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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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貴族令嬢はダンジョンへ行きたい

「皆さんにはダンジョンの探索をお願いします」


 これも他の人には頼めない。


 そもそもダンジョンは通路が狭く複雑な構造になっているので、軍のような数に頼る戦術は向いていない。持ち込める兵器は限定されるし、連携魔法みたいな大規模攻撃は味方にも被害が出る。

 分岐も多い事に加えて、魔物を殲滅したつもりでもランダムで生み出されるから後ろから襲われる危険が常に付きまとう。少数で、且つ臨機応変に対応できるだけの経験が求められる。

 元々ダンジョンは冒険者の範疇で、専門に潜るパーティーもいるくらいだからね。


 内部に魔物が蔓延るだけの場所なら放っておけば済むけれど、ダンジョンの中には必ずお宝が点在している。

 地殻が魔物に変化したものだから人を呼び込む為の撒き餌だとも言われるそれらは、宝石であったり特殊な金属であったりと内容は様々だけど、他では手に入らないと言う点で共通している。中には特別な現象を封入した魔道具の原点と言えるものもあるらしい。


 そういった冒険者が憧れてやまない側面もあるのだけれど、国が管理すると明文化されている為、初期調査の段階でそれらを持ち逃げされると後々問題になる。


 そんな訳で、まだ信頼関係を構築できていないパーティーには頼めない。


「正規の手続きを踏めば、見つけたものは俺達の物って事でいいんだよな?」

「でも特例で入る場合は大抵資料として取り上げられるわよ」

「……初探索、名誉」

「そうっスね、最初にダンジョンを調査した実績は残るっスよ。お使いのクラリックは別っスけど」

「ぐ……、パッと行ってパッと帰ってくれば俺もすぐに後を追うさ」

「実より名か。スカーレット様の専属としては、そろそろランクを上げておきたいところだったから丁度良いかもな」

「お宝をたくさん見つけておけば、それだけ実績も積み上がるっスよ」

「そうね、元々十分な報酬は貰っているし、見つけたお宝は魔塔やスカーレット様が活用してくれるでしょう。欲張る必要なんてない」


 未知の場所へ赴こうと言うのに、グリットさん達に不安は見られない。むしろ楽しみにしてるみたい。


「行きたいと思いつつ、何だかんだと機会を逃していたからな」

「……いい機会」

「いつかは挑戦するって決めてたんだから、これ以上の巡り合わせはないでしょう。しかも未知のダンジョンなんて最高じゃない」

「今の待遇に不満がある訳じゃないけど、挑戦を諦めた訳でもないっスからね」


 冒険者にとってダンジョンが特別なものだとは聞いている。


 散々迷わされる入り組んだ地形は精神と体力を削ぐ。格下の魔物であっても足場が悪かったり、障害物に阻まれて武器が振れなかったりすれば、思わぬ危機に陥る場合もあるらしい。深層の魔物が昇って来る事もあるから、本当の意味で安全な階層なんてないんだとか。しかも竜種の目撃報告まである。

 音に聞く冒険者パーティーが戻らなかった話も珍しくない。


 本当の意味で実力が試される場所。

 冒険者の一つの到達点としてグリットさん達も思うところがあったみたい。


「魔道具の原点……わたくしも本で見知っただけですから、是非実物を見てみたいですわ」

「ノーラが鑑定してくれるなら、再現だってできるかもしれませんよね」

「それより、それより私はダンジョンの構造が気になります。広大な迷宮が突然現れるのですよね。もしかして空間魔法の一種ではありませんか?」

「地下空間にしては広大だと言うし、十分にあり得るかも。そもそもダンジョン核を壊せば消えるって不可解さだし」


 ダンジョンに馳せる思いがあるのは私達も同じだけどね。


「ダンジョン核……それがどういったものかも気になりますね」

「一説には、一説には地形が魔物化したものだと言われていますけれど、もしかすると魔道具に近いのかもしれませんね」

「ただの魔石って事はないよね。ノーラに見てもらいたいところだけど、ちょっと現実的じゃないよね」

「過去に踏破できたダンジョンでも、10階層以上あったそうですわ。興味はありますけれど、わたくしがそこまで辿り着けるとは思えません」

「ダンジョン核って持ち運びできないんですか?」

「残念ながら、残念ながら詳細は伝わっていません。攻略されたダンジョンは3つ、国が管理すると決まったのは2つ目が攻略された後ですから」

「最後の攻略だって100年近く前、正確な情報って残ってないんだよね」


 是非ダンジョンを見てみたい。

 できるなら最深部まで探索してその全てを解き明かしたい。


「お嬢様もダンジョン探索へ付いて行こう、なんて考えていらっしゃいませんよね」

「間違いなく危険を伴う場所へ赴くのは許容できません」


 そんな私の野望は、口にする前にフランとキリト隊長から阻まれる。


 キャシー達もそれそれの家人にとても凄味のある笑顔で押し留められていた。あの圧力に抗うのは難しい。


 ま、普通に考えて貴族のお嬢様が行くところじゃないよね。


 でも、それでは私達の好奇心が満たせない。


「ううん、フラン。これは私がやらないといけない事だよ。実験の成功、その為にはダンジョンだって眼を逸らせない。発見が今日ってだけで、いつからダンジョンがここにあったか分からない。つまりフラッス山の周辺はダンジョンの影響を受けているかもしれない」


 だから退けない。


 詭弁であっても理屈を絞り出さないと。


「そうですわ! その影響がフラッス山だけに留まっているのか、周辺の山へも波及しているのかで実験の前提が変わります」


 私の同志達は、すぐに意図を汲んで後押ししてくれた。


「そんな、そんな正確性を欠いた情報では狭域化の効果に不安が残りますよね」

「それにこれは幸運なんじゃないですか? 魔素の減衰がダンジョンに対しても効果があるのか、試す機会でもありますよ!」


 マーシャとキャシーも後に続く。


「そんな事を言って、一番の理由はダンジョンに行ってみたいと言う事ですよね?」


 問題は、(フラン)も私の意図を正しく汲み取っているって事だけど。

 すっごい冷めた目が私を捉える。


「いやいや、大事な事だよ。正確に情報を集める事でダンジョンについての対策が生まれる可能性もあるし」

「それは理解できます。しかしお嬢様を危険に晒す事とは別問題です」

「それも今なら最小限で済むってば。グリットさん達が先行して、キリト隊長達が近くを守る。更に広域を索敵すれば奇襲を受ける危険はほとんどないよ。入り口は兵士で押さえられるし、他の冒険者パーティーの応援だって見込める上、装備も充実してる。こんなに安全対策が揃えられる機会なんて滅多にないじゃない」

「それでもゼロにはなりません」


 ぐ、やっぱりフランは手強い。

 キリト隊長は、それなら……と検討してくれても、彼女が意見を曲げる気配はない。


「それは今でも同じでしょう? 絶対の安全なんてない。でも、今回は最小限の危険を負うだけで大きな見返りがある。私達がダンジョンについて知る事で生み出せるものがある」

「かもしれない、では理由として足りません」

「仮説はあるよ」


 ダンジョンが魔素の作用によって生まれたものなら、私とノーラが直接確認するだけの意義がある。


 半分以上が興味ってだけで。


「その為には実証が必要で、それができたなら多くの人に利益をもたらせる。それは侯爵令嬢(わたし)の役目だよ。それなら多少の無茶は呑まないと」


 しばらく睨み合いが続く。


 フランの事だから、お題目の方がついでだって正しく見抜いていると思う。


 それでも私は退かない。

 ダンジョンみたいなファンタジー存在見逃せない。


「攻略しようって言ってるんじゃないよ。それがどんなものか見てみたい。どういった現象か肌で感じたい。書物で感じた可能性を確認したい。それだけでいいんだよ?」

「…………危険を感じたならすぐに戻ると、約束できますか?」

「勿論」

「……グリット様やキリト様の指示には必ず従っていただきます。それが守れるなら……仕方ありません」

「やった!」


 私が折れる事は絶対ないと感じ取ってくれたみたい。


 うん、私への理解が深いフランが大好きだよ。


「よし! そうと決まったら早速準備しよう。装備を確認して、編隊の方向性を決めて、王国軍と冒険者に協力をお願いして……そうだ、各種測定器も用意しないと」

「お嬢様、王都への報告書を書くのが先ですよ」

「あ」


 そうだった。

 ダンジョン行きが決まった事が嬉しくて気が急いていたよ。


 まずはクラリックさんを送り出さないとね。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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