破天荒令嬢 2人目
早く上がったので、そのままアップしてみました。
当たり屋みたいな貴族の車とぶつかって、取り囲まれていたら、颯爽と現れた人が守ってくれました。待ってました、テンプレ展開!
助けられたヒロインとヒーローの出会い!王道だよね。
奇襲で圧倒しても、油断せず警戒を続けてくれている。
いつでもレイピアを抜ける体勢をとっているけれど、子爵達を薙ぎ倒した状況から、おそらく主武装は魔法。ノースマーク騎士団の練度を知っている私から見ても、かなりレベルが高い。
飾り気のない服から素性の推測は難しく、制服じゃないので憲兵である可能性は低い。通りかかった非番の騎士かとも思ったけれど、恰好が平民により過ぎている。それに、私服時は武装の携帯もしない筈、使い慣れた感じの刺突剣が不自然に映る。
ショート丈のジャケットにボーダー柄のシャツ、動きやすさを重視したらしいレギンスのような―――
「あれ?……女の子?」
スレンダーではあるけれど、その体つきは確かに女性らしい丸みを帯びている。改めて見れば、1つに束ねられた白銀の長い髪も、後ろ姿からでも覗く白い素肌も、凛々しく端正な容貌も、勇ましさとは対照的な小さな体躯も、全てが女性の特徴を示している。
ヒーロー登場じゃなかったよ。どうして間違えた、私。
「事故を起こしておいて、相手側を大人数で囲んで恫喝を行う有様は目に余ります!憲兵の到着を待たず暴力を振るうなら、私が介入させていただきます!」
わー、カッコいい!
姫騎士みたいだよ。正義感溢れる姫騎士!これはこれでアリだね。
「黙れ、小娘!貴様もその無礼な車の仲間か!?貴族に逆らった者は死刑だ、せいぜい後悔しながら死ぬといい!!」
ガーベイジ子爵がひっくり返ったまま寝言を叫ぶ。
いつからそんな法律ができたのよ。今回の件には当てはまらないけど、不敬罪は最大でも懲役刑。悪法の捏造は自分の領地だけでしてほしい。
ちなみに不敬罪の適用は、平民が王族、貴族に無礼を働いた場合と、貴族が王族に無礼を働いた場合のみ。貴族同士の場合は、上位貴族への侮辱罪が適用される。量刑は家同士の話し合いで決めるから、力関係差が大きいと、いくらでも責任を追及できるよ。覚悟してね。
ところで私、女の子に守られながら車に引き籠っていていいのかな?
そんな疑問は一瞬で消えた。
踏み込みと同時にレイピアを抜くと、一呼吸の間に騎士へ肉薄する。踏み出しからの加速が一瞬過ぎて、騎士はとても反応できない。次の一瞬で3人が倒れた。
刺突は利き手と足への2回ずつ。最短の手順で無力化された。
仲間を倒された騎士は危機感を持ったが、立て直す時間は与えてくれない。後ずさる一歩より早く距離を詰められて、また1人が倒された。
わー、強い!
それに綺麗だね。
強化魔法が得意な私でもあんな風に動ける気がしない。お嬢様の嗜みなんて領域に無い鍛錬と、武術の習得による動きの最適化、状況を一瞬で見切れる勘の鋭さがあって漸く辿り着ける領域だろう。
普通の貴族令嬢を目指す私には、全く縁のない技能だけど、憧れるね。
「……な、何をしている、お前たち!それでもガーベイジの騎士かっ!銃だ、どれほど強かろうが銃を防げる人間などおるまい。銃でハチの巣にしてしまえ!」
喚くガーベイジ子爵。
残念だけど、あれだけ速く動ける相手に銃の射線は合わせられないよ。前世ならともかく、ここには魔法がある世界だからね。
騎士達もそれを分かっているらしく、子爵の命令に従う様子はない。ほとんど戦意を失ってるしね。貴族の紋章は知らなくても、相手との絶望的な力量差が分かるくらいには訓練を積んでいるらしい。
いや、1人だけ抵抗心を失っていない騎士がいた!
彼女の登場時、子爵と一緒に弾き飛ばされた1人。打ち所が悪かったのか、子爵と彼だけが立ち上がっていなかった。
倒れたままいたので状況を把握してなくて、子爵の命令に反応して火魔法を発動している。その顔は禍々しく歪んで女性を睨む。無様に転がされた事で、ヘイトを溜めていたみたい。
ここに至るまで誰一人として剣と銃以外を使う者がいなかったので、術者タイプが混じっている可能性を見落としていた。
しかも、子爵が喚いたせいで、女性の警戒は立っている騎士の銃に向いてしまって、術者に気付いてもいない。
「クソがっ、死ねっ!!」
放たれる火球。死角からの魔法に、遅れて気付いた女性は動けない。
「―――!させない!」
魔法が女性を襲う直前、私は小さな箒を火球に向けた。
それで終わり。
最悪のタイミングで放たれた火球は、露と消えた。
「え―――?」
呆然とする騎士と、無力化に動いた女性。判断の如何が勝敗を決めた。剣の柄を後頭部に思い切り落とされて、騎士の意識は刈り取られた。
「終わりましたね」
全てを見届けたフランに私も頷く。
危ないところもあったけれど、こちらは被害を出さずに済んだ。
最後に火球を消したのは、私の魔法。
お掃除魔法を強化した私は、他者の魔法を分解してモヤモヤさんを取り込めるようになった。モヤモヤさんが消えれば、魔法は残らない。
無効化してる訳じゃないから、幻想を〇したりしないよ。
ちなみに、魔法の発動に使ったのは、最初に貰った箒。掃除道具は一杯貰ったし、きちんと大事にして王都まで全部持ってきているけれど、最初の3つが一番慣れてて使いやすいので、“アーリー”、“ウィッチ”、“リュクス”と名前を付けて、いつも携帯している。小さくて持ち歩きやすいしね。
術者は一般的に魔法の補助として杖を装備するらしい。でも私は、箒の方がイメージしやすい。3つの箒の使い勝手も違うんだよ。
子爵側の騎士が戦意喪失して、安全が確保できたみたいなので、私も外に出る。
「初めまして、オーレリア・カロネイア様。助けていただきまして、ありがとうございます」
精一杯優雅に見えるようにお礼を言うと、目を丸くして私を見つめていた。
「私を御存知だったのですか?」
「勿論、貴女のご活躍は、戦征伯と呼ばれるお父上のご勇名と共に、ノースマーク領まで届いておりました」
引き籠り令嬢でも、情報収集くらいするよ。
15年前の戦争の英雄、アルケイオス・カロネイア伯爵。
劣勢であった戦況をその知力でもってひっくり返し、兵士を鼓舞しながら前線で戦い勝利をもたらした功績から、戦征伯とも呼ばれている。現在も将軍として辣腕を振るい続けていると聞いた。陞爵して空いた侯爵位に充てる話も上がっているとか。
前大戦に出兵して、その活躍を目の当たりにした騎士がウチにもいたから、その英雄譚は飽きるほど聞かされたよ。
で、その娘が父の下で武芸を学んで、最近では盗賊団の討伐や、犯罪組織の壊滅に協力しているというのも有名な話。戦いの際には風の様に舞うとも聞いていたから、風魔法を使うのだろうと予想していた。
容姿については何も知らなかったけど、こんな強い女性、他に何人もいる訳ないよ。次々強キャラが出てくる少年漫画の世界じゃないんだからね。
歳は確か、私と同じ。12歳で軍や騎士団に交じって活躍してるんだから、トンデモお嬢様だよね。嫌いじゃないけど。
さて、ガーベイジ子爵なんて放っておいて、オーレリアさんと親交を深めたいところだけれど、漸く憲兵がやって来た。そうなると、事情の説明をしなきゃだね。
私達も、ガーベイジ子爵側も、事故を起こした当人達が誰も通報していないので、憲兵隊は十分に早い到着と言える。もしかすると、オーレリアさんの介入で大きくなった騒ぎに気付いてくれたのかも。
「憲兵隊のフルカスです。貴族同士の衝突が起きていると通報を受けて参上したのですが……事情を聞かせいただけますか?」
憲兵隊の隊長さんは、状況を確認すると、困惑しながらも負傷者の救助と騎士の武装解除を指示して、この場の最上位であろう私へ状況説明を求めてきた。治安維持に協力してるのか、オーレリアさんとは顔見知りみたいだけど、ここで彼女に話を持って行かないあたり、この隊長さんは貴族を知ってる。そのくらいでないと、王都の憲兵隊長は務まらないんだろうね。
憲兵さん達が戸惑うのも無理はない。
貴族所有の車同士が衝突してて、なのに片方は無傷。子爵側の騎士は武装していて、半分は地面に転がり、私達が抵抗した様子がない代わりにオーレリア様がいる。
なかなかカオスな状況だよね。
「職務の遂行、ご苦労様です。御覧の通り、事故を起こしてしまって困っておりましたので、助かりました。私はスカーレット―――家名の名乗りは必要ですか?」
私が自己紹介すると、この場の全員の視線が水と聖杯の紋章に集中した。
オーレリアさんも、隊長さんも、必要ないと首を振ってくれたけど、1人だけひっくり返った声で悲鳴を上げた。
「こ、侯爵家!?」
今頃気付いたの?遅いよ。
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