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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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叙爵

 王都に戻った私は、早速ジローシア様に呼び出された。


 当然、報告の為に王族へ面会を申し込むつもりではあったけど、手続きを取る前に招待状が届くとか、どれだけ手薬煉引いていたんだろうね。

 私は一息つく暇もなく王城へ向かった。


 あ、勿論、お土産(けしょうひん)は忘れずに持って、ね。

 しばらく実験の為に離れていたので、前に納品した分は尽きているに違いない。招待状に文言はなかったとはいえ、ここは空気を読んでおかないと、後々面倒な事になる。


「まあ! 戻ったばかりで忙しいでしょうに、気を使ってもらって助かるわ」


 なんて迎えられたけど、額面通りに受け取ったりしない。

 新作の化粧品はジローシア様の人脈強化の道具だし、私との繋がりを最大限アピールする材料でもあるからね。


「けれど、今回の活躍については聞いています。その貢献を思えば、本当に無理はしてくれなくて良かったのですよ?」

「いえ、援軍の準備を整える為に、ジローシア様にも骨を折ってもらったと聞いています。それがなければもっと苦戦を強いられたでしょう。ジローシア様の英断のおかげで助かったのですから、お礼を考えるのは当然です」

「あら? それこそ気にする事ではないでしょうに。私は国難に対処しただけですし、多少無茶を通した件についても、対価は約束してもらっていますから」


 ん?

 対価?


「アドラクシア様と一緒に、飛行列車で各地を視察に回れるよう手配してくれるのでしょう?」


 は!?


 ごめん、それ、聞いていない。

 ウォズ、とんでもなく大事な報告が抜けている。


 でも、伝達の不備を喧伝する訳にはいかない―――

 そう思って咄嗟に平静を装った私を褒めてあげたい。ちょっと感情を殺し過ぎて能面みたいな顔になったかもだけど。


 え?


 王族専用車両を前倒しで作るの?

 軍用の試作3号も控えているんだから、キャシーが死ぬよ? 安全面、内装を総見直しだよ?

 各種仕様が本採用になってからの納品を考えていたのに、色々すっ飛ばすの? 倒れるの、キャシーだけで済むかな?


「王子と、ら……観光旅行ですか?」

「嫌ね、スカーレットさん。アドラクシア様にそんな余裕がある訳がないでしょう? あくまでも視察、仕事ですよ」


 あ、うん。


 ジローシア様があんまり嬉しそうだから、恋人との遠出を楽しみにする少女みたいに思えて、らぶらぶ旅行ですかって危うくド直球を投げかけたよ。


「飛行列車の有用性を王国中に広める為でもあります。アドラクシア様と私とイローナ、3人が短期間で各所を回れば、誰もがその姿を目にする事でしょう。貴方の活躍は今更かもしれませんけれど、先日お会いした可愛らしい開発者さんについても、宣伝させてもらいます」


 ついでであっても、ちゃっかり国益へ繋げるあたり、流石ジローシア様だなって思う。加えて、確実に利便性を知らしめたいウォズの思惑も透けて見える。

 でも、急な歓待を強いられる各地の領主は悲鳴を上げるんじゃないかな?


「お心遣い、ありがとうございます。彼女はとても優秀な技術者ですから」

「ええ。お話しできたのは少しでしたけど、それは私にも伝わりました。優秀な人材は国の宝ですもの、多くの人に知ってもらいたいと思っています。……できれば結婚相手を紹介したかったのですけれど、残念ながら断られてしまったわ」


 へー。


 あれだけ緊張して見えたのに、先約がある(グリットさんがいる)って断ったんだね。

 結婚を薦められるって事は派閥に取り込まれる事でもあるから簡単に頷いちゃいけないんだけど、ジローシア様と直接向き合うとそれも難しい。

 キャシーってば、やっぱり芯が強いよね。


「……前置きが長くなってしまいましたね。そろそろ本題に移ってもいいかしら?」

「はい。ダンジョン化についての詳細な報告でしょうか?」


 狭域化については中断になったので報告するだけの材料がない。今後の計画を詰めてからになる。

 後はエッケンシュタイン元伯爵の捕縛についてかもしれないけど、屋敷を消し飛ばした以外は大した事をしていない。キリト隊長とノーラ、関係者に同行しただけだから、当事者達からの報告があると思う。


「いいえ、それについてはマーシャリィさん達から報告を受けましたから、後に回させてもらうわ。それより、貴方自身について確認しなくてはいけない事があるの」


 そう答えたジローシア様は、侍従に合図して別の客人を招き入れた。

 やって来た人物は、私とも面識があった。


「お久しぶりです、アルドール先生……っと、今は導師でしたね」

「こちらこそ、ご無沙汰しておりました。スカーレット様には先生と呼んでもらった方が親しみがありますから、気にしなくて構いませんよ」

「……失礼しました」


 私が研究室を開設した時にお世話になり、今は魔塔を束ねる立場にあるアーキル・アルドール導師。

 今でも魔塔図書館への立ち入りに融通を利かせてもらったり、素材選択で困った際には書面で相談するなど、繋がりは続いている。お互い忙しくなったから、直接会う機会は随分減ったけどね。


「それよりスカーレット様、子爵への叙任、おめでとうございます」


 はい!?


 それも聞いてない。

 今日は初耳の事が多くない?


 思わず、ジローシア様の方へ首だけを回してしまう。この際、お行儀が悪いとか言っていられない。


 それ、事実ですか?


「もしかして、まだ伝えておりませんでしたか? も、申し訳ございません」


 貴族の委任権は王族だけにある。

 推薦は自由だし、議会の承認は要るけど、決定については王族が握っている。そうでないと王の権威が揺らぐからね。


 で、その情報も無闇に漏らしていいものじゃない。公表されるまでは機密扱いになる。過去には暗殺事案に発展した事もあり、扱いは慎重にならざるを得ない。


 アルドール先生は恐縮して頭を下げた。


「……最後の確認をしてから打診するつもりでしたが、段取りが変わってしまいましたね。既に陛下の意向は決まっていますから、順番が違ってしまっただけです。この部屋から情報が洩れる事はありませんので、導師、今回は不問とします」

「ご寛恕、感謝いたします―――」

「それより、スカーレットさんに改めて問います。受けて、もらえますか?」


 ―――

 ―――

 ―――……。


 ええっと、アルドール先生の責任が追及される事がなくて良かった、とか他所事を考えてしまうくらいには頭が回っていない。


 私も貴族として生きてきたから、功績を重ねて行けばこういう日も来るとは思っていた。目指していたと言っても良い。


 でも早過ぎない?

 私、まだ13歳だよ?


 いつか―――が今だとは思っていなかった。


「申し訳ありません、子爵、と言いませんでした? 普通、準男爵や男爵から順を追っていくものでは?」


 建国時や政変があった場合とは訳が違う。王族の権威を高める為に縁者で周囲を固めなきゃいけないような場合じゃない。

 私はノースマークの子だけど、継ぐ予定がないから侯爵家の一員である事は考慮されない筈だよね?


「貴女の功績を正当に数えた結果ですよ。正式な叙任は狭域化実験をやり直した後になります。そこへ今回の活躍が入りましたから、男爵位では足りないと陛下は判断されました」

「え、でも、未成年の就任は例がありませんよね?」

「確かにそうですけれど、このまま放っておくと更に功績を積み上げる可能性が高いでしょう? 伯爵、上級貴族からの叙爵は反発も大きいと思っています。それなら、未成年である事を吞み込んだ方が軋轢は少ないと考えました。今更、貴女を未成年扱いする貴族も少ないでしょう」


 しれっと子供らしくないと言われた気もするけど、それどころじゃないよね。


 貴族は立場を重んじる。

 同じ爵位にあっても、序列が存在する。特に高位の貴族になるほど、その順番を脅かそうとする存在を敵視する。問題事は当然増える。


 いきなり侯爵になったエッケンシュタイン博士って前例はあるけど、あれは魔導変換炉の影響が大き過ぎた結果だからね。産業革命と呼べるほどの功績は、まだ私にはない。

 それに、時代が違う。

 300年前とは交通事情が一変したから貴族同士の声も届きやすくなった。昔は噂程度でしか聞こえなかった反論も、今では直接当事者の耳に入る。当然の流れとして、それに対しての対策に追われてしまう。

 飛行列車の実用化が軌道に乗るなら尚更だと思う。伝達速度の向上は、称賛と一緒に批判も運ぶ。


 既に聖女なんて重荷を背負ってる私だから、揉め事に巻き込まれないよう気を使ってくれた結果なんだろうね。


 それでもいきなり子爵なんだけど。


「私も、貴女なら爵位によって増える負担も受け止められると思って推しました。この話、受けてもらえますか?」


 爵位の授与は強制にはならない。

 いい例がビーゲール商会(ウォズんち)だよね。国外との取引で支障が出るからと断って、代わりに王国の経済を支え続けると約束した。


 だからジローシア様も私の意思を尊重してくれている。

 今の段階ならまだ非公式だから、命令の拒否、不敬罪には当たらない。


 でも、私は答えを1つしか持たなかった。


「その栄誉、謹んでお受けします。この国の貴族に名を連ねる者として、末永く王家に仕えましょう」


 私はその場に跪くと右手を胸に、叙任の礼を取る。

 公式の場でなくとも誠意を示す。


 私は貴族として生きると決めている。

 侯爵家の縁者であっても、子爵家当主となっても、それだけは決してぶれない。突然の話に戸惑ったけど、道が敷かれたならそこを進む。


 私は、ノースマーク子爵としての生き方を受け入れた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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