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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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檄を飛ばす

『皆さん、見えますか? 東から来たもう1つの飛行列車が見えますか? 山の陰になっている人もいるでしょうから、改めて伝達します。援軍が到着しました! 待望の援軍が、王都より到達しました。カロネイア将軍の指揮の下、多くの装備を整えて、中央防衛軍が駆け付けてくれました!』


 辺境方面軍でも、地方守護師団でもなく、中央防衛軍が来た意味は大きい。

 ワーフェル山の混乱に乗じて帝国の侵攻があり得る状況で、国防に穴を開ける事無く援軍を派遣できた。本来、万一に備えて王都を守る筈の中央軍を遊撃に使えるって前例になる。有事にはあらゆる基地から人手を回せるのだと示してくれた。


『2日です。異常な状況に見舞われて、長く辛い抗戦時間でした。しかし、たった2日で王都からの助けが届くのです。たったそれだけで、態勢を立て直せるのです』


 私にとっても長い2日間だったけれど、それだけで済むと分かっていれば精神的な負担はもっと少なかったと思う。


『17年前、ここリデュース辺境伯領では帝国の奇襲を受け、2週間に渡る抵抗の末、領地の一部放棄を余儀なくされました。もしかすると、その体験を忘れられない方もこの中にいるかもしれません。援軍を待つ事しかできない状況では士気が上がらず、精神的に追い込まれた事でしょう。しかし! そんな事態は2度とあり得ないのだと、今回の中央防衛軍が証明してくれました! たった2日で国の反対側からの支援が間に合うのです!』


 試作3号の活用をいち早く決めたカロネイア将軍は、輸送の革命を見据えていたに違いない。

 有用性を知らしめる役は、今回の事件のせいでミーティアに回って来たけどね。


『ワーフェル山が丸ごとダンジョンへと変異し、次々と屍鬼(グール)が湧き出す様子を見て、帝国はなんて恐ろしい技術を生み出したのだろうと慄きました。今後帝国と事を構えるのなら、こういった事態に対応しなければならないのかと頭を悩ませもしました。ですが! こうして援軍を迎えて思うのです。何を恐れる必要があるのでしょう? 何故、帝国などを恐れなければならないのでしょう? 私達は耐えてみせたではありませんか!』


 いきなり逃げようとした人もいたし、何だかんだと不安要素は多かった。その上状況はどんどん悪化して、なのに諦める人はいなかった。いざ事が起こってみると及び腰だったオブ……なんちゃらの面々すら、心折れる事はなかった。


『1個大隊でしか対処に当たれない状況で、知恵を絞り、戦力を分散させ、けれど互いに支え合い、襲い来る屍鬼(グール)の群れを捌いてみせました。人里へ、国境へ向かう魔の手を阻み切りました。援軍の到着まで、帝国の悪意からこの国を守り切ったのです!』


 オブ……なんちゃら派閥の主張も、一部は間違っていない。

 戦争から時間が経って、王国軍は実戦から遠ざかっていた。強国を目指す一方で、末端はその意義を見失いつつあった。軍の人員も若い世代が増えた事もあって、戦争を知る上層部との間で齟齬が生まれ始めていた。


 カロネイア将軍が目を光らせていなければ、このまま放っておいたなら、もしかすると組織の腐敗が進んだかもしれない。

 第1王子が戦争を肯定する事もあって、軍へはかなりの予算が付けられている。軍の名義で申請した見積もりは、余程の事がなければ通る。戦争の記憶が浅いから審査が甘い場合も多いし、忖度を受ける事もあると聞く。

 私腹を肥やそうとする人員がいなかった事は驚異的だけど、そんな状況が続く訳がない。


 でも今回の件で意識改革が進むと思う。

 帝国の脅威は去っていないと分かったし、事件を乗り越えた人達は国の為に戦ったって自信ができる。


 亜竜の群れに突っ込ませて兵士を教育するって私の計画は、帝国の介入のせいで形を変えて結果を得た訳だね。


『勿論、ダンジョン化したワーフェル山についてはまだ解決していません。しかし! 援軍が到着し、戦力が十分に整った今、恐れるものなどありません。既に私達は、襲い来る亜竜種に対処し、ダーハック山から現れた竜すら抑えてみせました。数の多いだけの屍鬼(グール)で、今更私達は阻めません!』


 大地竜(アースドラゴン)を押し留めたのは私達と冒険者だけど、狭域化実験参加者の成果には違いないよね。私達が竜に注力できたのも、屍鬼(グール)を任せられたって支援のおかげでもある訳だし。


『今更、事を収めるだけでは足りません。今回の件を画策し、王国が多大な被害を被るだろうとほくそ笑むクーロン帝国に、この程度でヴァンデル王国は折れないと、見せつけてやりましょう!』


 私もかなり頭に来てるからね。


『その為に必要なのは、完全勝利です! 屍鬼(グール)の群れをただ凌ぐのではなく、ワーフェル山を攻略しましょう! 正面からダンジョンへ挑み、核を探します! その核を手に入れたなら、私は全てを解析し、対策を打ち立て、こんなもので王国が揺らぐ事はないのだと証明してみせます! 屍鬼(グール)なんかで王国を蹂躙する事はできないのだと、愚かな帝国に教えてあげましょう!』


 応、と。


 ワーフェル山の方から返事が響いた気がした。


 言いたい事は言った。

 多分、これで士気も上がると思う。


 ミーティアに合流して状況の擦り合わせや部隊の振り分けなんかも考えないとだけど、私がしなきゃいけない事はとりあえず終えたと思う。

 後は王国軍(せんもんか)に任せればいい。


 何より、私が今一番しないといけないのは、休む事だよね。

 拡声魔法は掌握済みの空間を使ったから負担は少ないけれど、頭が痛い事には違いない。オーレリア達が来てくれて振り切ったテンションで無理しただけだからね。


 私はオーレリアを巻き込みつつ、ソファへ倒れ込む。

 感極まって散々抱き合った後だけど、もう少し久しぶりに会った友達を堪能したい。さっきはゆっくり浸る余裕なかったし。


「あー、オーレリアの太もも、冷たくて気持ちいい―――」

「あの? レティ……?」

「久しぶりのオーレリア、安心するよ」


 オーレリアは戸惑うけど、寝転がるなら枕が欲しいよね。程よく柔らかくて都合がいい。

 きっと、ただ寝るだけより回復効果も違うよね。


「レティ? 久しぶりなのはウォズもですよね?」

「あっちにもくっつけって事? でも、色々やわやわなオーレリアと違ってあっちは硬いし」


 見て楽しむ分にはいいけど、触って癒されるには向いていない。

 男の子は観賞用、触り心地を楽しむのは女の子じゃないとね。


「……理由が羞恥や嗜みじゃないところがレティですよね」

「そんな事で今更呆れないでよ。羞恥も嗜みも、人前で考慮するものだし。身内しかいないこの場所で考えても仕方ないよね」

「分かりました。分かった事にしてあげます。貴女の線引きがおかしいのは諦めます。……レティも頑張ったでしょうから、今だけですよ?」


 うん。

 ミーティアに着くまでの短い間だけだから。

 少しだけ甘えさせてね。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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