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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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大佐の言い分と私の主張 2

「逃げる!? 我々軍人に逃げろと言うのか? 敵に後ろを見せろと!?」

「はい」

「な……!!」


 明確に肯定したら、また大佐の動きが止まった。

 そんなに度々処理落ちするような話かな?


「軍規については調べたような事を言っておいて、敵前逃亡を推奨すると? 正気か?」

「時と場合によっては軍法会議ものだと言う事くらいは知っていますよ」

「ならば何故? 貴女が責任者だからと目をつぶれと?」

「そんなつもりはありませんし、必要もありません。そもそも、この場合の敵とは何ですか?」

「は?」


 あれ? また固まった。


 今度は少し長いかな。

 昔のゲーム機みたいだよね、なうろ~でぃんぐ~……って感じで。私がしゃべる度に動作が止まる大佐の様子で、エンカウント毎にディスクの読み取り音が聞こえたRPGを思い出したよ。


「質問を変えましょうか。大佐達にとって戦う理由とは、命を賭ける動機は何ですか? 兵士は何の為に武器を取るのでしょう?」

「……決まっている。国の為だ。将来この国を踏みにじるかもしれない敵国を討つために、日々鍛錬を積んでいる」


 私的には国を守る為であってほしいけどね。

 まあこの際、いいや。


「では、ここで魔物相手に散る事が国の為になりますか? ここが最期の場所になって、軍人として満足ですか? それはこれまで積み上げてきた鍛錬に釣り合いますか?」

「そうは思っていない。だから儂はこの遠征に不満があった。こんなところで死ぬ為に軍属となった訳ではない。だからと言って、敵に背を向ける事は話が違う。不本意であっても、魔物を討つ事で国に貢献できるのだろう? ならば退く事など許されない」


 どうも根本から擦れ違っていると、漸く気付いたよ。

 むしろ、今の時点で気付けて良かった。この相違は正しておかないと。


「これが間伐部隊ならそうでしょう。魔物の氾濫への対処などでも同じです。貴方達が身体を張る事で誰かを守れる。魔物が討つべき対象となり、その討伐が国へ貢献と言えます。ですが、今回の遠征は実験です」

「どう違う? 煩雑な手順があるだけで、魔物を狩る事に違いはないだろう?」

「いいえ、明確に違います。魔物の討伐は必須ではありません。アドラクシア殿下に相談し、議会の承認を得て実験の開催が決まりました。土地を持つ多くの貴族も注目していますが、彼らの関心は実験の成否だけです。どれだけ魔物を倒そうと、国の利益には繋がりません」


 魔物をたくさん倒したからって評価は得られない。

 むしろ、無理をして戦力が減って失敗の要因となったなら、王国軍は間違いなく批判を受ける。


「だが、実験成功の為には魔物を狩る事は避けられまい。先程確認したばかりではないか、トゥーム山の魔物を殲滅すると。それを遂行する事は国への貢献ではないのか? その為には多少の無茶も必要だろう? 使命が明確である以上、逃げるなどできる筈もない」


 やっぱりそう考える訳だね。


 任務遂行の障害になるから魔物は敵で、それを討つのを絶対と考える。敵であるなら逃亡は絶対的な罪で、討伐を叶える為なら無茶や無謀も当然と受け入れる。

 そんな思考回路が染みついているみたいだね。


 はあ~~~~~~。


 深く深く溜め息を吐いた。

 嫌な顔をした人もいたけど知らない。私がどれだけ呆れたかを知ればいい。


「ですから先程こうも言いました。都度報告をお願いします、と。どうして初めから逃走の選択肢を消して、無茶が前提になっているのでしょう? 大佐はかつて冒険者だった筈ですよね? その頃から強力な魔物に出会ったなら、まず命を捨てる覚悟をされていたのですか?」


 何でゲームの縛りプレイみたいな事を現実で課しているのかな。


「冒険者だった頃は個人で責任を負えた。しかし、軍人として命令を受けた以上はその遂行の為に全力を尽くさねばなるまい」


 阿呆か。


 口に出さなかった私を褒めてほしい。

 完全に責任を履き違えているよ。


「無理と分かったなら、難しいと知ったなら、一旦退いて態勢を立て直し、情報を集めて対策を立てて、必要なら人員と武器を集めて、できるなら安全策まで考慮して作戦を練り直すのが、全力を尽くすと言う事ではないのですか? もしも北の山からドラゴンが下りてきた場合でも、碌に対策を立てないまま突っ込むつもりですか?」

「ぐ……、ぬ、……それは例えが極端すぎないか?」

「そうでしょうか? フラッス山の北東、ダーハック山には竜が棲むと有名ですよ。ではどこで線引きするのでしょう? 混成獣(キマイラ)ですか? 鷲獅子(グリフォン)ですか? 例えゴブリンであっても、群れの規模によっては手に負えない事も考えられますが」

「だが、そうした強力な魔物がいたとしても、全て討たなければ実験にはならないのだろう?」


 そんな訳あるか。

 歴史上の討伐実績が両手で数えられるような化け物を、誰が相手にするのさ。避けるに決まってる。


 誰かが倒してくれるなら、素材は欲しいけども。


「何の為に私が実験に同行したと思っているのでしょう? 計画はあくまでも難題が持ち上がらなければの話です。それを都度修正する為に、私はここに居るのではありませんか」


 だから報告を寄越せと言ったのに。

 話、半分未満にしか聞いてないよね。


 リグレス大佐、彼が英雄である事は間違いない。

 その実績は否定しない。


 でも当人は思った以上にポンコツだった。

 思い込みと理想論だけで軍人を続けている。17年前含めて実戦経験は多いのだろうけれど、それが指揮官としての才覚に紐づいているとは思えない。自己評価の正確性も怪しいよね。

 何が何でも任務を遂行しようとする姿勢は、人によっては頼もしく思えるかもしれない。でも私はこの人の部下になるのは絶対に嫌です。


 絶対命中なんて特殊魔法があるせいで、それを生かした成功だけが目立って、実態が隠されてしまっているんじゃないかな。

 少なくとも私は大佐に実験を任せられない。


「実験に必要な人員として、私はカロネイア将軍から、国からこの大隊を借りています。私は借りものを粗雑に扱うつもりも、徒に数を減らすつもりもありません。私の手足として労働力の役目だけを求められたこの実験で、活躍しても私の功績にしかならないこの遠征で、無駄に命を散らすような事はしないでください」

「そうは言われても、軍人として退けぬ場合も……」

「それは何の為の自尊心ですか? 戦場でなら名誉であっても、この辺境で魔物に囲まれて命を張る事が勇ましいとは思えません。貴方達の任務は実験を成功させる事、この場合の敵は実験を妨げる要因全てです。避けられるなら必ずしも魔物が敵とは限りません」


 今、まさに大佐達が敵になりかけていると知ってほしい。


「その大層な思想は、もっと別の場所で生かしてください。それでも受け入れ難いというのなら、この大隊の責任者として命じます! 生き延びる事を最優先で考えてください。身の危険が迫ったのなら逃げてください。この実験で命を賭ける事を禁じます!」


 何でこんな事を、と思うよね。

 でもはっきり公言しておかないと、明日にでも何人か減りそうだよね。嫌だからね、そんなの。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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