閑話 分かたれた道
昨日、修正前に「ガノーア子爵の企み」を読んでくださった方、改めて申し訳ありません。
昨日の投稿は「私、怒ってます」に変更しております。
「ガノーア子爵の企み」については、完成させて明日以降に投稿予定です。
話の流れを変更する予定はない為、ネタバレを含む可能性もあります。本当にすみません。全て忘れた気持ちで読んでいただけると助かります。
僕の名前はゴルザ・メバ。
少し前までは国軍に所属していたが、今はガノーア子爵に仕えている。
何故ガノーアまでやって来たかというと、国軍を解雇されたからだった。
30手前の僕が未経験の職にありつける筈もない。せいぜい冒険者だけれど、できるなら人間同士で争う可能性も残しておきたかった。必然、騎士か軍に居場所を探す事になる。
お貴族様に仕えるとなると、身元確認が必須となる。そこで前職解雇と知られてしまえば、解雇されるだけの問題を抱えているのだろうと勘繰られてしまう。門前払いも珍しくなかった。
何処まで行っても、何故軍を離れたのかという質問からは逃れられない。嘘をついても、軍に照会されれば一発でバレた。
前職の枷は、なかなかに重かった。
そんな中、ガノーア子爵は雇用者の身元を気にしない珍しい貴族だった。
おかげで僕も、何とか騎士見習いとして滑り込む事が出来た。
そもそも、何故僕が国軍を離れたかと言うと、オブシウスの集いに参加していたからだった。
要するに、ダンジョン化に関与した罪でクビになった訳だ。
処刑から免れ、軍から追い出された連中のほとんどは、王都の周辺で冒険者となった。実家に戻った者も多かった。
けれど、あの件を反省したので一からやり直そう、なんて空気に混ざろうとは思えなかった。
そもそも僕は、連中の思想に気触れていた訳じゃない。
あいつらと行動を共にしていたのは、その方が早く戦場へ行けそうだったからだ。あいつらの思惑に乗っていれば、帝国の奴等に銃を向けられると思った。
とは言え、戦果を挙げて軍内で出世する事にもあまり興味がない。
僕はギリギリの戦いを好む。
僕も相手も死力を尽くして、危ないところで勝利を掴む。そんな戦場を望んでいる。相手も全てを出し尽くし、僕の方が一歩だけ先を行く。そんな時、悔しそうに顔を歪める様子が、堪らない優越感をもたらした。
死に急いでいる訳ではないけれど、敵に及ばなかった結果死ぬなら仕方ない。そのくらいの割り切りはあった。
でも、そんな戦場、軍にはなかった。
事前調査を徹底し、効果的な戦術を選択、部隊への被害を最小限に抑える事を第一に準備を重ねる。
それが理解できない訳じゃない。
ただ、それは僕の趣味じゃないってだけだ。僕の方が変わり者である事も理解している。
それでも戦争になればと目論んだものの、敢え無く失敗した。
軍部主導で戦争を起こそうとして、命を拾っただけでも幸運だった。
ニンフとか言う工作員に精神制御を受けていたからだと聞いたが、僕はその男に会った事もない。生き延びる機会だと思って、口裏だけ合わせた。
あいつらに仲間意識はないけれど、選択は後悔していない。
訓練と最後の屍鬼征伐は悪くなかった。
強いて言うなら、相手が屍鬼だったせいで、怯む様子も、戸惑う様子も見られなかったのが悔やまれる。
ギリギリの戦場に身を置いた緊迫感は最高だったのに、得た勝利は無味乾燥だった。
次の職にはありつけたものの、しばらくは退屈な日々だった。
ところがある日、領境の先にある山村を襲えとの命令が下った。
訳が分からない。
巡回と称して無駄に時間を潰すより、有意義な経験になりそうではあったが、意図は読めない。
内乱でも起こす気だろうか?
だとすると、僕の望む戦場が得られるかもしれない。僕は参加を決めた。
流石に子爵様直々の命令とは言え、拒否反応を示す者も多かった。
禄に武器も持たない村人を一方的に蹂躙する。誰でもそれを受け入れられる訳じゃない。無理に連れて行ったところで、土壇場で変な正義感に目覚め、考え無しに銃をこちらへ向ける者が出るかもしれない。現場で揉め事を起こしたのでは、現地の村人にすら噛み付かれる危険が残る。
そこで指揮隊長の判断で、完全な志願制となった。
たとえ数人だけだったとしても僕は行くつもりでいたが、参加者は56人、意外と多かった。それだけ退屈している者がいたのだろう。
身元を重要視しないだけあって、今どき冒険者でも見ないようなゴロツキが多かったのも大きい。
ガノーア子爵が暗躍してる事を隠す為、生存者は残すなと言われた。盗賊に偽装する為、徹底的に財産を残すなというのもあった。
正直、期待はなかった。
一方的過ぎる展開に興味はない。
そう思っていたのも、実際に襲撃するまでだった。
冒険者崩れや歴戦の狩人、魔物領域に隣接しているだけあって、何人かの激しい抵抗に遭った。
女を襲う事を目的にしている奴、蹂躪自体を愉しむ奴、色々だったが、ラキ村、ラマン村と続けて攻め、なかなかに楽しい時間を過ごした。
特にラマン村の元冒険者は最高だった。
完全に気配を断ち、突然僕を襲った。
あの瞬間、間違いなく死んだと錯覚した。それだけ完璧な奇襲だった。
だが、僕を引き摺り倒した男は、次に僕の腰にあるナイフを狙った。瞬間的に悟った。この男は丸腰なのだ。
だから、あれほど見事に殺気を消せたのだ。
実に惜しいと思う。
奇襲直後の判断が、すぐさま僕の首を折る事だったなら、確実に殺せていた。組み敷いたまま頸部へ体重をかけられていたら、僕に為す術はなかった。
おそらく、対人経験が少なかったんだと思う。
刹那の選択が生死を分けた。
骨を圧し折る力強さで襲いかかって来た相手は、おそらく強化魔法使い。そうでないなら、近接戦闘は選ばない。
僕も同様だけど、たった1つだけ属性魔法も使える。
「……ウインドカッター!」
「!!」
渦巻く風刃が元冒険者の腹部を抉る。
僕の風魔法は不完全で発生させるだけ、前には飛ばせないから傷付いたのは僕も同じ。
それだけの価値ある相手だった。
まさかと相手の驚愕する様子が、僕を高揚させる。
死ぬかもしれないって差し迫った感じが堪らない。
けれど、負傷した状態での対応力は向こうが上だった。
傷を厭わず、ズタズタになった僕の右手へ倒れ込んだ。しかも、そのまま勢いを殺さず起き上がる。体勢を変える動作と反撃を同時に行われた。脇腹から血が吹き出しているのに、構う気配もない。
痛みに怯んだ分、僕は起き上がるのが遅れた。
そのせいで逃走を許してしまった。おまけに、まんまとナイフは腰から消えていた。
本当に凄い!
危機的判断、その胆力、心から称賛する。
応急手当の後、是非とも決着を付けたいと彼を追ったけれど、既に別の誰かに撃たれて死んでいた。
任務遂行の為に必要な事をしただけだから、文句を言う筋合いはない。僕の楽しみより殲滅を優先するのも当然だった。
まだ抵抗を続けたらしく、反撃で負傷した同僚が苛立ち紛れに過剰の銃弾を撃ち込み、死体は酷く損壊していた。これに腹を立てて同僚へ苦言を呈すくらいなら、初めからこんな作戦に参加していない。
金か、女か、快楽か、目的に差はあっても人道から外れた命令を良しとした。善悪など論じる身の上にない。
それでも、呆気ない幕切れを残念に思った。
最後を除けば実に心躍る体験だったけれど、この男が原因で僕は次のウル村襲撃へ参加できなくなる。
ナイフを失くした事で、ガノーア子爵から呼び出しを受けたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。




