今、できる事を
この未曽有の状況に対応する為、私はとにかく情報を集めた。
偵察部隊の報告を聞くのは勿論、ダンジョンから戻った烏木の牙の聞き取り、人員配置の確認、屍鬼という魔物に関する情報収集、食料の備蓄、備品の確認にまで手を付けた。
初めはオキシム中佐達にもワーフェル山のダンジョン化を信じてもらえなかったけれど、威力偵察において、倒しても倒しても屍鬼が湧き出るとの報告が入ると、受け入れざるを得なくなった。
「でも、でもレティ様、呪詛が絡んでいるのはノーラの見解から疑いようがないとして、それがダンジョンとどう結びつくのでしょう?」
今起きている現象を把握するのも大事。
だから報告をまとめるのと同時にマーシャ達と推論を詰める。
ちなみにノーラには休んでもらっている。山が丸ごと呪詛の塊になったところを目撃して、気分が優れないらしい。ノーラの魔眼頼りの局面が後で必ずあると思うから、今は無理をさせられない。
「推測する事しかできないけど、ダンジョン核が魔石、或いは魔道具基盤的なものだとしたら、呪詛魔石で代替が可能だったのかもね」
「こんな、こんな状況でなかったら、持ち運びできる可能性が増えたと喜べたかもしれませんけれど……」
「発想が普通じゃないですよ。ダンジョンが天然の魔道具だとして、それを再現する為にどれだけの魔力が要るんでしょう? しかも、呪詛魔石を使ってるなら、その魔力の分だけ誰かの犠牲が必要って事じゃないですか!?」
恐ろしい話ではあるけれど、その可能性はどうしても考えてしまう。しかもダンジョンが起動してしまっている以上、大量の犠牲者が既に出ている事は間違いない。
それを想像したのか、言葉を吐き出したキャシーは泣きそうだった。
「多分だけど、ワーフェル山から湧き出てくる魔物が屍鬼なのも、無関係じゃないと思う」
「どういう事です?」
「呪詛魔石って誰かを拷問してその絶望や憎悪で染めたものだから、死ぬ事も否応なく想像してると思う。死ぬ事を覚悟した絶望が死体と結びついたのか、死にたくないって嘆きが死体を動かす事に繋がったのか、どちらにしても普通のダンジョンと違う性質の原因になった事は間違いないと思う」
「げ」
呼び出されるのが屍鬼って事が、余計に厄介だよね。
屍鬼について少し聞き取りしただけで、急所が無くなかなか倒せない、銃の効果が薄い、魔法も火と光属性を除いて効き目が望めない、屍鬼に噛まれた場合はその者も屍鬼に堕ちるなど、嫌な性質が並んでいる。
「いっそ、山ごと燃やしてしまえたら楽なんだけどね」
「無理なんですか?」
「一時的に屍鬼を排除できるかもだけど、またすぐに湧いて出るよ」
「そう、そうでしたね、ダンジョンですものね」
屍鬼に対処しつつ、山火事への対応に追われる事になる。むしろ、こちらの首しか締まらない。
「つまり、ダンジョン核を破壊するしかないって事ですか?」
「それも、場所が分かれば、ね」
多分、ダンジョン化した領域の中心にあるとは思ってる。
でもその領域を把握できているのは私とノーラしかいないし、偵察部隊に捜索を頼んだけれど成果は上がっていない。屍鬼の中には投石で妨害してくる個体もいて、捜索が進まないらしい。
ワーフェル山は標高2000メートル、このあたりではそれほど高い方ではないけれど、ダンジョン核を簡単に探せるほど山岳面積は狭くない。
「考えてみれば、表層に露出しているとも限りませんね」
「うん。ついでに、私達は実物を見た事がないから、どんなものを探せばいいかも指示できないしね」
「うわぁ、最悪ですね」
「この後、部隊長を集めて会議があるけど、もっと最悪があると思うよ?」
「考えたく、考えたくありませんね……」
私だってそうだけど、オブ……なんちゃらさん達がきっと訳の分からない事を言い出すと思うんだよね。
「とにかく、援軍が来るまで持ちこたえる事を考えよう」
「東には人里、西には国境ですもんね。どちらに抜けられても大変な事になります。辺境方面軍からの助けは期待できないんですよね?」
「彼等は私達が押し留められなかった場合に備えないとだからね。しかも、この件が帝国の工作だとしたら、屍鬼の氾濫を陽動に侵攻を企ててるかもしれない。国境の警戒は外せないよ」
「それに、それに屍鬼が押し寄せる可能性のある村や町の避難も進めませんといけませんしね」
現時点で考えられる対策は、援軍を待って強固な防衛線を構築し、精鋭が山に入ってダンジョン核を探すしかないと思ってる。
屍鬼が向かっていいのは北のダーハック山方面くらいかな。あそこは竜の領域だから、屍鬼が侵入したなら多分殲滅してもらえるだろうから。
そうこうしている間に、報告書が書き上がった。
これを一刻も早く王都に届けないといけない。知らせが遅れると、その分援軍も遅くなる。だから、フランに急いでクラリックさんを呼んでもらった。
「これを王都までお願いします。短期間に二度も往復させるのは無茶ですが、他に頼める人がいません」
間違っても、報告書が届かない事態は許されない。だから、烏木の牙が欠けるのは痛くても、飛行ボードで往復した実績のある彼にしか頼めない。
部隊長会議後や、状況に変化があったなら、その都度使者を立てるだろうけれど、第一報は重みが違う。
「大丈夫、準備は済んでいます。気持ちの悪い屍鬼の相手を任せられるんですから、役得ってもんでしょう。最速で行って来ますよ」
軽口で応えてくれるクラリックさんが頼もしい。
風を受けながら、ほぼ休みなく飛ぶのだから楽な訳はないけれど、彼は弱気を見せなかった。
クラリックさんは受け取った報告書を厳重に仕舞うと、その足で飛び立っていった。緊急だと知って、無理を押してくれたんだと思う。
なら私も、まだまだできる事をしないとね。
今度は部隊長会議に備えて資料集めに戻った。
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