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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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閑話 帝国の目論見

今回は、三人称視点で帝国編となります。

 クーロン帝国、帝都シャルル。


 堅固たる防壁に囲まれ、都市の拡大と共に増築を繰り返し、現在では八重に及ぶ。周辺の魔物から民を守り抜いてきた実績があり、帝都の堅牢さを物語る。

 守る事に特化し、何重もの防護付与を施した外壁は大地竜(アースドラゴン)の襲来すら退けた。


 その最奥に聳えるのが皇鎧城。

 石壁より更に強固な鋼壁を構えた絶対防御を誇るシャルルの象徴である。


 主である33代皇帝ヘンリーは、間諜からの報告を心待ちにしていた。


 5年前、帝国では画期的な発明に成功した。疑似的にではあるが、ダンジョンを作り出す魔道具である。

 これには帝国の首脳、全員が沸いた。

 魔物を戦略兵器として使い、敵国を蹂躙できるのである。湧き出る魔物が屍鬼(グール)と言うのも良い。放置すれば感染によって加速度的に増殖する性質を持つ。相手の国はその発生を無視できない。帝国軍はその隙を突けばいい。


 他の使い方も考えられる。

 他国で屍鬼(グール)災害を発生させ、支援を建前にして軍を進めても良い。実効支配から領土の拡大が望める。


 皇弟、アウグストは更に有効な活用方法を提案した。


 蒙昧な融和派に取り込まれた第6子、イーノックと共に工作員を送り込む。そして王国側を唆して国境付近でダンジョン化災害を引き起こさせる。それによって王国が深刻な被害を受ければよし。侵攻を阻むものがなくなる。

 帝国領へ屍鬼(グール)が流れてくるのなら、王国からの侵略を主張できる。上手く運ばなかったとしても、実効支配を得る方針へ切り替えればいい。


 ダンジョン化魔道具の入念な検証の後、作戦は決行された。

 工作員として名乗り出た皇弟の部下、ニンフと言う男は呪詛魔術の使用に適性を持つ。皇弟アウグストの側近である事実すら隠し、イーノック皇子に裏の目的を悟らせる事無く工作活動を可能とした。多少作戦が難航するなら、呪詛による暗示を使って有利に運ぶ事もできる。

 ヘンリーは成功を確信して潜入を命じた。


 そして、最後の連絡があったのが10日前。

 愚かな貴族を言い包めてダンジョン化を可能にするだけの呪詛で魔石を満たし、王国軍の一部勢力の教唆に成功したそうだ。更に都合の良い事に、ある侯爵家の令嬢を屍鬼(グール)の氾濫に巻き込めると言う。


 その令嬢については、幼いながらに画期的な発明を続けている要注意人物だという情報があった。

 もっとも、こちらはイーノック皇子からの報告なので、帝国側は話半分程度にしか聞いていない。どこの世界に新発明を次々生み出す小娘がいるものかと嗤ったし、融和派に気触れた皇子の報告など信用していなかった。それでも、王国の軍事力に影響を与えるかもしれない侯爵令嬢を亡き者にできるなら、お誂え向きの状況と言えた。


 それにしても、遠距離連絡用の魔道具を使えないのがもどかしい。


 皇帝ヘンリーの苛々は日に日に募っていた。

 魔道具の核となるエルダートレントの魔石は、三大強国とアイオン聖国を繋ぐ分しか存在しない。100年以上前に国家間の連絡の為にと分け合ったものだが、本来の目的で使われた事はほとんどない。17年前の宣戦布告にすら使わなかった。

 国境より遥か先の王都とはやり取りができるのに、国境からは車両で陸路を駆けるしかないというのが、ヘンリーは気に入らない。待つ時間が惜しい。


「少し落ち着け、兄上。気が逸るのは分かるが、王国への侵略ばかりが皇帝の仕事ではないだろう?」


 アウグストに窘められて、ヘンリーの意識が浮上する。

 そう言えば会議中だったのだと思い出す。


「すまん。……しかし、食物生産量はまた低下、西部では放棄した村が今年に入って3つ目、難民の受け入れについても考えねばならんか。頭の痛い内容ばかりだな」

「西の魔素濃度上昇が収まる気配はない。間伐部隊の損耗率も増加を続けている。生活領域を見直すべきではないか?」

「前回から10年も経っていないだろう。それに、王都側へ人口を集中させたところで、農地が減るなら食料自給率は下がる一方だ。それに、領地が減ると不満を持つ貴族も多い」

「魔素濃度が作物の発育に影響を与えるという調査結果もある。生産量の低下が続いている原因でもあるのだから、このまま西を放置したところで状況は好転しないぞ? こんな時に、皇帝が貴族の顔色を窺ってどうする」

「……分かった。検討会を設立しよう」


 帝国では皇帝の長男が自動的に皇太子と決まる為、年功序列で皇帝になったヘンリーは、昔から優秀だったアウグストに頭が上がらない。同時に、責任を負う事なく好き勝手に意見するアウグストに苛立ちも感じていた。


 そもそも帝位に就いて以来、持ち上がる議題は解決策の無いものばかりだ。魔素濃度が上がって魔物が活性化しているのだから、生活圏を維持する事すら難しい。


 皇帝ヘンリーはとっくに帝国の立て直しを見切っていた。


 西の魔物問題が深刻なら、居住地を東へ移せばいい。

 魔物被害に悩まされる事なく安穏としている王国など蹴散らせばいいのだ。そうすれば問題のほとんどが解決する。


 そして、この点についてはアウグストと考えが一致している。

 だから工作員を派遣した。

 成功が目前だと思うと、対処しようのない西部居住問題を議論する事自体が無駄に思えてくる。


 また彼の思考が内側へ閉じこもりかけた時、緊急の伝令が会議室へ駈け込んで来た。


「報告します! 東部国境より、モレキュラー将軍が急ぎの伝達事項を携えて来られました」


「「おお、来たか!」」


 ヘンリーとアウグストの声が重なる。

 待ち望んでいたのは2人共同じなのだ。


 しかし、ヘンリーは同時に不審も感じた。

 これから王国を攻めようかという状況で、どうして東部軍の責任者が直接報告に現れたのか。上手い事由が思い付かず、もやもやする。


 ヘンリー達は会議を中断してモレキュラー将軍を迎え入れた。戦争が始まるなら大臣達も他人事ではいられない。

 西部問題など後でいい。難民の受け入れ先がないなら、東へ従軍してしまえばいいと、ヘンリーは安易に放り投げた。


「結論から申し上げれば、作戦は失敗いたしました」

「「何!?」」


 会議室に入ってきたモレキュラー将軍は、青い顔のまま頭を下げた。


 信じられない。

 ニンフの報告が事実だったのなら、失敗する要素など考えられなかった。まさか、虚偽でも混ざっていたのだろうか。


「どういう事だ? 土壇場になって唆した軍人の裏切りにでも遭ったのか? ダンジョン化が想定通り発動しない何かがあったとでもいうのか?」


 詰め寄るアウグストの言葉は、ヘンリーの問いたい疑問でもあった。


「い、いいえ。ダンジョン化は、間違いなく実行されました」

「ならば、何故失敗などと言う結果になる? 無限に湧き出る屍鬼(グール)に対して、王国軍が処理しきったとでも?」

「……そう言って良い、かと」


 馬鹿な。


「あ、いえ。その程度の可愛らしい表現では足りないのです」


 ヘンリーはモレキュラー将軍が何を言っているのか、まるで理解できなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
対処できない怪物が6匹(魔物、人含む)以上出てきて、何匹(人間側)か残っただけの話だよ。www
[気になる点] 仮に成功したとして、帝国は拡大し続けるダンジョンがある領土をどう処理するつもりでしょうか。下手するとゾンビードラゴンを無限に生み出すダンジョンを? まあ、被害が大きいだけで、できないこ…
[良い点] さあ、愉悦の時間だ。 安穏としていた王国から生まれた脅威の新技術を見よ! そしてお前達が仕掛けた結果、戦略破壊兵器に進化した小娘の力を知るがよい! いくぞ帝国。(胃痛対策になるか頭痛対策に…
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