が訊いてくる。
「ええ、確認してきました。ある程度の広さのある場所、外周側から侵入する事は可能です。既にキャシーがダンジョン潜行用のエレベーターを設計してくれています」
「ほう、つまり我々が内部を探索し、エレベーター設置に適した場所を設定できれば、そこからの探索再開がいつでも可能になるのだな?」
「ええ、有用素材の発掘場所、或いはその付近へ繋ぐ事も可能です」
と言うか、私的にはそれが優先目的だね。
勿論ダンジョン核の情報も欲しいから、最大限攻略に協力すると決めている。
「それは助かる。丁度特殊な鉱脈が見つかったのだ。できるなら採取体制を整えておきたい」
「新しい発見があったのですか?」
「そうだ。鑑定はまだだが、かなり特殊な性質を秘めているぞ」
「……」
オーレリアが空けている間の発見みたいで、彼女はちょっと不満そうだね。
言うまでもなく、特殊な金属と聞いて私のテンションもぐいぐい上がる。
「見せていただいても?」
「構わんぞ。むしろ、ノースマーク子爵の見解を聞かせてほしいところだ」
ワクワクしながらお願いしてみると、あっさり許可が出た。
カロネイア将軍は鉱石を雑に懐から取り出して、私へ渡してくれる。いや、これ以上ない堅固な保管場所だとは思うけども。
なんとなく価値が下がった気を振り払いながら、鉱石を観察する。
大きさはソフトボール程度で、外側にはダンジョン壁だろう岩石が付着していた。鉱石に傷をつけないよう丸のまま刳り抜いたのかな。
色は白に近い銀、強い光沢がある。そして、見た目に反して異様に軽い。
アルミ?
そんな印象を抱いてしまうけど、光沢が尋常じゃない。鉱石の状態なのに、鏡みたいに観察する私の顔が映る。前世になかったファンタジー金属である事は間違いない。
「―――!」
なかなか興味深く観察を続ける私の後ろ、ノーラが息を飲んだのが分かった。
うん、これでトンデモ金属だって確定したね。
「スカーレット様、それ、オリハルコンです」
「「「「―――!!!」」」」
最高位の鑑定結果を聞いて、周囲の緊張感が一気に高まった。
鉱石の価値が跳ね上がった瞬間でもある。
今更ノーラの鑑定を疑わない。ついでにこのダンジョンの価値も鰻上りになった。
“永続”と“不壊”、伝説上の性質を天然で備えた金属をオリハルコンと呼ぶ。
あくまでそういうものがあるって伝わるだけで、実際の発見は初になる。多分、この塊は史上最高の価値を持つ。
類似品をいくらでも量産できる私は驚きが少ない。
困った事に、オーレリア達と感動を共有できないね。
「やはり、か」
カロネイア将軍は驚愕しながらも得心がいった様子だった。
「予想していたのですか?」
「確信があった訳ではない。だがその鉱石は、私が割った岩盤から出てきた。私の棍が直撃して傷1つなかったからな。まさかとは思ったが、可能性を排除できなかった」
「将軍の全力に耐えたなら無理もありませんね」
「しかし問題もある」
「問題、ですか?」
「ああ、価値が計り知れない事は間違いないが、加工できなければ置物にしかならん」
そりゃそうだね。
7属性の加護神はそれぞれオリハルコン製の武具を持つと言う。けれど、加工方法は伝承にない。これまでは実物もなかったから誰も気にせずに済んだ。
私もまさか現存するとは思ってないから、考えた事もなかったよ。
「正式な手続きは後になるが、その鉱石は君に預ける。加工方法を研究してくれないか?」
「……宜しいのですか?」
「魔塔にも要請してみるが、君とエレオノーラ嬢が無理なら他の者ができるとは思わん。名誉だけを欲して名乗りを上げる者が次々湧く前に、君に託しておきたい」
「ありがとうございます。必ず……とはお約束できませんが、全力を尽くさせていただきます」
ちなみに、私が“永続”と“不壊”属性を付与した場合には、臨界魔法でも傷付かないのを試してある。
ワクワクはするけど、かなり難解な課題だね。
「まあ、そう背負い込む事もない。加工が無理ならそのまま砲弾にでも埋め込もう。決して砕けない、いくらでも再利用可能な弾丸と言うだけで十分に価値は高い」
「……拾いに行くのが大変そうですね」
「価値を考えれば嫌がる者も少ないだろう。十分な手当ても弾める」
「将軍専用の鈍器と言うのも良いかもしれません」
「はっはっは、加減の必要のない武器か。それは確かに欲しいな」
冗談に応えながらも、私は加工方法に考えを巡らせる。
と言うか、竜を砕く勢いでもまだ加減してたんだね。改めて常人とはかけ離れているって実感したよ。
不壊金属を加工する。
言葉の時点で既に矛盾している挑戦が、本当に可能かどうか分からない。
でも、ファンタジーの代表格みたいな金属で遊べるってだけで踊り出したくなってしまう。弛んだ顔を戻す方法が思い出せない。
ダンジョン内で発見された金属は、同じ場所で採掘できる可能性が高い。つまり、実験用のサンプルも増やせるって事だよね。研究するなら試験体は多い方が良い。
とりあえず、アビスマール内で潜行エレベータを設計中のキャシーにこのオリハルコンを見せびらかして、完成を急がせるところからかな。
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