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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
王位決着編

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オーレリアと新兵

 まっすぐ伸びてくるレイピアを躱す。

 ラバースーツ魔法で思考速度を跳ね上げた状態で、更に意識を集中させていないと、とても反応できる速さではなかった。

 勿論、この一撃で油断はできない。


 外される事を知っていたみたいに距離を詰めたオーレリアの膝が、私を追撃する。この距離を保っていると、私は何もさせてもらえない。

 両脚へ循環させる魔力を急騰させて、彼女の膝と同じ速さで後方へ飛んだ。同時に、魔力塊をばら撒く事を忘れない。前へ飛ばす余裕は無いけど、牽制くらいはしておかないと、すぐに追いつかれてしまう。


 まあ、すっかり読まれているから、戸惑う事なくレイピアで弾かれてしまうよね。気休めくらいにはなったと思いたい。


 それでも、魔力を収束させるだけの時間は稼げた。

 私はミニ箒ウィッチをオーレリアめがけて振り下ろす。距離は関係ない。箒の切っ先には魔力を固めて伸ばしてある。無属性魔法の初歩、魔弾を長く形成したまま武器として扱う。剣って程洗練されてないから、魔法の棒かな。


 長さも自在で、重さのない箒の切っ先は恐ろしく早い。おまけに不可視で軌道は追えない筈なのに、全て知っているみたいに見切られてしまう。


 これ、肉眼じゃなくて、風魔法の索敵を応用して周辺の空間ごと把握されてるんだよね。理屈では分かっていても、こうも鮮やかに実践されてしまうと手に負えない。


 ついでに面白くないから、意地になって魔力棍を振り回してしまう。

 距離は保ったままだからオーレリアの方が不利なのに、私の優勢はハンデくらいにしか働いてくれないみたい。

 できるなら少しずつ距離を開けたいと思っても、下がった分だけ追われてしまった。つまり、それだけオーレリアには余裕があるって事だよね。


 こうして剣と箒を交えるようになって、私も技術を磨けた気はしているけれど、彼女の研鑽にはまるで追い付けない。速さだけでは彼女の技を超えられない。


 でも私は騎士ではなく術師なので、虚を突く事を選択する。


 オーレリアが魔力棍を払おうとレイピアを合わせた瞬間、術式を空間固定化に切り替えた。


「―――!」


 接触したオーレリアの剣先ごとその一点に縫い付ける。

 当然、私のウィッチも動かせなくなるので、続けざまにリュクスを抜く。


 ただし、その行動はオーレリアの想定を外れていなかった。

 箒に魔力を通わせるより早く、オーレリアの風刃魔法(ウインドカッター)が私の右手を弾いた。


 オーレリアが射出魔法を使った覚えがほとんどない事、おまけにモーションも最小限で初動に気付けなかった事もあり、不防備に受けて、箒を取り落としてしまった。

 間抜けにもほどがある。


 予備のナイフを構えて、オーレリアが私を襲う。


 しかも、直線に飛ぶのではなく、空中を蹴って軌道を変えながら高速で迫る。


「……参った」


 私は、ナイフを突きつけられる前に降参を宣言した。


 残念ながら空中を蹴りながら接近されると、私は目で追えない。軌道の変更を予測しきれず、どうしても見失ってしまう。

 こうなると間違いなく、私が次の魔法を構築する前に切っ先が届く。


「あそこで風刃魔法(ウインドカッター)は読めなかったよ」

「レティに距離を取られたまま魔法を使われると、一方的に蹂躙されますからね。得意ではありませんけど射出魔法も練習してるんですよ」


 ちょっと試してみましたってくらいのノリに聞こえるけれど、彼女の場合、相当鍛え込んでいるよね。そうでないと、私が気付けないくらいスムーズに魔法を展開なんてできない。モヤモヤさんの動きを察知した時には、既に魔法を受けていた程だもの。


「私も手札を増やさないとかな。最近、一度詰められた距離を引き剥がせなくなってきたよ」

「箒で殴りかかってきたと思ったら別の魔法に変わって、十分驚きましたけどね。何をしてくるのか分からないところは、今でも十分怖いですよ?」

「すぐに切り替えて、終始冷静だったオーレリアに言われても……」


 ダンジョン化の一件以来、時間が許すならこうしてオーレリアと実戦形式の訓練を重ねている。備えておかないと何が起こるか分からないって思い知ったからね。

 戦争は帝国側の想定不足もあって一方的に運べたけれど、墳炎龍討伐とか、捕捉される前に臨界魔法を準備できたからであって、正面から立ち向かってどうにかできたとは思っていない。


 ジローシア様が亡くなって派閥関係も揺れているし、できる事はしておきたいところだよね。

 勿論、オーレリアは嬉々として付き合ってくれるし。


「―――」

「―――」

「―――」


 で、そんな様子を新兵たちがポカンと眺めるところまでが、最近の日常になっている。


 エッケンシュタインの騎士学校は収賄の温床になって使い物にならなかった為、彼等の育成はオーレリアに任せている。彼女もレオーネ従士隊の候補者を連れてきているので丁度いい。


 現状、2領の治安維持は、南ノースマークに詰めていた騎士と冒険者が担っている。兵士の育成は急務ではあるものの、即席で育つ訳もないから段階を踏んでほしいと思う。

 オーレリア曰く、私とオーレリアの訓練は彼等の刺激になるんだとか。

 魔導士って、魔法特化ってイメージを持たれがちだからね。実情は過去の16人全てゴリゴリの戦闘系なのに、何故か魔法だけ使う印象が先行していたりする。


 もっとも、今日はオーレリアとの鍛錬に来ただけじゃない。


「移動はコントレイルでいいんだよね?」

「ええ、従士隊では飛行列車の活用を前提とするつもりですから、運転も含めて鍛えるつもりです」

「騎士や兵士も同じ予定だから、そのあたりは任せるよ。分布は頭に入っているよね?」

「勿論。大量に狩って来るのですから、効率よく進めないといけませんし」


 狩り、と聞いて新兵達に緊張が走る。

 彼等はこれから、オーレリアの引率でトレントの捕獲に向かう。訓練だけ積ませる余裕は今の領地に無いから、冒険者の真似事もこなしてもらわないといけない。


「大丈夫ですよ。辺境の兵士は常に魔物からの防衛を想定しなくてはいけません。きっと、これも経験になります。訓練を理由に都市開発の労働を免除されているんですから、建材の調達くらいは任せましょう」

「討伐なら冒険者に依頼するところだけど、今回は捕獲だからね。大勢を動員しなきゃだから助かるよ。気を付けてね」


 工事が進んで地下部分のインフラも整いつつあるので、そろそろ次の段階へ進む必要が出てきた。

 土台ができたなら建物が欲しい。建物を作るなら新しい建材を使いたい。


 そんな訳で、大量のトレントが必要になった。

 まずは、建材の加工場の建設かな。


「これから出来上がる街を支える、大切な仕事です。皆さんの活躍が、これからの生活の場を作ると思ってください。良質の素材を揃えてくれると、期待しています」

「「「「はいっ!」」」」


 彼等にとって初任務になるので激励に来たところ、時間に余裕があるからとオーレリアに誘われた次第なんだよね。

 そのせいか、とても溌剌とした声が返る。


「相変わらず、レティは領民に慕われていますね。声を掛けてもらった事で、士気も上がったみたいです」


 なんてオーレリアは言うけれど……。

 これ、恐れられてるだけじゃないかな? エッケンシュタイン邸崩壊に、不正徴税官の強襲、その上でオーレリアと訓練してると、恐怖ばかりが先行しているような気がするよ。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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