寄り道しよう
主人公視点に戻ります。
ついでに時間軸も少し戻りました。前話の続きまで辿り着けませんでした。
そろそろ王都に帰ろうという段階になって、エッケンシュタイン伯爵を捕縛に行きたいとノーラが言い出した。
ワーフェル山のダンジョン化のせいで、周辺の環境が大きく変わってしまった。その為、実験は継続できない。だから、私達がここに残っても意味がない。一番爪痕を残したのは私だけども。
ネフ副塔長をはじめとした魔塔からの参加者と、彼等に改めて雇われた冒険者の一部は、ワーフェル山消滅後の経過観察をしてから帰るらしい。飛行ボードを習得した兵士2個小隊も、屍鬼の残存確認の為に残ると言う。
でも、私達は王都に帰るしかなかった。実験箇所の選定からやり直さないといけない。
中央防衛軍をいつまでもここに置いておけないし、私も責任者として報告が待っている。
で、いざ帰ろうってところでノーラの提案なのだけど、話はそう簡単じゃない。
貴族の逮捕権は騎士だけが持つ。
勿論、国王の承認を得た上で、だけどね。
ずっと考えていたんだと思う。
ダンジョン化を可能とするだけの呪詛人員の収集に、エッケンシュタイン伯爵の関与があったとノーラに知らせて以来、彼女がその件に触れる事はなかった。告知した時も辛そうに顔を顰めただけで、何の言葉も返さなかったんだけど、内に溜め込んではいたみたい。
どうしたものかと困っていたら、ライリーナ様が助け舟をくれた。
「いいんじゃない? ノーラちゃんの気持ちも分かるし、私達の出発の時点で爵位の剥奪は決定していたわ。そうでなくても騎士ならキリト隊長達がいるでしょう。レティちゃん達はそのお手伝いって事でどう?」
「通告を待たずに剥奪が確定したんですか?」
「ええ、それだけ陛下のお怒りも大きかったって事ね。建国当時の、まだ国内が安定していなかった頃まで遡らないと、そんな例はないわよ」
貴族はいくつも特権を持つ。
法を犯しても逮捕に煩雑な手続きが要るのもそうだし、身分を取り上げるには国の最高議会による可決と当人の受け入れが必要になる。実際は強制的に頷かせるんだけど。
例外は国王陛下の強権だけど、かなり昔に数件しか例がない。安易に強権を発動すると議会の反発を招く。貴族の不安も煽るし、長期的に見ると王族の権威が揺らぐ。でも今回は、そんな事態にはならないって判断されたみたい。
ま、多数の領民を、領主が呪詛の犠牲にしたって事件自体、例がないんだけどね。
「キリトさんとしてはどう?」
「正式な命令は受けていませんが、代行する事は可能です。帝国と繋がっているなら国外逃亡の可能性があると言えますし、緊急確保の為に近隣で別任務中だった部隊が動いた事は、過去にもありました」
距離的には遠くにいる訳だけど、現在、ミーティア、ウェルキンの2両は国内で最高の機動力を誇る。逃亡防止は弁明になるよね。
「過去の例を持ち出すなら、領地軍を率いて立て籠もられた事もあるでしょう? 軍に協力を求める理由にも十分足りるわよね」
「確かに、既にエッケンシュタイン伯爵は王国史でも有数の大罪人ですからね」
「さっすがレティちゃん、話が分かるわぁ~! ……何より、万が一にも塵貴族がこのまま逃げ果せるかもだなんて、考えるだけでも我慢できないわよね―――」
ライリーナ様はいつもと同じ調子なのに、最後の微笑みにゾクリとした。大地竜に負けないくらいの圧がある。
オーレリアから怖い人だとは聞いていたけど、その通りだと改めて思い知ったよ。
「じゃ、ノーラの言う通りエッケンシュタインに寄り道して行こうか」
「! ありがとうございます、スカーレット様」
「とは言え、王国軍は帰さないといけないし、行くのはウェルキンだけだね。でもって王家への事情説明もいるから、キャシーとマーシャはミーティアに乗って」
「ちょ!? それって、私達が王城へ説明に行くって事ですか?」
「うん。私達がエッケンシュタインに行くって事と、そのせいでダンジョン化についての報告が少し遅れるって話しておいて」
「無理無理、無理! 無理ですって! あたし、男爵令嬢ですよ!?」
第2妃イローナ様との親戚繋がりで、アドラクシア殿下、ジローシア様とも面識のあるマーシャは動じた様子もないけれど、キャシーは途端に狼狽え始めた。
王族と直接向き合うなんて男爵でも一生に一度ないくらいだから、その一子となると尚更だとは思う。
「大丈夫、大丈夫。ダンジョン化に備える為とは言え、ウォズでも面会できたくらいだから、私の名前を出せばちゃんと会ってくれるよ」
「お金とレティ様の為なら、苦行を、むしろ喜びと思っているようなウォズと一緒にしないでください! と言うか、会ってもらえるかどうかの心配はしていません!」
「……何か失礼な事を言われた気がします」
言いたい事は分からない訳じゃないけど、飛行列車の開発者となったキャシーは偉い人との面識も作っておいた方が良いと思うんだよね。
いい機会だから使わせてもらう。
私はキャシーの苦情を聞き流した。
オーレリアは自分も通った道とばかりに明後日の方を向いていた。
彼女には留守番をお願いしてたって事もあるし、荒事になる可能性もゼロじゃないなら、このまま付き合ってもらおうかな。
「うぅ……、レティ様が取り合ってくれない……」
「まあ、まあ、いい加減、いい加減覚悟を決めなさい。ジローシア様は、元子爵令嬢のイローナ様も受け入れられた方よ。身分で態度を変える方ではないわ」
「……じゃあ、イローナ様で済ませたいです」
「元は、元は子爵令嬢であっても、今は王族ですからね。失礼が許される訳ではないわよ?」
「なら、いーやーでーすー!!」
「我儘、我儘言わない。1年、礼儀作法についても頑張ってきたのだから、実習とでも考えなさい」
「実習の相手が王族だなんて、あんまりじゃないですか!? もしがあったらお父さんに怒られます!」
「大丈夫、大丈夫よ。侯爵令嬢のところへ問答無用で飛び込むほど怖い事なんてないから!」
「思い出した!? あたし、なんて恐ろしい事を……!」
何だかんだとミーティアへ引き摺られて行った。
うん、放っとこう。
今回の件で、エッケンシュタイン伯爵家の断絶は確定した。
領民を呪詛完成の為に売っただなんて、許される筈がない。許されてはいけない。
ノーラがその事に何を思うのか、処刑が確実になった父親に対して何を言うのか。私は彼女の保護を決めた者として見届けないといけない。
ノーラがどんな答えを出すのか、最後まで寄り添おうと思った。
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