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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
戦場の魔導士編

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帝国蹂躙

 虚属性を取り入れた作戦は、上手く嵌まった。

 知らない技術に抵抗なんてできない。武器も鎧も失った帝国兵達は次々と投降していた。液状化魔道具の効果時間は短い。でもそのせいで、再び固形化した金属が拘束具として働く。地面に埋まった足も動かない。


 武装解除どころか、完全な無防備を晒して、悉く争う意思を失くしていた。

 無抵抗で王国側の指示に従うか、無惨に逃げ惑うか。どちらにしても、王国側は銃を抜く必要性すら感じなかったみたい。


 今後、樹脂製の武具が主流になるかもだけど、彼等には関係のない話だよね。


『スカーレット様、指揮官が正式に降伏を宣言しました。わたくし達は予定通り、このまま砦を占拠しますわ』


 ノーラから作戦終了の連絡が来る。

 私はそれを、国境砦に待機させていたウェルキンで受けた。


 虚属性魔法、魔道具の披露、そして極めて短時間で王国軍を勝利に導いた。殿下達が望んでいたノーラの功績としては十分だと思う。


 ついでに虚属性の有用性も証明できたから、その適性を持つ人の捜索も容易になるだろうね。


 それじゃ、次は私達の番かな。


 初戦は圧倒したけれど、この一報が帝都にもたらされるのは何日も先になる。当然、懲りずに次の手を打って来るだろうから、それに付き合っていたのでは戦争が終わらない。

 戦争が長引いたとしても負けるつもりはないにしても、悠長に待つ気は無いんだよね。


 だから私達は打って出る。

 私は同じくミーティアに乗り込んだオーレリアに連絡を入れた。


『オーレリア、私達もノーラの勝利に続くよ!』

『ええ! 帝国を掻き乱しましょう!』


 帝国の主要軍事拠点については、飛行ボードによる調査が終わっている。私達はそこを強襲すればいい。


『ミーティア、ウェルキン、前進! 王国を侵略する気が二度と起きないよう、帝国軍を徹底的に叩き潰します!』

「「「応!!」」」


 両列車に乗る侵攻部隊の威勢が返る。

 長年の因縁に終止符を打てると、兵士の意気込みも最高潮だった。初戦を圧倒できた為、後に続くのだと意気込んでいる。


 同時に、景色が高速で流れてゆく。

 飛行列車が帝国へ踏み込み、速度を上げる。


 オーレリア達はミーティアで南へ、私はウェルキンで北へ向かう。南には海軍基地が点在し、北から西にかけては魔物の侵攻を防ぐ為の部隊が展開する。私達は二手に分かれて、順に軍事拠点を陥落させていくと決めてあった。




 帝国軍基地に辿り着くと、私はすぐに風化魔道具の投下を指示した。

 地属性、風属性を組み合わせた魔道具で、石材や金属を塵に変える。その作用で壁や天井を引き剥がし、露わになった武器庫や帝国兵へ、液状化の魔道具を投げつけた。

 何の備えも、心構えもないままに帝国軍は基地を半壊され、反撃の為の武器のほとんども奪われる。何が起きたかも分からず呆然とする様子が上から丸見えだった。


 オーレリア達はこの時点で降下、全軍で取り囲んで降伏を迫る手筈なんだけど、私達の部隊はもうひと手間加わる。

 もっと楽に制圧できるよう、臨界魔法を撃ちこんで心を折っておく。


 何度か試したので、エッケンシュタイン邸の時みたいに力加減を間違えたりしない。探知魔法で人を巻き込まないように確認しつつ、なるべく大穴を穿つ。

 これは親切でもあるんだよ?

 大きな魔力痕があれば魔物達は近寄って来ない。私達に続いて魔物に襲われる危険は排除できる。基地が損壊したせいで、それらに守られていた町や村が魔物に脅かされる事は避けた。


 そして轟音を合図に、追加の飛行ボード部隊が発進する。

 音が収まるのと、彼等が銃を構えて基地を包囲するのを待って、私は勧告を行えばいい。


『私はヴァンデル王国侯爵令嬢、スカーレット・ノースマークです。こちらには基地を消滅させる用意があります。降伏するか、基地と共に消えるか、選んでください』


 実際のところ、これ以上臨界魔法を使う予定はない。勧告を受け入れないなら、飛行ボード部隊が突入する事になっている。

 基地としての機能を失い、混乱から立ち直ってもいない拠点を制圧するのは訳ないからね。


 しばらく―――と言うか、かなり待ってから基地の応答があった。

 いきなりが過ぎて、責任者が正常な判断を取り戻すのに時間がかかるのが、この作戦の欠点かもね。


『……降伏すれば、身の安全は保障してもらえるのだろうか?』


 拡声魔法ではあるのだけれど、弱々しい声が返ってきた。


『ええ。抵抗の意思がないならと条件は付きますが、追加の攻撃を行わない事は約束しましょう』

『……分かった。そちらの指示に従う』


 ま、これで反抗心が残っていたら凄いよね。

 彼等からすると、悪夢以外の何物でもない。臨界魔法だけなら一か八かの特攻もあったかもだけど、その為の武器も失っている。ウェルキンまで届きそうな高射砲は狙って潰した。

 余程想像力が欠如していない限り、抗戦指示はできないだろうし、踏み切ったとしても一方的な殲滅が待つ。


 投降の意思を確認した後、飛行ボード部隊は基地の無力化に移った。

 私の部隊は、主にこの無力化作業の為に連れてきている。

 運良く残った武器を回収、場合によっては液状化させて牙を抜いてゆく。更に、車両類も全て潰し、他の基地への伝達手段を削いでおいた。徒歩の移動はできても、救援を要請する頃には帝都が陥落しているだろうしね。同じ理由で兵の拘束も避けた。


『レティ、こちらは最初の軍港を攻略しました』


 ひと息ついたところで、オーレリアからの連絡が入った。最初の襲撃はほとんど同時だったらしい。


『こっちも一カ所終わったところ。特に抵抗もなかったよ』

『……レティの臨界魔法を見て、まだ逆らおうとはなかなか思わないでしょうね。もっとも、こちらも抵抗らしい抵抗はありませんでした。それより、開戦より早く港を発った軍艦はないそうです』

『それは良かった。国境のノーラ、王都にいるウォズにも伝えておくね』

『お願いします。電撃作戦が功を奏しましたね』


 軍艦を無傷で降伏させるのは難しい。あんまりやり過ぎると艦が沈むし、使える魔道具が限定されてしまう。空から一方的に攻撃できるのは変わらないけど、できるなら海戦は避けたかった。


『こちらは今日中にもう一カ所攻略できそうです』

『こっちも、かな。お互い頑張ろうね』

『はい!』


 通信を終えて、次への進軍を指示しようとしたところで、へたり込んだフォン・リヒター上級兵に気が付いた。涙目且つ必死の形相で首を振っていた。


「……! ……!」


 その様子が、助けてと懇願しているみたいでイラッとする。

 私の魔法との乖離を思い知ったのかもだけど、臨界魔法を貴方に向けるとか言った覚えはないんだから、過剰に怯えるのは止めてもらえないかな?




 同様の手順でこの日は2カ所、翌日は5カ所の拠点を潰した。

 電撃作戦を選んだのは、対策を取らせない為でもある。前線が早々に決着した情報も、国内の基地が機能停止した情報も、まだ届いていない。ほぼ同じ作業の繰り返しだった。


 更に3日目、私達は帝都を素通りして北西へ向かった。

 しばらくウェルキンを走らせると、モヤモヤさん濃度がみるみる上がってゆく。その原因はこの奥の魔物にある。


 大陸の歴史上、極稀に自ら魔素を放出し、外皮から魔物を生み、周辺の環境をも作り替える異常個体が生まれた事がある。

 過去に王国を蹂躙した魔黒竜(ダークネスドラゴン)、進行形で帝国の北西部を火山地帯に変える墳炎龍がそれに当たる。生きたダンジョン、なんて呼ばれる事もある。


 私の目的は、その墳炎龍だった。


 他国に生息する魔物の討伐は国際法で禁止されている。特に高位魔物の素材は財産になるし、中には周辺の環境を支える個体もいる。過去には他国の竜を刺激した事で、周辺に被害をもたらした例も理由として挙げられる。


 ただし、手に負えないからと魔王級(害獣)指定した場合はその限りじゃない。


 帝国に踏み込む機会なんてこの先ある筈もないし、ついでに素材を得ておきたかった。

 そして何より、帝国が討伐を諦めた魔物を倒せば、ワーフェル山の消滅を知らない人にも私の存在を知らしめる事ができる。絶対に敵対してはいけないのだと知ってもらいたい。


 私は視界を覆いそうな大量のモヤモヤさんを掻き集め、虚属性の誘引力で収束させる。ただし、今度は臨界魔法と違って属性を水に固定する。

 素材まで消し飛ばしたら勿体ないし、絶望的な痕跡を帝国に残すと決めた。


 GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――!!!


 最初は周囲を飛び回る蠅くらいのつもりでウェルキンを無視していた墳炎龍が、収束する魔力量に気付いて咆哮を上げる。

 私を明確な敵として認識したようだけど、既に魔力の収縮は終わっている。もう遅い。


「冷気開放、急速冷却! 極点再現魔法―――!!!」


 極大の冷気が周辺を包む。

 墳炎龍だけでなく、火山地帯と化した山岳ごと呑み込む。


 私の体調が万全である点、墳炎龍が生み出したモヤモヤさんで満ちていた点、2つの事由が重なった魔力の収縮はワーフェル山の比じゃない。あらゆるエネルギーを奪い去り、空気の振動すら許さない。墳炎龍の断末魔ごと凍らせる。


 とても大陸南部とは思えない、全てが凍り付いた静寂だけがそこに残った。全ての生命を否定する。地中奥深くまで凍結したから、深部は0℃をも下回る。

 うっかり触れると、表面の体温を奪われて重度の凍傷になる。当分、溶ける事はないと思う。


「これだけ目立つ爪痕を残せば、きっと王国を敵に回そうなんて考えないよね」


 ウェルキンから見渡すと、かなり酷い光景が広がっていた。新緑の山岳地帯の中に、氷河にしか見えない空間がそびえ立つからね。

 ここにマグマが溢れていた事を知っている帝国人からすると、尚更恐ろしい状景だろうね。


 さて、改めて帝都シャルルへ降伏を迫りに行こうか。

 そろそろオーレリアも着いてる頃だと思うし。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
下手に触ると凍傷することになった竜、どうやって誰が、素材回収するんですか?
後手に回らなかった場合って、初めてじゃない? その結果がこちらです♪
[一言] アブソリュートゼロ
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