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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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情報開示

 先日の南ノースマーク行きが封印遺跡の調査だった事から、私の中で組み上げていた狭域化実験後の計画についてまで、全て話した。一部仮説を交えながらにはなったけれど、かなり刺激の強い内容だったと思う。


 でも今、私の中には喜びがある。

 私はなにも隠し事がしたくてこれらの情報を秘匿してきた訳じゃない。出来るなら早い段階で情報を共有して議論したかった。

 私は虚属性の可能性に思いを馳せてワクワクしているのに、呪詛なんて面倒なものが関わったおかげで仲間を巻き込めなかった。


 漸くこの日が訪れて、説明する私の声は意図せず弾む。


「元とは言え、エッケンシュタイン領であったところにそんな遺跡があったのですね。わたくしも実家でいろいろな資料に目を通しましたが、その遺跡に関する記述は知りませんでしたわ」


 分からなくはないかな。

 あそこはエッケンシュタイン博士にとって何も得られなかった場所だから、後世へ残そうとしたとは思えない。


 おかげで、歴代の当主に荒らされる前に私が内部を調べられたけどね。


「そんな、そんな凄い遺跡があったと言うのに、私達はその前で帰らされていたなんて……」

「レティ様だけズルいです!」


 あれ?

 話を聞いて、最初に抱いた印象がそれ?


「だって、レティ様だけで300年前の魔道具を楽しんだって事じゃないですか。魔樹を封印機構に組み込むってだけでも凄いですけど、中には検討途中の設計図なんかもあったんですよね? あたしも見たかったです!」

「いや、そのあたりは国の調査が終わったら、魔塔で閲覧できると思うし……」

「でも、まだ封印解除の目途はたっていないんですよね? いつになるか分からないじゃないですか!」

「う……」


 確かに、未だ術式が解けたって話は聞かない。

 ピレジ先生とか、生きてるのかな? 私が行った時点で生活が破綻してたから、少し心配になる。


「待って、待ってください! 国の調査を待っていたら、禁書扱いの希少本や、改めて封印される資料を、私が見られないではありませんか!?」

「いやいや、気持ちは分からないでもないけど、そういう情報を拾っていたら色々制約が増えるから。マーシャの場合は下手すると結婚に差し障るよ」


 貴族と平民では権利の幅がまるで違う。

 私なら誓約書の1枚で済んでも、貴族籍を抜けるマーシャには許されない事もある。元キッシュナー伯爵令嬢であっても、弁えないといけない事はこれからもっと増えるんだから。


「でもわたくしなら、間違いなく力になれたではありませんか。冷たい炎にしても、エッケンシュタイン博士の無念が籠った魔石にしても、今以上に情報が増えた筈ですわ。もっと頼ってください!」


 もっと頼ってと言いつつ、実物を見たいって副音声が聞こえる。

 確かに収穫祭で使われた魔石と、エッケンシュタイン博士の魔石、違いがあるのかとか気になってたけども。


「研究室に関わる事なら私の裁量で何とでもなっても、遺跡の調査は領地の仕事だったからね? 今なら皆に助力を請えても、あの時点では無理だったよ」

「だからと、だからといって追い返す事はないでしょう?」

「それはエッケンシュタインでの滞在が長くなったから仕方なくだって。もし予定通り南ノースマークに到着してたとしても、私1人別行動を取るしかなかったからね?」

「では、では聞きますけれど、もし逆の立場だった場合、レティ様は仕方ないって言えますか?」

「ぐ……!」

「例えば、例えばその遺跡がまだエッケンシュタイン領であったなら、レティ様はそこへ立ち入る為にあらゆる手段を講じたのではありませんか?」


 鋭い。

 間違いなくそうするだろうって、私も言い切れる。


「せめてわたくしだけでも特例として扱えるよう、交渉して欲しかったですわ」

「確かにノーラの魔眼は凄いけど、政治的な駆け引きが絡む場合は簡単に頼れないよ。ノースマークとエッケンシュタインの関係が微妙って事もあるしね」

「でも、収穫祭で最初に呪詛の関わりを指摘したのはわたくしですわ。スカーレット様ならその延長で協力者として捻じ込むくらい、できたのではありませんの?」

「……そんなに、悔恨の魔石を視たかったの?」

「それはそれ、これはこれですわ!」


 最近、ノーラの成長が著しい。

 幅広く色んな対象へ興味を向けるようになってきた。魔眼で多くの情報が拾える分、好奇心が満たされるのかもしれない。

 今も自己主張できるようになっているし、とても喜ばしい事だとは思う。

 なのに、どうして今はこんなに嬉しくないんだろうね。


「で、いつその遺跡へ私達を連れて行ってくれるんですか?」


 まるで決定したみたいにキャシーが言う。


 そんな話の流れだった?


「いや、だから、私の裁量では……」

「……」

「……」

「……」

「……分かったよ。虚属性研究に必要って名目で、申請はしてみる」


 無言の圧力に耐えられませんでした。

 仕方なく折れたよ。


 あれ?

 このやり取り、オーレリアやウォズと、もう一度しないといけないの?


「開示するタイミング、間違えたかな? 国中のダンジョンを回るなら、狭域化実験の後でないと時間が空かない訳だし」

「全て、全てを回るのですか?」

「現時点でそこまで必要かどうかは分からないから、とりあえず近場からかな? まずは共通点と相違点をまとめないと」


 5つしかないから、結局全部回りそうな気もするけど。


「王都に比較的近いとなると、ウォルフ領(ウチ)の北にありましたね。あと、エッケンシュタインの西ですか? 遺跡へ行くついでに寄れますよ」

「距離はありますけれど、ウェルキンがあるならすぐですわね」


 ダンジョンができるのは魔素濃度の高い場所、どうしても山を深く入ったところになるからね。


「でも、でもレティ様、呪詛とダンジョン、研究の対象がかけ離れ過ぎてはいませんか?」

「それは思わなくはないけど、他に虚属性が働く例が思い付かないからね。ダンジョンにこだわる気はないけど、だからって呪詛について掘り下げたい訳じゃないし」

「話を、話を聞く限り楽しくはなさそうですものね」


 国から睨まれるっておまけ付きだしね。


「虚属性について調べていって、そこで分かった事を呪詛の場合に当て嵌めていければって思ってる」

「スカーレット様は呪詛対策に囚われる気はないのですね?」

「うん、それより虚属性の活用先を考えた方が面白そうだし」

「異なる属性同士を引き付ける力、それを制御できるなら複数の属性を同時に扱えますわね」


 それによって、魔法の幅はぐっと広がると思う。


「ダンジョンの訳の分からない部分だって、複数の属性の作用なら解明できるかもしれないし」

「魔物の死骸が高速で分解するのは、空間魔法に何か他の属性が足されている……とかですか?」

「そうそう、そんな感じ。魔道具への利用もできると思わない?」

「一つの基盤に複数の機能を持たせる事も可能かもしれませんわね」

「ウェル君だって、闇魔法の走行、反重力の下降上昇、空間の拡張、複数の機能は持たせてますけど、装置はそれぞれ別ですもんね」


 それに、ダンジョンが魔物を生みだすなら、疑似生命、人工知能みたいなものも作れないかなって思ってる。情報処理に特化させるとか、大量の情報を記憶させて検索機能を利用するとか、研究の補助ができる何かが欲しい。




 そんな感じで、私達は夢を膨らませながらキャンプへ戻った。


 この時、虚属性とダンジョンを紐づけた事で、私はダンジョン研究の最先端に立ったと思っていた。画期的な転換である事は間違いない。研究を進めれば、きっと多くを生み出せる。


 でも私は忘れていた。


 すぐ隣、帰りに空から見た国境線の向こうには、ヴァンデル王国より遥かに多くのダンジョンを有するクーロン帝国が広がっているって事を。

 そして、私達とは別の切り口で研究が進められていた可能性を。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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