閑話 冒険者の決心
切りの良いところまで進めたいので、本日は2話投稿します。
その1話目、グリット視点です。
視点を変更する関係上、少し短めになります。
キャスリーン様が倒れたという連絡を、俺はリデュースのダンジョンで受けた。
冬季の休暇が明けた後、狭域化実験の際に発見したフラッス山のダンジョンを探索しようと移動してきたところだった。
ウォズからの連絡によれば、スカーレット様は呪詛探知機に必要な特殊金属を必要としていると言う。それにダンジョンに関する情報はいつだって熱望されていたからしばらくは探索に集中する予定だった。
俺達烏木の牙にもコントレイルを貸し出してもらっているので、行動範囲がぐっと広がったからと言うのもある。オーレリア様はカロネイア領の近くにあるダンジョンを攻略すると聞いたから、俺達はリデュースを選んだ。
俺達が初めて挑んだダンジョンって理由も大きい。
だが、さあ探索を開始しようって段階で届いた連絡が全てを引っ繰り返した。
「姉様が頭を打って病院へ行きました。いっぱい、いっぱい血が出て……、意識もなくて……。姉様が、姉様が……!」
ほとんど泣き声で要領を得ないメアリーヌ様からの通信が切れた後、俺は飛行ボードへ飛び乗っていた。
ここからなら半日もあればウォルフ領へ行ける。
「ちょっ、リーダー!? 何処行くんスか?」
「せめて指示を残して行きなさい!」
「……無茶」
「経験則から言わせてもらうが、負担が半端じゃねーぞ!?」
仲間達の声は聞こえていたが、まるで頭に染み込まなかった。
自分の中で考えがまとまらない。
理性が何処かへ飛んでいる。
ただ、急がなければと、焦燥だけが思考を支配していた。
キャスリーン様の状況を想像する事すら怖かった。それどころか、無事を祈る事すら躊躇われた。俺が祈る事で逆に叶ってしまうのではないかと、俺にそんな資格はないのではないかと、根拠のない不安が頭を掠めた。
それで居ても立ってもいられず、ひたすら飛行ボードを飛ばした。
身体に圧し掛かる風の負荷がきつい。
よくこんなもので2度も王都まで飛んだなと、クラリックに感心する。だからと言って、速度を緩めるって選択肢は持てなかった。
コントレイルは運転できないから俺の移動方法はこれしかない。負担にはまるで構わず飛行ボードの速度を上げた。
病院に駆け付けたからと言って、俺にできる事なんてきっとない。
倒れたキャスリーン様にかける言葉も定まらない。
感情はぐちゃぐちゃで、何を躍起になっているのかと呆れる自分もいる。
でも行かなくちゃいけない。
行かないでいられない。
ただ、ただ、あの人の顔を見たかった。
辿り着いた男爵家の屋敷には、知った姿はなかった。
病院の場所を聞いた使用人によると、スカーレット様が少し前に来たと言う。少しだけ希望が灯った。
「キャスリーン様っ!!」
「えっ? グリットさん!?」
ほとんど有無を言わせない感じで聞き出した病室へ駆け込むと、一見元気そうに見えるキャスリーン様が目に入った。
「あ、え? グリットさんまで来てくれたんですか? ごめんなさい、大事にしてしまって。その、回復薬で治る程度だったんです。ホント、すみません、グリットさんにまで心配させてしまって……」
あたふたと謝罪を口にするキャスリーン様が見られて、頭いっぱいに安堵が広がった。
スカーレット様も取り乱している様子はない。本当に大丈夫なのだろう。
それが分かると、力が抜けた。
「………良かった。本当に良かった」
全身が弛緩し、その場にへたり込む。
身体が悲鳴を上げていたとか、思ってた以上に全身が強張っていたとか理由はいろいろあったが、何より安堵に浸っていたかった。取り繕う気も起きない。
「え? え? え?」
驚きで目を白黒させるキャスリーン様の姿を見られてホッとする。それだけで、ここまで来た苦労なんて何でもなかった。
スカーレット様達の視線が突き刺さっていたようにも思うが、今はまるで気にならなかった。
ほとんど衝動でここまで飛んできた。
そこにあったのがどういった感情だったのか、今更自答するまでもない。
2年近く曖昧なままにしてきた自身と、今日1日で嫌ってくらい向き合った。もう自分を誤魔化す気も起きない。
心が決まったならすぐにでも伝えるべきだろう。
ほとんど這うようにしてキャスリーン様の傍へ向かう。
未だ身体は満足に動かない。そこまで一杯一杯だったのかと思うとおかしかった。それも含めて伝わればいいと、俺はキャスリーン様の手を取った。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。
今後も頑張りますので、宜しくお願いします。




