希望の名は流星
「ミーちゃん! レティ様、あれ、ミーちゃんですよ!」
よく知る車体の登場に、開発者が騒ぐ。
あー、うん。
驚いた。
この様子からすると、見間違いって事はないみたい。興奮のあまりにキャシーがバンバン背中を叩くから、疲労のあまりに気絶して夢を見てるって線もないのかな。結構痛い。
空中列車、試作初号ミーティア。
ウェルキンの雛型になった車体がそこにあった。
相変わらずキャシーは愛称で呼ぶけども。
しかも、ワーフェル山の陰から姿を現したと思ったら、竜屍鬼の方へ先頭車両の切っ先を向けた。同時にスピードが更に上がる。
「レティ様、あれって……」
「うん。見たまんま、想像した通りのものだと思うよ?」
流線形そのままのウェルキンと違って、ミーティアには見慣れない外装が取り付けてあった。
突貫魔法衝角。
将来的に軍事転用も考えるなら、武装も欲しいってオーレリアの発案で設計した飛行列車用の外部装着魔道具。クランプルドレイクを参考にした力場を発生させて、突撃時の衝撃を前方に収束させると同時に、反作用を後ろへ逃がす。
武装を追加するんじゃなくて、飛行列車自体を武器に変えたのは主に私とオーレリアの悪乗りだったけど。
「もー! 私のミーちゃんを、あんなにゴテゴテに仕立てたの、誰ですか!」
こうして憤慨している通り、開発者のキャシーにはすこぶる不評なんだよね。
だから設計しただけで組み立てていない筈だった。戦車に転用できないかって案はあったけど、優先順位的に放置していた。
でも、実際にミーティアは高度を下げつつ狙いを定めると、竜屍鬼へと突っ込んだ。
「あの思い切りの良さ、クラリックさんの運転の気がします……」
「うん、同意。思いっきり魔力を籠めるところが想像できるよ」
突貫衝角の不採用、すっごい残念そうだったからね。
きっとノリノリで操縦してる。
ダメージを負ったのは竜屍鬼の方だけで、ミーティアは対象を撥ねた後も速度を落とさず駆け抜ける。設計した機構は想定通りに働いているみたい。
更に、竜を撥ねたミーティアからは武装した兵士がわらわらと降りてきた。
ミーティアは高度を下げていないけど、兵士は躊躇う事なく飛び降りている。けれどそのまま地面に叩きつけられるなんて事はなく、着地の前に落下速度が緩むのが分かった。
あれって、初期型の反重力魔道具かな? 飛行機能を排除して、ミーティアから降りる為だけに使ったのかもしれない。
待望の援軍は竜屍鬼を最優先排除対象と判断したのか、かなりの人数で対処にあたる。
特に最初に飛び出た人なんて、長棒の一振りで複数の屍鬼を薙ぎ払い、守りに回ったと思うと竜の爪を受け止めている。棒術を極めて強化魔法に特化しているとは聞いていたけど、あの人、ホントに人間かな?
て言うか、どうして私の知らない魔道具がいっぱいあるんだろうね。
オキシム大佐と交流があるから、軍の開発品についても精通してたと思うんだけど?
そもそも、データ取得用だったミーティアにアイテムボックス魔法は採用していない。
だから私は、あれが救援に来るなんて思ってなかった。
援軍は正規の移動手段になるだろうから、まだまだ先だろうと想定していた。
なのに目の前を旋回するミーティアには、5つもの後続車両が連結してある。ウェルキンより積載量が多い。
頭の中にいっぱい疑問符が浮かぶけど、とにかく私はミーティアとの合流を急ぐ事にした。
現状、足止めどころかあのまま竜を倒してしまいそうな勢いだから、拠点に戻るより情報の擦り合わせを優先する。何故か、軍で一番偉い筈の人が竜屍鬼を前に大暴れしてる訳だけど。
ウェルキンをワーフェル山へ向かわせる途中、こちらへ飛ぶ影が2つあった。
当然、情報交換は必須だからすぐに2人を迎え入れる。
「レティ! 無事ですか!?」
「遅くなって申し訳ありません! ですが、最大限の援軍を連れてきましたよ!」
「オーレリア、ウォズ……! 来てくれたんだ」
見慣れた顔が飛び込んできて、鼻の奥がツンとした。
たったこれだけで胸の奥が熱くなるくらい、緊張で自分を縛っていたみたい。私が何とかしなきゃって、常に追い込んでいたせいで気付けなかった。
助かった―――
オーレリアと抱き合って、心の底から安堵している私が居る。
限界なのは身体だけじゃなかったんだね。
「でもどうして? ミーティアの装備が充実してるのもそうだけど、いくらなんでも準備が万端過ぎない?」
私の視線の先では、竜屍鬼が光魔法の集中砲火を浴びている。魔法籠手なんだろうけれど、キャシー製の即席品とは火力が違う。
追加で量産したのは分かる。
でも、属性が呪詛ダンジョンに対して的確に一致してるのは何故?
私の知る限り、光と闇の特殊属性の基盤についてはまだ量産の予定がなかった筈だよね。だから狭域化実験の支給品に加えられなかった訳だし。
クラリックさんの初報で動いたなら、時間的に間に合わない。飛行ボード、ミーティアが最速で駆けたとしても、移動時間だけで全てが埋まる。
車内で量産するにも限界があるだろうし、それにミーティアの追加車両の製造、軍の編成の時間はどこから捻出したの?
混乱する私がおかしかったのか、オーレリア達は顔を見合わせて笑った。
「……私、何か変な事言ってる?」
「いえ、ごめんなさい。こんなふうにレティに詰め寄られるのは珍しいですから」
「それに顔色を見る限り、また無理をしたんですよね。そんなスカーレット様の助けになれたなら、頑張った甲斐もあったな、と」
「頑張って……くれたんだ」
「勿論ですよ。もっとも、主にウォズが、ですけど」
つまり、大変だったのは現地にいた私達だけじゃなかったって事かな。
「はじまりは本当に偶然でした。何かが少しでも掛け違っていたなら、事態はもっと厄介になっていたかもしれません」
そんな滑り出しから始まった話は、私の知っているいくつかを紐付けるものだった。
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