凶悪化するダンジョン
状況が動いたのは明け方前の事だった。
勿論、夜をゆっくり寝て過ごした人なんていない。キャシー達は魔道具作りに集中していたし、私もたびたび大型屍鬼討伐に呼び出された。
仮眠は取ったけど、あのおかしな夢は見なかった。
誰かの死を極端に恐れる私についてヒントが得られなくて残念のような、この非常時に心が惑わされる事がなくてホッとしたような曖昧な気持ちのまま屍鬼対策に追われる。
「新種の屍鬼が出たって?」
「はい、グリットさんから伝令が届きました。ダンジョン領域の奥で新種を確認、他の屍鬼と同様に領域の外へ向かっているそうです」
何度目かの亜竜討伐を終えた私は、キャシーの報告を聞きながら皆のところへ向かう。
「特徴は?」
「見た目が明らかに違うそうです。死体が動く従来の屍鬼と違って、躰が骨のみで構成されているらしいです。交戦したサンさんによると、従来のものより確実に強かった、と」
間違いなく強化された個体って訳だ。
厄介だね。
でも冒険者に探索を依頼していて幸いだった。漸く薄暗くなり始めたところで、夜間の偵察精度は下がっていた。これがいきなり防衛壁に現れたなら、混乱はもっと大きくなったと思う。
この瞬間にも彼等に危機が迫っているのではと思うと怖いけど、彼等を救う為にもできる事をするのだと、強引に切り替えた。
「更に腐肉を持たないからか、火魔法に耐性があったそうです。これ、ダンジョンが新たに骨格幽鬼を生むようになったって事でしょうか?」
骨格幽鬼って魔物は存在する。屍鬼同様、生死のサイクルから抜け堕ちた希少な魔物として知られている。
ただしこれ、人型以外の目撃例はない。
行動原理に生前の恨みや妄執を残す事から、死者の怨念が宿って魔物化すると言われている。原理は全く不明だけども。
「最初に屍鬼化したデーキン准尉や噛まれて屍鬼になった人達ならともかく、魔物が骨格幽鬼になったって話は聞かないから、それも屍鬼の範疇なんじゃないかな?」
人工のダンジョン核が内部に魔物情報を蓄えていたとは思えない。ゼロから魔物を生みだすって事はないと思う。
亜竜にしろ、大喰らい蛇にしろ、死骸が一旦ダンジョンに取り込まれるか、領域内にいた魔物が屍鬼に噛まれたんだろうから、骨格幽鬼とは発生条件が一致しない。
「でも見た目は骨格幽鬼らしいですよ?」
「推測だけど、ワーフェル山の地中で白骨化した魔物が屍鬼化したんじゃないかな? 魔物の、特に強力な個体の骨や牙は分解されにくいって言うし」
「あ、竜の骨とか腐食しないって有名ですもんね」
だから300年を過ぎても魔導変換炉は稼働を続けている。
特別な処理をしてないのに水の中で腐食しないとか、ファンタジー素材の代表格だよね。
「屍鬼の一種だとは思うけど、便宜上、新種はスケルトン型と呼称しようか」
「前線の人にとっては屍鬼であっても骨格幽鬼であっても大した違いではありませんから、複雑な区分けは必要ありませんね」
「それにこの仮説が正しいなら、ダンジョンが成長を続けている謎が解けたかも。私達がいくら拡大を防ごうとしても、現在進行形で地中の魔素を取り込んでるんじゃないかな?」
「面倒ですね。しかも、その過程で白骨化した魔物も取り込んで再現する訳ですか」
これに対して打つ手もない。
魔導変換器はあくまでもモヤモヤさんを回収するものだから地中の魔力は汲み上げられないし、それが可能な蛇口の魔道具は数を用意してない上、適用範囲も狭い。
地上の浸食は抑えられてるようだし、回収した魔素は回復薬やポーションづくりに役立てているから、変換器の設置が全くの無駄って訳ではないけどね。
「放っておくとどんどん拡大を続けるって事じゃないですか?」
「うん。でもそれは後で考えるよ。スケルトン型の誕生が今になったって事は、地下の浸食は地上に比べて早くない。だから、スケルトン型の対策を先に進めよう。マーシャ、魔漿液の準備はできてる?」
「はい! かなりの、かなりの量を用意してあります」
対策会議用のテントに入ると同時に細かい説明を省いて指示を出したけど、弾むように返事があった。
「キャシー、射出器の準備も終わってるんだよね?」
「構造は単純ですから、魔塔の皆さんと一緒に終わらせています。実験大隊600人全員に行き渡りますよ」
犠牲者が出ているから既に600人には足りていない筈だけど、あえて600個用意したのはキャシーの優しさかもしれない。
スケルトン型が多少強力であっても、光属性が特効である事に違いはない。
けれど魔法籠手の光属性基盤は量産できない。照明の魔道具にも限りがあるし、全部解体するって訳にもいかないからね。
だから別の手段を用意した。
私は魔漿液の大型水槽に移動すると、その全てに光属性を付与する。属性付与装置も組み立て中ではあるけれど、射出器の開発を優先したから私が付与したほうが早い。
これを射出器―――水鉄砲に詰めれば即席の対屍鬼武器が出来上がる。
昨日グリットさん達を送り出した後、キャシーとマーシャは夜を徹してこの準備を進めてくれていた。
アイテムボックス魔法を応用して大容量タンクを備えたシャワータイプもあるので、飛行ボードで空から降らせる手段もある。ダンジョン核捜索部隊と偵察・伝令隊の攻撃力が劇大した。
「キャシーが、風の魔石で圧力を上げる事で20メートルを越えて飛ぶ射出器を用意してくれた。でも、銃や魔法籠手と比べるとどうしても射程は短い。もし、大型の屍鬼が頻発するようになると手に負えなくなる可能性は高いと思う」
「それは、それは発案の時点からの懸念でした。しかもスケルトン型が生まれた事で危険性は高まったとも言えますね」
「だからって、配備しない手はないんじゃないですか?」
「うん。だからウェルキンで配って回るのは2人に任せる。私はダンジョンの拡大に対処するよ」
「……何を、何をなさるつもりですか?」
わざわざ前以って告げる私に不穏を感じ取ったのか、声を押さえたマーシャが問う。
その予想は大きく外れていない。
私は奥の手を切ると決めた。
それは無茶をするって事と同義だから、私は多分、動けなくなる。
「掌握魔法でダンジョン領域を覆う。ワーフェル山の全域を私の支配下に置くよ」
「「―――!!」」
その事を踏まえて動いてほしいと伝言すると、私はフランを連れて空へ上がった。
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