新装備の応用と思いがけない知らせ
試し撃ちが一通り終わっても、グリットさん達は引き続きはしゃいでいた。
「これを持って討伐に出れば、戦術の幅がぐっと広がるんじゃねーか?」
「後方からの牽制をヴァイオレットだけに任せずに済むしな」
「……弱点、突ける」
「複数の方向から先制攻撃を喰らわせれば、隙も作りやすいっス」
「弾の節約にもなるわね」
パーティの戦術に魔法を取り入れるのは諦めていた烏木の牙だけに、喜びが大きいらしい。
ちなみにオキシム中佐他開発部の面々は、基盤の付与を興味津々観察している。あれはあれで、現状最小規模の付与基盤だから色々参考になるんだとか。
「それだけじゃないですよ。今度は同属性に揃えて一列に並んでください」
「?」
良く分かってないままに5人は私の指示に倣う。
自前の魔法を使い慣れたヴァイオレットさんは、籠手の使用感に少し不思議そうな顔をしているけれど、すぐに慣れるのは私達が実証した。
「皆さん同時に的を狙ってみてください」
それぞれが籠手を目標へかざすところまでは同じ。
けれど炎の矢はグリットさんのところでだけ収束する。その規模は彼一人で形作ったものよりずっと大きい。
「まさか、連携魔法ですか!?」
「ええ、その通りです」
機構への興味から引き戻されたオキシム中佐が驚愕の声を上げた。
私はその驚きを肯定する。魔道具で連携魔法を再現した報告例はない。
「基盤の付与を揃えていますから、あの籠手で発動する魔法は全て同一のものとなります。イメージを重ねるまでもなく、一定距離で共通の標的を狙った場合は自然と魔法が融合します」
「あはははは! こりゃ凄ぇ」
「確かに凄いけど、リーダーだけズルいっス」
「魔力は流れてるのに肝心の魔法はグリットだけが扱えるって、納得いかねーな」
「はっはっは、リーダー特典ってやつだな」
連携魔法の制御は発動させた中で一番魔力が多い人が担うってだけだけどね。
普段、強化魔法しか使ってないけど、魔力量はヴァイオレットさんより上なんだと明確に分かった。
「って、どんどん大きくなってるじゃねーか!? 誰だ、際限なく魔力を注いでる奴は?」
「……大きい、正義」
「馬鹿はアンタか、ニュード!? 試し撃ちだってのに、限度を考えなさい! 危ないでしょうが」
「あー、気を付けてくださいね。誰かが過剰に魔力を籠めると、それに釣られて他の人からも多めに流れますから」
「スカーレット様、注意喚起が遅いっス!」
グラーさんが悲鳴を上げるけど、いざとなったら私が相殺すればいいから特に慌てていない。
「大丈夫だ、任せろ。行っけえぇ! ファイヤーアロー!!」
大興奮のグリットさんは突然の大規模魔法に臆すことなく、的を射抜いて見せた。ミサイルみたいな火矢が直撃すると、炸裂音と共に炎の柱が噴き上がった。
当然、木で仕立てただけの射的は痕跡も残さず燃え尽きる。
彼等の魔力が多いって事もあるけど、改めてとんでもない威力だね。
「堪んねぇな、この爽快感!」
「1人で浸ってないで替わりなさい」
「いやいや、狙撃って役目がある姐さんよりオレ達が優先っス」
「……次、もっと大きく」
「こいつ、懲りてねーな。それより別の属性も試そーぜ」
新しいおもちゃを見つけたと、再び籠手を中心に人が群がる。羨ましそうな視線も多い。
開発部組も、構造への興味は置いておいて連携を試そうとあーだこーだと順番で揉めはじめた。
「グリットさん達にはこのまま貸し出しますから、明日からの討伐で使ってください」
「「「「やった!!」」」」
「その代わり、使用感と用途例をまとめた報告書を提出して下さいね」
「……はい」
喜びは揃って分かち合うのに、報告書を約束してくれるのがヴァイオレットさんしかいないのはどうしてだろね。
「スカーレット様! おいくらでその魔道具を買えますか?」
なんて声を掛けてきたのはサンさん。
協力してくれている金剛十字ってパーティのリーダーを務める人。パーティーのランクはAで、烏木の牙より実績は上だけど、結成が同時期で共同で依頼を受ける事も多かったらしく彼等と仲がいい。
見るからに冒険者って印象のグリットさんと違って、サンさんは線が細くて一見術師に見える。顔も中性的だけど、ゴリゴリのパワーファイターだとか。得物は大剣で戦い方が似ている事からも気が合ったらしい。
パーティーは21人と、烏木の牙と違って大所帯で組んでいる。
「うちには術師タイプも万能タイプもいますが、扱える属性が増えれば請け負える仕事の範囲がぐっと広がります。是非、俺達にもその籠手を譲って欲しい!」
熱弁されると応えてあげたい気持ちもあるけれど、残念ながらウォズがいないから適正な価格をつけられない。
それ以前に、試作品の域を出ていないものだから売ったりしないけどね。
「申し訳ありません。まだ完成とは言えない代物ですので、お売りできません。その代わり、実験の間お貸しする事は可能です。グリットさん達同様に報告書の提出をお願いする事になりますが、それで良ければ是非実践例収集にご協力ください」
「やった! 喜んで協力させてください」
彼等は書類仕事を嫌がらないんだね。パーティーが多いからそういう担当の人もいるのかな。
それを知った他の冒険者パーティーも次々押し寄せて来た。報告書に期待できなそうなところもあるけど、十分な人数が確保できるなら問題ない。逆にきっちりしてそうなパーティーもいるし、グリットさん達は逃がさないからね。
その様子を軍関係者は物欲しそうに眺めている。
貴方達は上官を説得してね。
「あの、開発部は……」
「勿論貸し出しますよ。上を黙らせるだけの実績を集めてくださいね」
「あはは……善処します」
オキシム中佐達には私達とは違った視点でデータを集めてもらいたいからね。
「練習着で術師を万能タイプに引き上げた次は、属性すら飛び越えた術師要らずの魔道具ですか。戦争が変わりますね」
「その為の用例作りはお願いします」
そうすれば将軍達が兵の運用を見直してくれる。
「しかし、連携魔法には術師同士の接触が必須と聞いていましたが、魔道具だと異なるのですか?」
「同属性同士の引き合いを利用したものです。人のイメージを介さない分、魔法が干渉しやすいのでしょう。従来ですと、イメージの差異が壁になるのだと思っています」
「なるほど、興味深い仮説ですな」
呪詛のように、人の精神性と魔法には繋がりがあるんだろうね。
なんて中佐と話していると、随分大慌てで向かってくる飛行ボードが視界に入った。
今は主に伝令用に使っているから、それだけ急ぎの報告って事だよね。
しかも、大佐のいるテントの方じゃなくて、私達の居るウェルキンへまっすぐ飛んでくる。
「どうもただ事ではないようですな」
中佐のセリフはまんま私の印象だった。
厄介事の予感がして、つい身構える。
けれど、転がるようにボードから飛び降りた兵士がもたらした情報は、そんな私の警戒範囲を大きく逸脱したものだった。
「申し上げます! 北の山岳部を探索中、ダンジョンを発見しました!」
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。
今後も頑張りますので、宜しくお願いします。




