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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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虚属性の具体例

 帰ると言いながら分岐の先は一通り確認し、何だかんだとダンジョンを楽しみ尽くした最後、もうすぐ入り口が見えようかというところでフランに話しかけられた。


「お嬢様、来られる前に仰っていた仮説の検証はできたのですか?」


 その件についてはここまで一切触れなかったので、ひょっとして忘れたのではと確認してくれたかな?

 まさか、口から出まかせだったと思われてる訳じゃないと思うけど。


「うん、勿論」


 肯定した事で、皆の興味が私に集まる。

 この流れなら気になって当然だよね。


 誤魔化してもいいのだけれど、いい機会かもしれない。


 本当は狭域化実験の後、オーレリアも交えて明かすつもりだった予定の繰り上げを決めた。新しいダンジョンが見つかった時点でこうなる事は必然だった気もするし。

 正式な許可も下りているから問題はない。


「ノーラ、確認だけど、ダンジョンを構成する地面や壁の内部には複数の属性が混じり合ってる。でも露出した部分は地属性で覆われている、それで合っているよね?」

「はい。わたくしにはそう見えますわ」


 うん、それは疑っていない。

 むしろ、おかげで仮説の立証が容易だった。


 質問の内容が既知の事だったから、ノーラも他の皆も不思議そうに続く私の言葉を待っている。


 丁度その時、視界の端でモヤモヤさんが蠢いた。


 これまで通り注意を促そうとしたノーラを制して、現れた火吹き蛇(ファイアスネーク)は私の魔弾で仕留めた。この先の説明を考えると、これが火属性の魔物だった事も都合がいい。


 意図が伝わっていないのは承知の上で、解説をあえて後回しに火吹き蛇(ファイアスネーク)の死骸を観察する。訳が分からなそうなままに皆も私に倣った。


 話に付いて来れる気がしないのか、キリト隊長やグリットさん達は視線を外の警戒へ向けている。


 頭部が潰れた蛇型の魔物はボロボロと躰を崩壊させ、まるで早送りで見ているような速度で朽ちて、地面に吸収された。後には肉片も骨も魔石も魔力痕もモヤモヤさんも残らない。


「今の様子を見て、何か気付いた事はない?」

「え? 魔物を倒した場合の、ダンジョン特有の現象……ですよね?」


 他に例えようがない、と言った様子でキャシーが答える。


 今更確認するまでもなく、今日の探索中に何度も見た光景だった。最初の数回は興味深くてじっくり観察した事も覚えてる。

 だから改めての発見もない。

 皆の表情がそう言っていた。


 ダンジョンは魔物を生み、そして吸収すると言われている。


 魔物を生む機構の詳細は不明ではあるけれど、無尽蔵に造り出せるだけのエネルギーは保持していない為、死んだ魔物を再利用すると言う説が有力だね。

 ついでに外部から入り込んだ魔物や人間の死骸も吸収する。むしろその為に、上層に比較的弱い魔物を餌として配置して誘い込み、人が魅力的に感じる鉱石や素材を生むとも言われている。

 だから、ダンジョンに潜ったまま行方不明になる冒険者は多い。無機物は吸収の対象外なので、固有の装備やギルドの認識票が遺品となる。


 そう言ったダンジョンの性質は割と有名で、多くの資料に記されている。

 その為、殊更疑問視しないで、ダンジョンはそう言うものだと受け流されてきた。


「でもおかしいと思わない? 異なる属性は反発する。なのに今、火属性の魔物は土に呑まれていったよ」

「「「あ」」」


 思い込みは疑問を持つ事を阻害する。

 私が指摘して初めて、マーシャ達は理屈が合わない事に気付いた。


 なんて言いながら、私も最近までダンジョンの不思議と受け止めてきた。原理に疑問を抱きながらも、ファンタジー世界特有の現象だろうって片付けていた。何なら、その特殊性にワクワクしてた―――先日、エッケンシュタイン博士の封印遺跡を訪れるまでは。


「でも、でもダンジョン内部に複数の属性が渦巻いているのなら、その作用で引きつけられるのではありませんか?」

「だからさっき確認したよ。地面の表層には地属性が露出しているって」

「……そう、でした」


 内部の複数属性と混じるのはあり得るとしても、火属性は地属性の外面を透過できない。


「でもレティ様、分解する過程で属性の指向性が損なわれたって事じゃないんですか?」

「ごめん、それは私が否定する。物体の属性が指向性を失うって事は、含有魔力が魔素に変わるって事だけど、私の目にその様子は映らなかったよ」


 ダンジョンの外では普通の事だけどね。

 死骸が朽ちる過程で多くの含有魔力は魔素として拡散する。水や風属性なら、雨や空気に溶けて地面に染み込むって事もあるけれど、火属性はその限りじゃない。だから地下に堆積した魔力の火属性割合は極端に低い。ゼロじゃないのは死体諸共埋もれる場合や、高熱と共に地面を伝導する場合があるからだね。


「確かに、火属性を保ったままダンジョンに吸収されていましたわ」

「むう……」


 ノーラにも推論を否定されて、キャシーは困り顔になる。

 とは言え、ノーラも反論があるみたい。


「ダンジョンから生まれた魔物でしたから、もともとそういう性質を付与されていたのではありませんの?」


 なるほど、それは考えてなかった。

 面白い視点だね。


 もしノーラの考えが正しいなら、私の仮説は否定されてしまう。だからと言って、有耶無耶にしていい事じゃない。

 話を切り出した責任もあるし、検証はしないとね。


「じゃ、実験してみようか」


 ダンジョンの入り口はもうすぐそこなので、外に出て適当な魔物を捕まえてきてもいい。でも、私はその代わりに右手へ魔力を集中させた。

 この方が早いし、ダンジョンの近くにいる魔物が影響を受けていないとは言い切れないからね。


「キリト隊長、それからグリットさん達も、これから目にする事の口外を禁じます」

「は、はい」

「……分かりました」


 普段、貴族然として接する事の少ない私からの命令に、恐れと真剣を綯い交ぜにしたみたいな表情で返事が返る。

 どっち道、機密研究に関わる訳だから吹聴はできない。私も今更彼等に対して自重はしなかった。


 その直後に私の右手に現れたのは赤いビー玉。

 含有魔力が強過ぎるからか、ノーラが少し目を細めるのが分かった。でも実験を見逃さないよう視線は逸らしていない。


「え!?」

「何処から魔石が??」


 この時点で驚くグリットさん達は放っておいて、私は作り出した火属性の魔石を落とす。


 とぷん―――。


 そんな音が聞こえたと思ったくらいあっさりと、魔石は地面に呑まれて消えた。


「……」

「……はい?」


 おっと、これは想定以上。

 結構魔力を籠めたつもりだったのに、転がる暇もなく吸収されたよ。肉体って容器で守られていない魔力の吸収は、強弱関係なく一瞬みたい。


「ダンジョンの中に魔素が無かったからね、私の魔力はその影響を受けていないって断言できるよ」

「……間違いありません。極大の火属性が地属性の地面を擦り抜けましたわ」

「ノーラでなくても分かります。魔石が消滅するとか、悪い冗談みたいですね」

「落ちた時、落ちた時、音もしませんでしたから、地面に接触の瞬間消えたと言う事ですよね……」


 普通は地属性の魔石であっても、染み込むまでもっと時間がかかるものだからね。

 早送りどころか、視界が急に切り替わったみたいだったよ。


「え……と、思った以上にダンジョンが非常識だって事は分かりました」


 うん、私も思い知った。

 私の仮説だけでは全部を解明するのに足りないみたい。


「ちょっと想定をはみ出した部分もあったけど、ダンジョンが魔力を吸収する際、属性の違いによる反発が起こらないって事は分かってもらえたかな?」

「はい、嫌と言うほど」

「確かに、確かに特殊な現象ですね」

「スカーレット様がこの現象に目を付けられたと言う事は、説明できるだけの理論に心当たりがあるのですか?」

「うん、それが本題だからね」


 肯定すると、改めて皆の好奇心が私へ集中した。


 やっと虚属性について皆に開示できるよ。

 そして、呪詛以外で初めて、虚属性の作用する例が見つかったって事も。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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