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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
戦場の魔導士編

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エッケンシュタイン子爵はもう少し後

 戦争で活躍したのは私だけじゃない。

 帝国に深く切り込んだのはオーレリアも同じだし、私に従ってくれた師団長さん達も功績を上げたと数えられる。


「カロネイア伯、17年前に続いて素晴らしい指揮だったと聞いている。新しい部隊運用を見出したと言うではないか。是非、その活躍に報わせてくれ」


 戦争の勝利は、つまり軍を率いるカロネイア将軍の勝利だから、当然陛下も褒め称えた。

 けれど、当の戦征伯は反応が悪い。


「評価いただいた事、ありがたく。けれどカロネイアは王国の剣、軍に携わる者として当然の働きをしたに過ぎません。私共は陛下のそのお言葉だけで十分です。過度の労いはご容赦ください。短い戦争でしたが、活躍した者は多くおります。どうか、褒賞は彼等に」

「無論だ。今回、勝利に貢献した者全てに余は応えると決めている。だが、それは其方を評価しない事とは別問題だ。リデュース国境戦において、ただの1人の死者も出さなかった指揮官を称えねば、この後に控えている者達も恐縮してしまおう。今日のところは、大人しく受け入れてくれ」

「……痛み入ります」


 私がそうであるように、今日の報償については前もって打診されている。なのにこの問答って事は、報酬を支払いたい陛下と、程々で済ませたい将軍の間で、折り合わなかったんだね。

 結局、陛下は公の場で押し付ける事にしたらしい。


 渋々と言った様子で将軍は進み出て、陛下から褒賞を受け取った。


 今回の場合の褒賞って言うのは、出世か、お金かになる。私みたいに出世(叙爵)報酬(土地)両方ってのはかなり特別な例だよね。

 で、カロネイア伯爵は賞金を押し付けられた訳だけど、あれにはオーレリアの分も含んである。


 彼女には伯爵家へとは別に、騎士爵の授与を打診したらしい。でもオーレリアはそれを断ってしまった。

 勿論、それでいいのかと、私は彼女に確認した。


「レティは新しい街作りに勤しむのでしょう? 私だけ王都に残すつもりですか? 仲間外れにしないでください」


 そしたら逆に叱られたよ。


 伯爵家を出るオーレリアは騎士か軍人を目指していると思っていたけど、彼女の中で生き方が変わりつつあるみたい。

 褒賞として彼女が受け取った分で、オーレリアの直属部隊を設立するのだとか。


 ちなみに、騎士爵位を持つのは国に仕える騎士で、領主に仕官した場合は爵位を持たない。明確な身分を得る訳じゃないけど、立場的には一般市民より優遇されるのが領地所属の騎士だね。

 今回、オーレリアは爵位で国に縛られるのを嫌ったみたい。


「―――国境戦で健闘したのはカロネイア伯だけではなかったな。パリメーゼの特殊な地形を帝国が利用して呪詛魔石を潜ませようとする中、工作員を焙り出した者がいたと聞いている」

「エッケンシュタイン元伯爵家令嬢エレオノーラ、前へ」


 戦争貢献の称賛は続く。

 ディーデリック陛下の意向に応え、宰相がノーラを呼んだ。


「はい!」


 大勢の貴族の視線に晒されても、ノーラが怯む様子は見られなかった。

 エッケンシュタインの名へ嫌悪感を持つ者も多い中、ノーラが堂々と進み出る。あんまり威風を感じさせるものだから、軽んじようとした意図を外されて、彼女の迫力に呑まれた貴族も見えた。


 と言うか、濃藍のドレスに身を包んだノーラは私より1つ下には見えない。私よりずっと丈がある分、所作1つ1つがどうしても目を引くよね。


「前伯爵の悪行は、決して許されるものではない。しかし、未成年で、碌に権限を持たない身でありながら領民の為に尽力し、国に仕える姿勢を見せたエレオノーラ嬢を、一律に悪逆の一族として扱うべきではないと、余は判断した。パリメーゼ国境戦においても、怒涛の戦果を挙げている。その功に応え、エレオノーラ嬢にエッケンシュタイン領の継承を許可する」

「寛大な沙汰、感謝いたします。望外なる陛下の恩情に応え、領地を立て直す事をお約束いたします。わたくしの償いを、どうかお見届けください」


 ノーラが深く頭を下げる。

 ただの立礼だった私と違って、右手を胸に当て、謝罪の意味を籠めるのが分かった。


「其方の奮励に期待している。そして見事に復興が成ったなら、改めて其方を子爵として迎えよう」

「ありがとうございます。父の贖罪は決して叶うものではございませんが、わたくしが賜った挽回の機会、必ず成就いたしましょう」


 今度は謝罪礼でなく、普通の最敬礼をして、ノーラは列へ戻った。


 ノーラが子爵になるのはほぼ確定しているのだけれど、未成年で学修が不十分な事、戦争で功績を上げても内政面の実績は足りない事、元伯爵の娘が領地を継ぐのに否定的な貴族を黙らせる必要がある事など、色々な状況を鑑みて正式な叙爵は成人後に決まった。

 その方が、庇護者として私がエッケンシュタイン領の復興・開発に関われるからって事情もある。


 エッケンシュタインの名前を不快に思う貴族にも、感情が落ち着くまでの時間は必要だろうし、荒廃した領地を建て直せば見る目も変わると思う。悪いのは間違いなく元伯爵なので、この件に関しては批判的な意見も拒絶するべきではないと思っている。


 もっとも、この謁見の間で不満を漏らす者はいない。


 ノーラの件は、アドラクシア殿下達は勿論、ディーデリック陛下や王国議会も承認した事だから、表立って批判すると国の方針へ異議を唱えると受け取られかねない。大勢の貴族、国の重鎮、国王陛下の前でそれをする人はいないよね。


 そして、ここで陛下が連座にしないと表明した事で、元伯爵とノーラは無関係だと確定した。エッケンシュタインの名前はまだ印象が悪いけど、悪名として後世に残る事もなくなった。

 後は、ノーラや私達が挽回していくだけだね。


 こうして、エレオノーラ・エッケンシュタイン子爵の誕生は内定した。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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