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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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生まれ出る災厄

評価を付けてくれた人が100人を越えました。

中には辛口評価もありましたが、とても励みになります。応援、ありがとうございます。

「圧縮解除、掌握領域指定、魔素開放―――!」


 私を中心に放射したモヤモヤさんは山のあらゆるものに飲み込まれ、私の感覚と魔法的な繋がりを作る。

 代わりにちょっとした疲労感と脱力が私を襲う。


「う……」

「お嬢様?」


 フランが慌てて私を支えようとしたけれど、大丈夫だと手で制す。

 身体に溜め込んでいるモヤモヤさんが抜けて軽くなるのと引き換えに、頭で処理する情報量がどっと増えた。そのせいで少し気分が悪くなっただけで、今のところは大した事じゃない。実際、飛行魔法を維持できないほどではなかった。

 意識を向ければ領域内に生えている雑草の数だって分かるけど、意図的に頭の隅に追いやれば少しの違和感で済む。ただし使い込んだ魔法じゃないので、拡張した感覚と自我の境を把握するのに少し手間取ってしまう。


 ま、何度か繰り返せば慣れると思う。


 私は一度の行使で、およそ500ヘクタールを掌握できる。

 前世で言うなら、大体東京ドーム100個分ってところかな。十分広い範囲ではあるけれど、ワーフェル山の総面積が約10000ヘクタール、その全てがダンジョン化した訳じゃないとしても十数回は掌握魔法を使わないといけない。

 今の十数倍頭が重くなる訳だから、ちょっと気が遠くなる。


 楕円で覆うように掌握範囲を形作れば魔法の回数を削減できるんだけど、残念ながらこの魔法は放射状にしかモヤモヤさんを伝播させられない。もっと使い熟せば意識的に形状を変えられるかもだけど、今回は地中もカバーしないといけないから挑戦する意味は薄いかな。


「お嬢様、ダンジョン化したワーフェル山を掌握する訳にはいかないのですか?」


 魔法の必要回数的にはあまり差はないのだけれど、それができれば同時にダンジョンの弱体化も狙えるかもしれない。

 私の負担を減らす為の提案だろうね。

 援軍が来るまではまだ遠い。

 そろそろクラリックさんの第1報が届く頃かもしれない。そこから地方守護師団を臨時で再編成するにしても、まだ1週間はかかると思う。

 掌握魔法で消耗した私が指揮を続けるのは厳しいとなると、フランが解決策を模索するのは正しい。


 けれど私はそれに頷いてあげられない。


「フラッス山のダンジョンで試したけど、掌握はできなかったよ。魔石を一瞬で呑んだのと同じで、私って器に守られていない魔力や魔素は吸収対象になるみたい。属性に関わらず吸収できるように、多少私の意識を乗せたくらいでは虚属性の吸引力には及ばないみたい」

「……そうですか。クロを縛っていた呪詛を祓ったくらいですから可能だと思ったのですが」

「私もダンジョンから魔物が生まれるのを打ち消せたから、いけると思ったんだけどね」


 だけど魔物の発生は魔法に近い現象で、虚属性は介在しないみたい。

 スライムの分裂に近いのかもね。余談だけど、あれも私が阻害できたので。

 それを繰り返すと普通より含有魔力の高いスライムが作れる。思い付きを試しただけで、今のところ活用先は思い付いていない。

 リッター先生が喜んでくれたくらいだね。進化とかしたなら面白かったのにね。

 ちなみにクロは、殊の外お気に召したようだった。高級ドックフードみたいなものかな?


「クロの場合は呪詛、虚属性の影響は強くなかったから、魔力量のごり押しで吸収量を上回れただけだと思う」


 あれは呪詛魔石を使って術師が施した、間接的な呪詛汚染だった。

 フラッス山の新発見ダンジョンも、この呪詛ダンジョンも、含有魔力がクロの時と桁外れに違う。私が一度に掌握できる範囲もダンジョン化したワーフェル山の10分の1以下だから、呪詛を祓うにはとても足りない。

 周囲の辺境にモヤモヤさんが溢れているから補給には事欠かない。それで連続使用はできているけど、出力は絶対的に届かない。


「ところでお嬢様? 私の知らない間にそんな実験をしていたのですか? ダンジョンという未知の場所で不測の事態が起こった場合、どうする気だったのでしょう?」

「あ、いや、あくまでも小規模で試しただけだから……」

「それでも閉塞した空間で行う事ではありません。しかも、周囲に知らせていないとなると、もしもの時に対応が遅れます。危機感が足りないのではありませんか?」

「う……」


 藪蛇だった。

 初めてのダンジョンに浮かれた私に目を光らせるフランに隠し事をしていたのは悪かったと思うけど、頭が重い今の説教は許してほしい。




 そうこう話しながら2回目、3回目と魔法行使を続ける度に、広がった感覚が圧し掛かってくる。

 5回目を過ぎたあたりから頭痛が酷くなった。

 10回が近付く頃には頭が張り裂けそうな激痛と吐き気が襲ってきた。


「ぐ、く……」


 滲む脂汗を拭き取りながら、フランが回復薬を差し出してくれる。

 特級なのに気休めくらいの効果しかなくても、今はこれに縋るしかない。


 今は無茶するべき時だと分かっているからか、フランの制止もなかった。


 10キロ先に13体の屍鬼(グール)の群れが山を下っていくとか、山の反対側で遊撃部隊がトロルタイプと交戦中だとか、屍鬼(グール)を避けた冒険者の一部が後退を余儀なくされているとか、余計な情報が次々浮かんで集中できない。

 感覚が研ぎ澄まされ過ぎている。

 時々は亜竜型や大きなスケルトン型を見つけて、フランに近隣を飛ぶ偵察隊へ伝言を頼む事もあるので全くの無駄ではないけども。


 魔力的には余裕があっても、精神面は飛行魔法が維持できる状態じゃない。仕方がないので、移動はフランに運んで貰う。


 幸いなのは、感覚が拡張して思考が一時的に追いついていないだけなので、時間を置いて頭を今の状態に慣らせば少しは落ち着いてくれる事かな。


 夜明け前から始めたのに、既に太陽は真上を過ぎている。それだけ間隔が空いてきたって事だね。


「報告します! 屍鬼(グール)の移動に変化がありました。ワーフェル山を中腹部あたりまで下りた屍鬼(グール)の多くが何かを探すようにその場で暴れるようになりました。原因は不明ですが、そのおかげで防衛壁へ向かう個体は減っています」


 そんなところへ伝令の飛行ボード隊員がやって来た。

 報告はキリト隊長に集めるよう指示してあるので、彼が判断に迷って寄越したんだと思う。ダンジョンの性質や、私が何をしているのかを把握してなければ、確かに意味不明かもしれない。


「その状況はしばらく続くと予想します。掃討に余裕ができたなら、休憩の時間を増やしてください。応援の到着まで、まだ先は長いですよ」

「はいっ!」


 伝令は疑問を挟まず戻っていった。

 私が責任者だから従ったのか、何も聞かずに信用してもらえるくらいにはなったのか、後者ならいいなと思う。


「良かった。無理はしたけど、その分くらいの効果はあったみたい」

「どういう事でしょう? お嬢様の掌握魔法の成果だとは思うのですが……」

「他の魔物ならこう上手くは運ばなかっただろうけど、屍鬼(グール)は周辺把握を貧弱な魔力探知に頼っているからね。掌握した領域には私の魔力が満ちているから、何処へ向かえばいいか分からないんだよ」


 ノーラによると、モヤモヤさんを染み込ませた物体は私と同じ色になると言う。

 屍鬼(グール)にとっては、四方八方を敵性物体に囲まれた状態なんだと思う。それがおかしいと感じる知性もないから暴れる他ない、と。


「偶然で領域を抜ける個体は出るだろうけど、その数はぐっと減らせると思う」

「一定の個所に留まるようなら、連携魔法で一掃もできますね」

「うん、これを狙った訳じゃないけど嬉しい副次効果だったよ。防衛が楽になるなら、援軍を待てる可能性も上がるだろうし」


 誘蛾灯みたいなものだろうから、探索中のグリットさん達から屍鬼(グール)の探知を逸らせる可能性もある。


 無理を押すだけの価値があると分かったなら、早く包囲を完成させたい。

 掌握範囲内に限れば私が詳細な探知もできるので、状況次第で防衛位置を見直しても良いかもしれない。

 こんな事ならもっと早く掌握魔法の使用を決断していればとも思うけど、その場合は亜竜型やスケルトン型にもっと苦しめられていただろうし、魔道具開発が滞ったかもだから考えないでおく。




 私は圧迫する頭を気力で捻じ伏せて、13回目の掌握を終えた。


 人参をぶら下げた馬みたいだとしても、希望が見えるのと追いつめられるのでは心の負担が違う。


『―――!!!』


 けれど、その希望を嘲笑うみたいに事態は暗転する。


 声も音も、何も聞こえなかった。

 けれど確かに大気が震えた。

 山の奥に怖気を感じる。


「お嬢様、今のは……?」


 フランの震える声で、掌握魔法で拡張した私の知覚範囲だから捉えた現象ではないと分かる。


 どんなに頭が痛くても、異常は急いで確認しないといけない。

 すぐにボードの高度を上げるよう指示を出した。


 心の中で警鐘が全力で鳴っている。

 掌握領域の包囲は後に回して、異常を感じた山頂方面へ確認に行った方が良いかもしれない―――そんな懸念はそこに君臨した巨体を見て吹き飛んだ。


「そんな!? ドラゴンゾンビ?」


 背筋が凍るような恐怖を感じて、悲鳴みたいな声しか上げられない。


 スケルトン型屍鬼(グール)と同じ骨格だけの存在。

 けれど古龍と呼ぶに相応しい雄大な姿が、山頂近くからこちらを睨んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いろいろ読み漁っています。すごく物語にひきこまれました。
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